第4話:ハンティンドン伯爵デイヴィッド

「それは、王家医師を務めるボリングブルック子爵モウブレーが申したのです。

 治療の甲斐があって、少しよくなられたとの事でした」


「家臣が王権を邪な事に使おうと、国王陛下の言葉を騙った可能性を考えず、確かめもせずにその通りにしたと言われるのかな、マージョリー王妃。

 それとも、マージョリー王妃とヘンリーもその場にいて、一緒に聞いたからこそ、伯爵令嬢ともあろうアグネスにあれほどの恥をかかせたと言うのかな。

 性根を据えて返答してもらおうか、マージョリー王妃」


 ロジャー第一王子の背中から発せられる殺気がまた少し強くなりました。

 これではマージョリー王妃も、死にたくなければロジャー第一王子の誘導する言葉しか答えられないでしょうね。

 マージョリー王妃の派閥にいるような貴族や騎士では、ロジャー第一王子を背後から襲う事もできないでしょう。


「申し訳ありません、ロジャー殿下。

 下賤な身分から王妃に成りあがったわたくしには、色々と足りないところがあり、王権の大切さも、慎重にしなければいけない事も理解しておりませんでした。

 ヘンリーもわたくしと同じで、まだまだ未熟なのでございます。

 その所為で、ボリングブルック子爵の言葉を鵜呑みにしてしまったのです。

 直ぐにボリングブルック子爵を呼び出して、事の真相を聞き出すようにいたしますので、しばしご容赦願いますでしょうか、ロジャー殿下」


「ボリングブルック子爵を口封じに殺されては困るから、俺も一緒に行く。

 ヘンリー、お前も一緒にこい。

 王族の地位を振りかざすしか能のない馬鹿に、王族の責務を教えてやる。

 覚える気もないのなら、お前やマージョリー王妃と同じように、俺一人で王族に相応しくないと国王陛下に奏上して、断罪の許可を貰うと覚悟しろ」


「ヒッイイイイイ、い、い、い、いき、行きますから、許してください」


 あれ、急にロジャー第一王子の背中から殺気が消えてしまいました。

 まだ安心していいほどの状況にはなっていないと思うのです。

 この場ではしおらしい態度を取ったマージョリー王妃とヘンリー第三王子ですが、ロジャー第一王子がいなくなれば、直ぐに元通りの傲慢な態度になります。

 ヘンリー第三王子の婚約者だった私は、二人の性格を嫌というほど知っています。

 マージョリー王妃の取り巻き連中も、二人を担いで王国を食い物にするのが明らかなのに、どうしてこんな中途半端な形でロジャー第一王子は手をひくのでしょうか。


「ハンティンドン伯爵、お前も婚約破棄の件では当事者だ、ついてこい」


 私を婚約破棄した直接の理由は、ヘンリー第三王子が真実の愛に目覚めた相手ジェーンですから、当然と言えば当然です。

 マージョリー王妃の取り巻きに中でも特に力と金を持つ貴族でもあります。

 ヘンリー第三王子を王位につける事ができたら、娘のジェーンが王妃となり、二人の間に男子が生まれて王位に就けば、外戚になる事ができるのです。


 悪辣非道の名を欲しいままにしているハンティンドン伯爵ならば、男子が生まれたら直ぐにマージョリー王妃とヘンリー第三王子を殺してしまうでしょう。

 そして幼少の孫を王を立てれば、好き勝手できるようになるのです。

 ロジャー第一王子の立場になって考えれば、どのような因縁をつけてでも、ここでハンティンドン伯爵を殺しておきたいはずなのですが。

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