第5話:王家医師モウブレー
「もう口を塞いであったのか、手際の好い事だな、ハンティンドン伯爵」
先頭を歩いておられるロジャー第一王子が、振り返る事もなくハンティンドン伯爵に話しかけたのには正直驚きました。
そもそも何時後ろから斬りかかられるか分からないのに、よく背中を向けて歩けるものだと感心していたのに、更に挑発までするのですから。
それと、ロジャー第一王子の言葉で何故先ほど少し殺気が減ったか分かりました。
私は気がつきませんでしたが、ハンティンドン伯爵の言葉と態度で、大切な証人が既に口封じされている事を察しておられたのでしょう。
「申し訳ありませんが、私は鈍感に生まれてしまいましたので、ロジャー殿下が何の事を言われているのか分かりません」
「謙遜するな、ハンティンドン伯爵、お前は十分な能力を持っている。
万が一の時の事を考え、ボリングブルック子爵を殺しておいたのだろう。
マージョリー王妃の取り巻きの中で、お前が一番悪知恵が働く事も、度胸がある事も、以前から知っていたぞ」
「お褒めに預かったようで、恐悦至極なのではありますが、何の事を申されているのかとんと分かりかねます」
とても恐ろしい会話が交わされています。
王家医師であるボリングブルック子爵モウブレー卿は、ヘンリー第三王子が国王陛下の言葉を騙る際に、証人を残さないように最初から殺す予定だったのですね。
このような連中の仲間になると言う事は、何時利用されて命を失うか分からない事なのですね。
今回の件で、マージョリー王妃の取り巻き連中も自分達の立場を悟って、離れていくのでしょうか、それとも欲に目が眩んでそのまま残るのでしょうか。
「さて、ボリングブルック子爵だけでなく、国王陛下まで死んでいるような事があれば、俺も理性を失って大暴れしてしまうだろうが、ハンティンドン伯爵の事だから、そのような愚かな事はしていないのだろうな」
「さて、何の事でしょうか、さっぱりわかりません。
ですが、ボリングブルック子爵が自分の行った悪事に後悔しているのなら、国王陛下の言葉を騙った事お詫びして、ベッドの前で自決している事でしょう。
それくらいの覚悟がなければ、王族の方々の命を預かる重大な役目である、王家の医師など務められません」
ロジャー第一王子を先頭に、何時でも抜き打ちに斬れる位置にマージョリー王妃とヘンリー第三王子を歩かせて、その更に後ろに二人の護衛騎士とハンティンドン伯爵、最後に私と近衛騎士がそろって国王陛下の寝室に向かいました。
その順番のまま国王陛下の寝室に入ったのですが、予想していた通り、寝室の中にではボリングブルック子爵モウブレーが首を斬って死んでいました。
いえ、ロジャー第一王子が言われていた通り、ハンティンドン伯爵の手の者に殺されていたのでしょう。
「国王陛下の寝室をこのような血塗れの状態にはしておけない。
直ぐに清掃させるとともに、次の王家医師を決めなければならない。
同時に、ボリングブルック子爵のような王権を騙る者を、俺とビゴッドが何度も解任を要求しているにもかかわらず、国王陛下の治療をさせ続けたマージョリー王妃とヘンリーの罪を問わなければならない。
更に、本当に自分達が国王陛下の命令を捏造していない事を証明してもらわねば、この剣で斬り捨てなければならぬ。
証明ができたとしても、ボリングブルック子爵の言葉を信じて愚かな行動をとった責任はとってもらう。
今直ぐ王家会議を行うから、近衛騎士はビゴッドを呼んできてくれ。
当事者であるアグネス嬢とハンティンドン伯爵には残ってもらう、いいな」
私、もう一杯一杯なので、屋敷に帰して欲しいのですが、殺気を含んだロジャー第一王子の目を見てしまうと、とても口にできません。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます