第13話:実働部隊

「ああ、待って、何も姉上が国王陛下のお世話をする事はないからね」


「何を言っているの、ライアン。

 何時どのようなものが刺客として送り込まれてくるか分からないのよ。

 昨日まで忠義を尽くしてくれていた者が、大切な人を人質に取られれるかもしれないし、欲に目が眩んで刺客になってしまうか分からないのよ。

 私とライアン以外の人間に国王陛下のお世話を任せる訳には行かないわ」


「姉上が気真面目な性格なのは以前から知っていましたが、少しは融通を利かせた方がいいですよ。

 それに、先のボリングブルック子爵だって、自分で国王陛下のお世話をしていたわけではなく、王家の侍女や侍従にさせていたと聞いているよ」


「だから、その連中がマージョリー王妃の息がかかっているから心配なのでしょう。

 ライアンは、ロジャー殿下やビゴッド殿下とはダンジョン仲間だと言うけれど、ちゃんと話を聞いていたの、心配だわ」


「いや、だから、何もその連中を使えと言っている訳じゃないよ。

 家に仕えている侍女や従僕を連れてきたらいいと言っているのさ。

 あいつらなら、元々敵に通じないように万全の態勢を整えている。

 家族や恋人は、全て屋敷で匿っているから、人質に取られる心配がない。

 それにあいつらなら、例え家族や恋人が人質に取られたとしても、俺達を裏切ったりはしないさ」


「ライアンの言う通りだけれど、今までは私達だけを狙う敵だから大丈夫だっただけで、狙う相手が国王陛下になったら、危険が比べ物にならないわ」


「それは分かっているよ、でも大丈夫だよ。

 姉上は勘違いしているようだけど、家の連中かなり強いのだよ」


「……家が他の貴族家や騎士家と戦った事があったっけ」


「いや、直接他家と戦ったことがなくても、家臣領民の強さくらいは分かるよ。

 姉上は家が貧乏だと思っているようだけど、違うからね」


「でも、マージョリー王妃やヘンリー殿下に、先祖代々蓄えてきたお金や食糧を。全て毟り取れたのではなくて」


「確かに人のいい父上や母上は言われるままに家財を差し出したけれど、それでも家訓である領民を大切にする事は守っているよ。

 税を上げる事も臨時税を徴収する事もなかったから、領内はとても豊かなんだよ。

 領民達も領内の決まりを守って、非常時には領民全てが武器を取って戦う覚悟でいてくれるし、どの家も三年分の食糧を備蓄してくれている」


「それくらいは私も知っているわよ、ライアン。

 でもうちの領民は領主に似て人がいいから、とても人殺しなんてできないわよ。

 他人を殺さなければ生きて行けないような領地の民に襲われたら、ひとたまりもなく殺されてしまうのではなくて」


「姉我が家は長年善政を行ってきたから、領民達からとても慕われているからね。

 父上と母上が、マージョリー王妃達からお金を毟り取られているのを知った領民達が、進んで寄付を申し込んでくるような領地なのですよ。

 こちらからヘンリー殿下との婚約を解消した場合に、難癖をつけてきた王家軍と戦う時の為に、領民全員がダンジョン入って戦闘力を高めてくれていたのですよ」


 私、何も知らなかったのですね。

 これでは父上と母上をお人好し過ぎると笑っておられません。

 私こそ、大切な事を何も知らなかった大間抜けではありませんか。

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