天秤
赤いフラグと青いフラグ。それを立てる事で天秤を調整するのだという。
怖い話か何かに出てきそうだ。
赤が死亡フラグで、青も死亡フラグみたいなやつ。
でもそれじゃあ調整にならない。別の要素を持つ二種類でないと、均衡をとるとらないの話にはならない。
「分かりやすいようにフラグとしましたが、実際のところをフラグじゃなくてもよいというか。キャンディでも良いし、目に見えない目印的なものと思っていただいて。赤と青というのも分かりやすさ重視で言ったまでで、これは色の概念からも外れているので、何色でもないんです」
「はぁ」
質問に答えてもらっておいて、申し訳ないが、気の抜けた返事しかできなかった。
「それが……大事……なんですね」
「大事です」
しかし派遣天使はそんな私の様子を気にする事なく微笑んでいる。
「生きるとか死ぬとか、成功するとか失敗するとか、そういう即時的なものではなく、時間的尺度にしてみても、人間の寿命で考えるとわりと長い間にゆっくり作用していくようなものですし、みなさんが分かりやすく一喜一憂するようなものではないんですけど……」
抽象的すぎる。
「でもやっぱり、そういうものがあったり、途中で変更が加えられたりするとなると、それ相応に心配になるものですかね」
「まぁ。なんとなく……」
「そんな感じで十分です。人間のみなさんにしてみたら、ホントそういう程度の影響しか出ないはずなんですよ。個人レベルの話にしてしまうと」
彼の言っている事が本当なら、知らない間に私たちの運命は操作されているという事になる。
神様とか神様の使いである天使が、それらを行っている。
神様ってつまりそういう存在だろうし……。
しかもそれが、気にするほどの事でもないレベルで影響しているらしい。気にはなるけれど。
個人レベルのちっぽけな話じゃないって事だ。
「神様かぁ。規模が大きすぎて想像もできない」
「他に質問ありますか?」
「たぶん、守秘義務に違反しちゃうんで」
「お気遣いありがとうございます」
全てが真実として、天使の仕事について、人間に話した事は問題じゃないんだろうか。
それとも、この程度の事は、ちっちゃな問題に過ぎないのだろうか。
私はちらりと天使を見た。
思考を読めるはずの彼は、それでもこの疑問に対しては返事をしなかった。
2006年春の、私の人生で最も不思議な出来事だった。
天使のお仕事 ひさ @higashio0117
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