第10話:対決

「何か言いたい事があるそうだな、ライアン」


 必死でライアン説得して、何とかその日の内に王城に乗り込むのは阻止したのですが、ライアンは夜のうちにロジャー第一王子に面会許可の使者を送っていました。

 その所為で、翌日には私まで一緒に王城に行かなければいけなくなっていました。

 一日の間に色々あり過ぎて、登城命令が出るまでは屋敷に籠っている心算だった私の計画が、一晩で露のように儚く消えてしまいました。

 ライアンが私の事を想ってやってくれているのは分かっているのですが、少し恨みたくなってしまうのです。


「はい、ロジャー殿下。

 姉上から色々聞いて大体の事は理解し、感謝もし、恩にも感じているのですが、それでも、王家医師の大任と大責を姉上に背負わせることは納得できません」


 王家に仕える者達の前でも、最低限の礼しかとらず、私の胸を冷や冷やさせていたライアンですが、ロジャー第一王子の私室に入って三人だけになった途端、不敬罪に問われても仕方がないような攻撃的な質問をしてしまいました。

 いえ、質問だけでなく、明確な異論まで口にしてしまったのです。

 ここは私が謝罪してライアンが咎められないようにしなければ。


「ロジャー殿下、どうかライアンの……」


「気にするな、アグネス、ライアンの性格は分かっている」


 私の謝罪をさえぎって、ロジャー第一王子が穏やかに話しかけてくださいました。

 昨日のロジャー第一王子からは想像もできない優しさの籠った話し方です。

 私の耳に入ってきていたロジャー第一王子の言動とは全く一致しません。

 ああ、そうでした、王城に行くのが嫌いな私は、どうしても行かなければいけない、婚約者だったヘンリー第三王子関連の行事にしか行っていませんでした。

 ロジャー第一王子を謀殺してでも、ヘンリー第三王子を王位に就けたい者達の会合ですから、ロジャー第一王子に悪口しか出ないのは当然ですね。


「ロジャー殿下、姉上が国王陛下の介護に失敗して、陛下が崩御されるような事があっても、罪には問わないとう契約書を書いていただきたい」


 それでも、幾ら何でもこの言い方はいけません、絶対に罪に問われます。


「ああ、構わんぞ、幾らでも書いてやる、だが、書いても何の意味もないぞ。

 俺が約束しようと、国王陛下が崩御されたら、マージョリー王妃とヘンリーがアグネス嬢を断罪しろと騒ぐからな」


「ああ、それは平気ですよ、全然大丈夫です。

 賠償金などの取り立てが終わったら、連中に決闘を申し込んで、ぶち殺してやりますから、大丈夫ですよ」


「あの性根の腐った臆病者達が、自ら決闘を受けるはずがないだろう。

 決闘の無効を申し立てるか、代理人を立てて終わりだ」


「決闘の無効は、王家会議でロジャー殿下がひっくり返してくれるのでしょう。

 代理人になる奴がいなくなるまで決闘を申し込み続けてやります」


「まあ待て、それよりもやってもらいたい事がライアンにはあるのだ。

 ライアンにとってもうれしい役目だと思うぞ」


 ロジャー第一王子が、何か、とんでもない役目をライアンに与えそうで怖いです。 

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