第11話:護衛騎士

「ライアンは伯爵家の次期当主とは別に、独自で騎士に叙任されている。

 本来の子爵待遇とは別の立場で王城に出入りする事ができる。

 しかも王家医師となったボリングブルック女子爵とは姉弟だ」


 ええと、わざわざ女子爵と言ったという事は、私の事ですよね。

 先の王家医師だったモウブレーの事を言っているわけではないですよね。


「それは、姉弟として一緒に王城に来て、国王陛下を護れと言う事ですか」


「そうだ、自分達が強引に推薦した人間が王家医師だったときは、間違っても国王陛下を殺すわけにはいかなかった。

 だが、俺の推薦したボリングブルック女子爵に王家医師が代わった途端、国王陛下が崩御されるような事があれば、堂々と俺を非難する事ができる。

 国王暗殺をした俺を討伐すると言う名目で他国と同盟を組んでだ」


 やっぱりそうなるのでしょうね、それくらいの事は分かっていました。

 私だって普通に貴族令嬢の教育を受けてきましたから、貴族令嬢として知っておかなければいけない事は理解しています。

 場合によったら、家を残すために仕える主君を裏切り、他国に切り替えなければいけない事くらい、最低限の常識として知っています。

 しかも、とても出来の悪いうえに強欲なヘンリー第三王子の婚約者にさせられていましたから、最悪貴族位を失う事も考えて知識と技術を習得していたのです。


「そのような危険な企みに姉上を巻き込む事は絶対に許せない。

 そこまでして王家に忠誠を尽くさなければいけない義理はない」


「ちょっと、ライアン、幾ら何でもそれは不敬すぎます」


「構わん、ボリングブルック女子爵。

 俺もライアンの立場だったら、同じ事を口にしていた。

 だがライアン、本当にそれがボリングブルック女子爵を護る事になるのか。

 今更俺から離れても、マージョリーとヘンリー、デイヴィッドとジェーンの恨みはなくならないぞ。

 貴族位を捨てて他国に行き、冒険者や治癒師として生きて行こうとしても、執念深い四人はどこまでも刺客を放ち続けるぞ。

 そんな状態で、ボリングブルック女子爵が幸せになれると思っているのか。

 それならば、正面から四人を完膚なきまで叩き潰した方が安全で、ボリングブルック女子爵も幸せになれるのではないか」


 とても驚きました、ロジャー第一王子がこれほど饒舌だとは知りませんでした。

 しかも言葉に真心がこもっているように聞こえます。

 本当に私の事を心配してくれているように聞こえます。

 このような言い方をされたら、ライアンも説得されてしまうかもしれません。


 ライアンが頑張ってくれて、王家医師の大役に就かなくてすむのなら、それが一番ですが、そのためにライアンがロジャー第一王子に殺されるのは嫌です。

 国王陛下が暗殺されてしまうのを見過ごす事も嫌です。

 ヘンリー第三王子達に陥れられて貴族位を失い、大陸を逃げ回るのは、名誉と誇りを踏みにじられるのと同じで、心が耐えられないでしょう。


「僕も四六時中起きていられるわけではないのですよ、ロジャー殿下。

 姉上だけに国王陛下の警護を頼むのは危険過ぎますし、二人では不可能です」


「そのような無理をさせる気はないから安心しろ、ライアン。

 基本二人は王家医師が出仕する時間だけ王城にいればいい。

 それ以外の時間は、俺とビゴッドが国王陛下を護る。

 どうしても二人とも手が離せない時は、信用する近衛騎士に警護させる。

 二人には俺とビゴッドに負担を少しでも減らして欲しいと思っているのだ」


 自分達の実母を蔑ろにした国王陛下でも、実の父親である事は変わりません。

 ヘンリー達に謀殺される事がないように、兄弟で見守る心算なのですね。

 ですが、国王陛下が寝込まれたままの状態では、誰かが代わって王国の政務をしなければいけないのです。


 それができるのは、ロジャー第一王子とビゴッド第二王子だけです。

 ヘンリー第三王子やマージョリー王妃にやらせたりしたら、国民は不幸になりますから、ここは手伝うしかありません。

 その不幸になる国民の中には、我が領の民もいるのですから。

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