突然の退院と不穏な予感

それは唐突だった。

俺はいつも通り目覚めた。

今日寝たのは日がだいぶ昇っていた時だ。

少なくとも入院してからはいつもより遅かったと自覚してる。

それでもいつも通り、6時頃に起きた。

そして感じた。


「うん?痛くな………イダダダダダダッ!!!」


意味わからない位の痛みを。

とにかくその痛みで事故の大怪我が更に酷くなったのかと感じた俺はなんとか枕元に置かれているナースコールを押した。

すると直ぐにナースさんが来てくれて俺は検査のために運ばれて行くのだった。











「ねぇ、空くん。僕はさ、すでに君には少し驚かされているんだよ?わかるかい?」


「え~っと何の事でしょうか………」


今の俺の現状を説明しよう。

現在俺は検査を一通り受けさせられた俺は病室でベッドに寝かされている。

そして俺の担当医である茶髪で清潔感のあるベリーショートで白衣を着ている境大和先生が寝かされている俺、俺の事で説明したいと呼び出された保護者である俺の爺ちゃん、神山剛蔵に説明を始めた。


「はぁー、全く君は本当に僕を困らせてくれるね」


「いや、なんかすみません……」


「そ、そんなことより先生!何か空に問題でもあったんですか!?」


なぜか大きなため息をついた境先生にとっさに先生の様子を俺が心配で


「いやいや、そういう事じゃないんですよ。まぁ端的に言ってしまえば空くんはの体は健康そのものですよ」


境先生の言葉を聞いて、俺も爺ちゃんもポカンとする。


「え、でもさっきまで痛みがめちゃくちゃ凄かったんですよ?」


これは嘘ではない。

だいぶ痛みに慣れて喋れるようになってきたが体が痛いのは変わらない。


「そうですよ先生!!ワシが呼ばれたということは何かあったという事なんでしょう!」


爺ちゃんも納得いかないのか境先生に向かって叫びだす。


「まさに、そこなんですよ剛蔵さん」


「………は?」


爺ちゃんが境先生に指摘されたことで呆けたような表情を見せ、呆けた声が聞こえる。


「確かに空くんの体に何も異常がないんです。あってせいぜいその酷い筋肉痛くらいですかね」


「ど、どういう事ですか先生!俺に異常がないって言うのはあり得ないでしょ!」


流石に俺も訳がわからず叫ぶ。

だってそうだろ?

あの激痛は明らかにおかしいしそれに俺は事故で大怪我をしていたはずだ。

それなのにどうして……


「はい。だから言ったでしょう。『君はすでに驚いている』と。つまりそういう事だよ」


「…それはどういう事何ですか」


「………うん、それはだね。実は空くんの体の傷は全て完治しているんだよ」


「……………………はい?」


今境先生は何て言ったんだ?

俺の体の傷が治っているだと?


「ふぅー、まさかここまでとは思わなかったけどね。君が入院してから死にかけていたはずの君が次の日にはもう目覚めていたり、喋れるくらいには回復していたりと君には驚かされた」

「そして次は昨日まで確かに負っていたあの大怪我が傷一つ無くなっていたんだから本当に驚かされたよ」


境先生はそう言いながら持ってきていたコーヒーを飲む。

しかし俺はそれどころではなかった。

何故なら、

(いやいやいやいやいやいや!!!)

心の中で絶叫する。

そりゃあ確かに事故にあって全身大怪我を負ってたし病室で意識が戻ったのも覚えてる。

だけど今はどうだ?

境先生の言っていることを信じるのなら昨日まであったあの大怪我が全部治っていて今は筋肉痛が酷いだけという事だ。


「うむ、とりあえず空。お前が無事だったことは本当に良かったぞ」


「いや!待ってくれ爺ちゃん!俺全然意味わかんないんだけど!」


「………意味わからないのは僕が言いたいよ空くん」


「……へ?」


「君の今の状態ははっきり言って異常だ。確かに空君の怪我が治った事は大変喜ばしい。たが、昨日あった大怪我がいきなり治るなんて事はあり得ないんだ。これが知られたら空君、君を調べるために解剖しようなどという輩が現れるかもしれないんだ」


