第2話:第一王子ロジャー

 ドッガーン


 私が全てを諦めて、自決する事も覚悟して、近衛騎士の提案してくれる通り伯爵令嬢らしい堂々とした態度で牢屋に向かおうとした時、轟音と共に舞踏会場の重厚な入場ドアが轟音とともに吹き飛びました。

 いえ、吹き飛んだのは砦の城門に匹敵するようなドアだけではありません。

 入場門を護っていた、堂々たる体躯に完全鎧を装備した二人の騎士も一緒です。

 ヘンリー第三王子お気に入りの騎士ですが、二人とも完全に失神しています。


「ヘンリー、マージョリー、国王陛下の許可もなく、国王陛下が決められた婚約を解消しようとするとは何事か、分を弁えろ、痴れ者が」


 何故、何故ここにロジャー第一王子が来られたのでしょうか。

 ヘンリー第三王子と、ヘンリー第三王子を王位に就けようと画策しているマージョリー王妃とその取り巻きがいる舞踏会に、たった一人で乗り込むのは危険過ぎます。


「さっさと返答しろ、この憶病者が。

 正当性のある返事がなければ、王権を勝手に行使した大罪で斬り殺すぞ」


「お待ちください、ロジャー王子、これは国王陛下の許可を、ギャッ」


 抜く手も見せない早業とは、ロジャー第一王子の剣技の事を言うのでしょう。

 ロジャー第一王子が剣を抜かれたのが全く見えませんでした。

 それなのに、ヘンリー第三王子の取り巻き貴族の一人が、身体を縦に真っ二つにされて斃れているのです。

 斬り離された身体からは血が噴き出して舞踏会場に血溜まりを作っています。


 多くの令嬢が気を失って倒れています。

 いえ、令嬢だけでなく、少なくない数の貴族や令息も気を失っています。

 中に嘔吐する者までいるのですが、貴族として経験も胆力もなさ過ぎです。

 ですが、私も弟に頼まれて一緒にダンジョンに行っていなければ、同じように気分が悪くなって倒れていたことでしょう。


「話しかけられてもいないのに、王子の俺に殿下の敬称もつけずに話しかけてくるなど、王家に対する不遜極まりない驕り高ぶった態度だ。

 不敬罪としてこの場で斬り捨てた、文句のある奴はいるか、いるなら同じように斬り捨ててやるから、さっさと名乗り出ろ」


 そんな事を言われても、奸臣佞臣悪臣しかいないヘンリー第三王子の取り巻きの中に、あれほどの剣技を見せたロジャー第一王子に文句を言える人など、ただの一人もいません。


「恐れながらヘンリー殿下に申し上げます。

 勘違いされておられるロジャー殿下に真実をお伝えください。

 重病でベッドから離れられないほどのエドワード国王陛下が、病を押してでもアグネス嬢との婚約を破棄しろと命じられた事を」


「あっ、ああ、ああ、ああそうだった、そうだったな。

 今ハンティンドン伯爵が言った事が聞こえていただろう。

 陛下がアグネスとの婚約を破棄するように命じられたのだ」


「ヘンリー、腐った性根のどうしようもない出来損ないだが、それでも、一応、半分血が繋がっているかもしれない弟だから、一度だけは許してやる。

 国王陛下が本当に言っていない事を、言ったと詐称したとしたら、王権を勝手に行使した罪で、王族であろうと謀叛の罪で処刑され晒し者になるのだ。

 本当にお前が聞いたと言い張るのだな、ヘンリー、間違いないのだな」

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