第6話:第二王子ビゴッド

「急な呼び出しは困りますぞ、兄上」


 武者修行のために、踏破されていないダンジョンに挑んでいるはずにビゴッド第二王子が、近衛騎士が呼びに行って直ぐに現れるとは思っていませんでした。

 それにしても、月光の光を束にしたような銀髪と青紫色の瞳は、いつ見ても美しいですね、この神々しいほどの美しさが王国貴族令嬢を虜にしているのです。

 もちろん、地上を照らす太陽のような光輝く金髪と青紫色の瞳を持っておられる、ロジャー第一王子にも王国貴族令嬢達は憧れていますが、とても近寄りがた威厳と熱を持っておられるので、舞踏会でも遠巻きにされているだけです。


「国王陛下の王権を騙った奴がいたのだ、許せ」


 ロジャー第一王子とヘンリー第三王子の一対一で行われると思っていた王家会議が、これで二対一になるのです。

 ビゴッド第二王子が王位を望んでいない限り、同じキャサリン王妃からお生まれになられたお二人が仲違いする事はないでしょう。

 これでマージョリー王妃とヘンリー第三王子に厳しい罰が下る事は明らかです。


「では、大体の事を聞かせてもらいましょうか、兄上。

 それと、私がダンジョンに挑もうと旅をしていると、たびたび野盗や山賊の襲撃を受けたのですが、とても偶然とは思えません。

 誰かが私の命を狙ったとしか思えないのです。

 兄上の手の者を使って調べてもらえませんか。

 それと、誰かの手先ではなかったとしても、当該地の領主がちゃんと統治できていない事になります。

 処罰をしていただきたいのですが、いかがでしょうか」


「国王陛下が寝込まれて決定できない以上、王家会議で決めるしかない。

 第一王子であろうと、俺が勝手に決めていい事ではない。

 今から行う王家会議に提言して決める事にしよう。

 では最初に、マージョリー王妃とヘンリーに、国王陛下しか下せない命令を勝手に使った事の経緯から話してもらおう」


 私を含めて六人しかいない場所とはいえ、ああ、いけませんね、ベッドで寝た切りとはいえ国王陛下がおられるのを忘れてはいけませんね、七人でした。

 国王陛下、ロジャー第一王子、ビゴッド第二王子、ヘンリー第三王子、マージョリー王妃、ハンティンドン伯爵、私の七人です。

 場違い過ぎて身の置き所がありませんが、ロジャー第一王子の命令に逆らって部屋を出て行く勇気など全くありません。


 それにしても、先ほどからマージョリー王妃が卑屈なほど謝って、ヘンリー第三王子が振るえているだけなのですが、どうする心算なのでしょうか。

 流石にマージョリー王妃とヘンリー第三王子を処刑する事はできないでしょうが、激怒されているロジャー第一王子なら二人を塔に幽閉するくらいやりそうです。

 いえ、戦略眼もあると言う噂を聞いていますから、二人を追い込み過ぎて、マージョリー王妃派の貴族が隣国に助けを頼むほどは追い込まないと思います。


「己の愚かさで、王妃や王子として守らなければならない、貴族に対する配慮ができていなかったと認めるなら、アグネス嬢にあれほどの恥をかかせた賠償をしろ。

 デヴォン伯爵が支援してきた金と物資の三倍返しと、婚約を解消する賠償金を支払わなければ、王妃の地位も王子の地位も剥奪する」


 関係ないと思っていた話が、突然私への賠償金を支払話になりました。

 ロジャー第一王子が、ヘンリー第三王子の婚約者だった私の事を、気にかけてくださるとは思ってもいませんでした。


「そうだね、それくらいの事をしなければ、王妃でも王子でもいられないね。

 もちろん、婚約者がいる王子を誘惑するような、伯爵令嬢とはとても思えない、常識外れの恥知らずな行動をした、ジェーンにも賠償金を払ってもらわなければいけないね、ハンティンドン伯爵」


 ロジャー第一王子だけでなく、ビゴッド第二王子まで私を助けてくださいます。

 近寄りがたいほど威厳があるロジャー第一王子よりは、静かな雰囲気を纏われている、ビゴッド第二王子の方が頼り易いです。

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