第15話:舞踏会2

「ライアン、幾ら弟とは言っても、三度連続でダンスを踊るのは、やり過ぎだよ」


 そう静かにライアンを窘めたのは、他の誰でもないビゴッド第二王子でした。

 私とライアン、それにロジャー第一王子まで舞踏会場にいるので、ビゴッド第二王子が国王陛下を護らなければいけなくなったはずです。

 そのビゴッド第二王子がここにいると言う事は、今は誰が国王陛下を護っているのでしょうか、とても心配です。


「ビゴッド殿下、この会場には、謹慎処分となっているヘンリー殿下とマージョリー王妃が来ておられませんし、姉上とロジャー殿下をとても恨んでいるハンティンドン伯爵も来ていないのですよ。

 そのような危険な状況で、国王陛下の側を離れていいと思っているのですか」


 私の言いたかったことをライアンが怒りの籠った声で言ってくれました。

 ライアンは怒るのはもっともな事です。

 王家の忠誠を誓う貴族家の後継者としても、王家から叙任された誇り高い騎士としても、ビゴッド殿下に諫言して当然です。

 それに、自分で口にするのは少々恥ずかしいですが、ライアンは小さな頃から私を大切にしてくれてきましたから、私が危険な状態になる事を絶対に許さないのです。

 国王陛下に何かあったら、私が非難され罰を受ける事になるのですから。


「国王陛下の護衛なら、兄上の側近が代わってくれましたよ」


「ビゴッド殿下はロジャー殿下を脅かされたのですか」


「脅かすなどと、物騒な言葉を使わないでくれますか、ライアン。

 私だって偶には美しい令嬢達を踊りたいと思うのですよ」


「尻軽で騒がしいだけの令嬢など虫唾が走る、と言われていたではありませんか。

 今更考えを変えるなど、王族として如何なものでしょうか」


「ええ、確かに、尻軽で騒がしいだけの令嬢には虫唾が走ると言いましたし、今もその気持ちに変わりはありません。

 ですが、ライアンの姉であるアグネス嬢は尻軽なのですか」


「ビゴッド殿下、幾ら王族でも言っていい事と悪い事がありますよ。

 姉上を尻軽と言うなら、命懸けの決闘を覚悟してもらう」


「人の話は、ちゃんと聞きなさい、ライアン。

 私はライアンにアグネス嬢が尻軽なのかと聞いているのです」


「違うに決まっているだろう、糞王子」


「だったら私が嫌う理由などないでしょう。

 嫌っていない令嬢のハレの舞踏会で、ダンスを申し込まない方が失礼でしょう」


「……相変わらず口が上手いですね、ビゴッド殿下」


「先ほど糞王子と言った事は聞こえなかった事にしてあげます。

 さっさと私にダンスパートナーを譲るのです、ライアン卿。

 それとも、ここで不敬罪になって、アグネス嬢と一緒に登城できないようになりたいのですか」


「相変わらずいい性格をされていますね、ビゴッド殿下」


「アグネス嬢の王家医師就任とボリングブルック女子爵位叙爵を祝う、とても大事な舞踏会ですから、今の言葉は褒め言葉と受け取っておきましょう。

 ボリングブルック女子爵、私と一曲踊っていただけますか」


 ライアンがとんでもない失言をしたのに、同じ場所にいたのに、あまりにテンポの好い会話に、止める事すらできませんでした。

 この二人が、普段から言葉を飾らずに本音で会話していたのが分かります。

 命懸けでダンジョンに入る仲間ならば当然でしょうが、公の舞踏会場でそれをやられては、何時介入すればいいのかさっぱり分からず困ってしまいます。


 ですが、最後の最後にビゴッド第二王子が公式に言葉を咎めた以上、ライアンが図に乗り過ぎたとしか言いようがりません。

 その代償が私とのダンスを認める事というのが、全く意味が分かりません。

 一つだけ分かっているのは、私には断る権利がないと言う事です。

 ライアンが公式に咎められるのを見過ごすわけにはいきませんし、自分を護る盾でもあるライアンを側から離す勇気もありません。

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