第14話:舞踏会1

「ボリングブルック女子爵、もう一曲踊ってくれるかな」


 私が新たな王家医師に就任しただけでなく、実家から独立して子爵に叙爵された事、しかも王命を騙った罪で取り潰しになったボリングブルック子爵を継ぐ形で、領地も屋敷も財産も手に入れた事を披露する舞踏会が開かれました。

 当然ですが、その主役は私しかいません。

 ヘンリー第三王子の婚約破棄事件は、ゴシップ大好きの貴族や騎士によって尾鰭が付けられ、平民の女性たちによって原形をとどめないほどの怪魚にされ、稲妻よりも早く国中に広まってしまいました。


 一大スキャンダルの被害者として、私は既に国一番の有名人なのです。

 そんな私が、今度はロジャー第一王子とビゴッド第二王子の連名で、ボリングブルック女子爵に叙爵されるのです。

 今までヘンリー第三王子派だと思われていたデヴォン伯爵家は、ロジャー第一王子派に鞍替えすると宣言したも同然です。


 いえ、そんな状態を見せつける事で、ロジャー第一王子はヘンリー第三王子派を切り崩して、国内で流れる血をできるだけ減らそうとされているのでしょう。

 ロジャー第一王子の考えは理解できますが、全ての貴族に見せつける為だとしても、連続してダンスを誘わないでください。

 婚約者や兄弟姉妹でもない者が、連続してダンスを踊ると言う事は、プロポーズしていると歪曲される可能性があるのです。


 今回は、私の叙爵を祝い披露する舞踏会ですから、大目に見てもらえるでしょうが、そうでなければロジャー第一王子の正室の座を狙う多くの貴族家から、十を超える刺客が私に放たれている所です。

 あ、勘の悪い令嬢が誤解してしまったようで、とても驚いた顔をしているではありませんか、全部ロジャー第一王子の所為ですからね、私は悪くないですからね。


「ボリングブルック女子爵、もう一曲踊って……」

「ロジャー殿下、連続二曲は我慢しましたが、三曲は絶対許しませんよ。

 次に姉上とダンスを踊るのは僕ですよ、ねえ、姉上」

「ええ、そうね、幾ら何でも、婚約者でもないのに連続三回も踊れませんわ」


 なんて表情をしているのですか、ロジャー第一王子。

 そんな不貞腐れた表情をしたら、お気に入りの令嬢を横取りされた嫉妬深い男性に見えてしまうではありませんか、これ以上敵を作る気はないですからね。

 幾らヘンリー第三王子を切り崩したいからと言っても、やっていい事と悪い事の区別くらい付けてください。

 もう今日は絶対にロジャー第一王子とは踊りませんからね。


「姉上、このままずっと踊っていませんか。

 そうすれば変な虫が姉上に近づいてくる事もありませんよ」


「ライアン、それは幾ら何でも口が過ぎますよ。

 ロジャー殿下は、国民が戦争で苦しまないように、一生懸命にヘンリー殿下の派閥を切り崩そうとされておられるのです。

 それに巻き込まれるのはとても不本意ですが、ロジャー殿下の国民を想う気持ちを無視して、厳しく批判するのはいけない事ですよ」


「……分かりました、確かにそういう面もありますから、もう虫扱いはしませんが、ずっと姉上とダンスを踊りたいと言うのは本気ですよ」

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