「………」


「だからこそ僕は君を守る為にこうして話しているんだ。そして剛蔵さんにもね」


境先生が真剣な目つきで俺と爺ちゃんを見つめてくる。

その様子に俺は何も言えなくなってしまった。

爺ちゃんも同じだったようで黙ってしまった。

確かにいま考えてみるとあの夜、【吸魂】スキルを使った後ステータスを確認したときあそこまで減っていた体力がマックスまで回復していた。

あの状況だとレベルアップで回復したのか【鑑定】で確認しきれなかった【吸魂】スキルの効果があったのかもしれない。

だけどこれらは俺だから知っていることだ。

境先生も爺ちゃんもどっちも俺にレッサーレイスが統合されたこともステータスも知らない。

端からみたら俺は大怪我が僅か1日で回復する超常的な回復能力を持っているように見えてしまう。


「まぁでも安心してくれ。僕としては今回の件はあまり公にしないつもりだし、」


「……分かりました。ありがとうございます」


俺がお礼を言うと境先生はニッコリ笑ってくれた。


「よし!じゃあそろそろ次の話をしようか!」


「…うん?次の話?」


「まだ何かあるのですかな?」


「ええ。まあ、申し訳ないんだけど空くんには怪我が治ったってことで退院してもらいたんだ」


「はい?」


境先生の言葉に思わず聞き返してしまう。

いやいやちょっと待て! 確かに大怪我は治ったが別に俺の体はまだ本調子じゃない。


「いや、でも先生。俺はこの通り体が痛くてまともに動けませんよ?」


「ああ、大丈夫だよ。今日中には動けるようになるはずだから」


「はい?」


「ふむ……なるほどな」


「爺ちゃん!?納得してる場合じゃないだろ!」


どうやら爺ちゃんは医者はなんでも治せるって思い込み始めてるっぽい。


「でも、境先生。いきなり退院ってどういう事ですか?普通は退院するってなってからも何日か猶予があるんじゃないんですか?」


実際治ったからってこの扱いはおかしいだろう。

俺に何も問題が無いとしても病院で検査をしたりするはずなのにそれをせずにいきなり退院とかありえないだろ。


「うん、そうなんだけどね……空くんは楽泉山の事は知ってるよね?」


「まあ、それはもちろん。すぐそこの山ですし、よく登山客が来てますし森のキャンプ地に人を良くみますし」


楽泉山とはここから病院から歩いておよそ10分くらいのところにある山だ。

その麓の森にはキャンプ場があって夏になると多くの観光客がキャンプをしに来るのだ。

俺もよく子供の頃は親父に連れられて行ったことがある。

爺ちゃんも若い頃はよく行ってたらしい。


「それがね、実はあの山に少し厄介なことが起きていてね。最近登山客が怪我をして運ばれてくる事が多くなっているんだ」


「え?そんなことあり得るんですか?」


俺が知る限りあの山はそこまで危険なところではない。それに今の時期ならそんなに人が多くないはずだ。

それならわざわざ怪我人が増えるなんてことはないと思うのだが。


「うん、本来ならあり得ないことだ。しかし実際に怪我人は増えているんだ。しかも怪我した人は地面に作られていた穴や草が結んであって転んで崖に落ちてしまったり頭を打ってしまう人が多いんだ」


「……つまりその事故が多発することに対して警察が調査をしていると?」


「そうだよ。それで僕達も調べて見たら分かったんだけど、どうやら誰かが意図的に事故を起こしているみたいなんだよ」


「……まじすか」


……正直信じられない。

だが、境先生はこんな時に嘘をつくような人間ではないだろう。


「まあ、まだ詳しいことはわかってないらしいんだけどね」


「随分物騒ですな………まあ、そういうことなら仕方がないでしょう。空、動けるか?」


「う、うん。多分動けると思うよ」


「ごめんね空くんこっちの都合なのに「境先生!急患です!」おっと」


突然病室の扉が開き、看護師さんらしき女性が慌てて入ってきた。


「わかった。すぐに行くよ!……というわけで僕達はもう行かないといけなくなったからこれで失礼するよ。あっ空くん、定期的に病院には検査しに来てね。なにかあってからじゃ遅いから」


そう言って境先生と看護師さんの二人は急いで部屋から出ていった。


「……」

「……」


呆然としてしまったがとにかく今は。


「………帰る準備始めるね」


「………うむ。そうしようかのう」


退院の準備をしようか………

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