第7話:賠償金

「ロジャー殿下、急にそのような事を申されましても、借りた覚えのないお金を返す事などできませんわ」


 この期に及んでまだ借りていないと言うとは、マージョリー王妃は馬鹿なのでしょうか、馬鹿なのでしょうね。


「では王妃の地位を剥奪して元の平民に戻ってもらうだけだ。

 王家の名誉を傷つける者を王族に置いておくわけにはいかん」


 ロジャー第一王子が、これ以上王族の名誉を傷つける言動をした場合は、即座に殺すと言う視線を向けて言い切られました。


「マージョリー王妃、僭越ながら私が肩代わりさせていただきます」


 ロジャー第一王子に話しかけたら、即座に不敬罪で斬り殺される事が分かっているハンティンドン伯爵が、マージョリー王妃に話しかけています」


「ああ、ハンティンドン伯爵、肩代わりするのはいいけれど、マージョリー王妃が返せなかった場合に、元々王家の物だった領地や財宝を借金の形には取らせないよ。

 マージョリーが王妃になる前に持っていた物など何もないのだからね。

 それと、ヘンリーが持っている領地や財宝も同じだよ。

 王家から王族に渡された領地や財産は、全て王家の所有物だ。

 臣下の分際で、王家の所有物を形に取るような条件で、借金の肩代わりをする事は絶対に許さないよ」


 静かな雰囲気を纏っておられるビゴッド第二王子は、口にされる言葉も柔らかなのですが、込められている意味はとても辛辣です。

 とても意地悪な貴族令嬢を思わせるところがおありです。


「お言葉をかけていただきましたので、返答をさせていただきます。

 肩代わりさせていただくとは申しましたが、返済して頂こうなどとは全く思っておりません。

 気になっておりますのは、デヴォン伯爵家に正確な支援額が分かるかどうかでございます、ロジャー殿下」


 怒りのあまり、目の前が真っ赤になってしまいました。

 ハンティンドン伯爵の言葉は、ヘンリー第三王子に支援したお金や物資を返して欲しいと言った事に対する嫌味です。

 いえ、それだけでなく、デヴォン伯爵家なら支援してもいないお金や物資を返せと言ってくると非難しているのです。


「ギャアアアアア」


「俺が我慢してやっているというのに、図に乗るな、豚野郎。

 結婚どころか婚約もしていないのに、ヘンリーに股を開くアバズレ女を育てた恥知らずが、領民を思いやるデヴォン伯爵を非難するなど思い上がりもはなはだしい」


 怖い、怖過ぎます、ロジャー第一王子。

 舞踏会場と同じように、抜く手も見せずに剣を振るい、ハンティンドン伯爵の鼻と耳を斬り落とすなんて、恐ろし過ぎます。


「アグネス嬢とデヴォン伯爵家への賠償金額は俺が決めてやる。

 これ以上グズグズ言うのなら、ハンティンドン伯爵一族をこの手で皆殺しにして、領地も屋敷も財産も全て賠償金に当てる、それでいいな、ビゴッド」


「ええ、僕も兄上と同じ考えです、その決定に賛成します。

 念のためにヘンリーの意見も聞いておきましょう。

 これまでのロジャー兄上の言葉に異論はありますか、ヘンリー。

 これはとても大切な王家の会議です、分かっていますか。

 時には王家の誇りのために命を懸けて異論を口にしなければいけないのです。

 ヘンリーが賛成すれば満票で決定し、ヘンリーが反対すれば二対一になります。

 ロジャー兄上の言われる事がどうしても納得できないのなら、兵をあげて戦いを挑めばいいのですよ、ヘンリー、それともここで兄上と決闘しますか。

 そのような覚悟こそが、王家に生まれた者の矜持なのですよ、分かりますよね、ヘンリー、分かったら直ぐに返事をしてください」


 優しく話しかけておられますが、とても恐ろしいです、ビゴッド第二王子。

 優しい言葉の中に、私と同い年だとは思えない迫力が隠されています。

 そういえば、ビゴッド第二王子とヘンリー第三王子は、間隔は開いていますが同じ年に生まれているのでした。


 産後の肥立ちが悪かったキャサリン王妃が病状にある間に、もしくは妊娠されている時に、国王陛下は踊り子だったマージョリーの所に通っていたのですね。

 そう考えれば、ロジャー第一王子とビゴッド第二王子が、マージョリー王妃とヘンリー第三王子を忌み嫌うのも当然ですね。


「わ、わ、わた、わた、私も、ロジャー兄上が正しいと思います。

 覚えている限り、支援したもらった物は報告します。

 だからもう許してください、お願いです、ビゴッド兄上」


 ああ、情けなさ過ぎます、恐怖のあまり失禁脱糞するなんて、とても一国の王子とは思えない情けなさです。

 このような事が取り巻きに知られでもしたら、マージョリー王妃派は一気に瓦解してしまう事でしょう。

 それとも、傀儡にするにはちょうどいいと思うのでしょうか。


「わたくしも、覚えている限り支援してもらった物はご報告させていただきます。

 日頃世話をしている貴族や騎士にも、どれだけの物を与えたか報告させます。

 ですから、どうか、もうこれ以上ヘンリーを責めないでやってください」


 マージョリー王妃が土下座して謝っていますが、後の八つ当たりが激しそうです。

 八つ当たりされる側近や侍女の事を想うと可哀想になります。


「マージョリー王妃、ハンティンドン伯爵も含めて、デヴォン伯爵から集った金額や物資の量に僅かでも嘘があれば、俺が軍を率いて族滅させてやる。

 その覚悟で正確な報告を出すのだな、ハンティンドン伯爵、その貴族とは思えない汚い姿を二度とみせるな、ハンティンドン伯爵家は王領地追放刑にする。

 賠償金の支払いは家臣に持ってこさせろ、いいな」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る