(二)

     (二)


「やっぱり」

 見あげた窓に明りを認めると、百合音ゆりねは心中でつぶやいた。

 私からの電話には、基本的にすぐ出てくれる。とれなくとも、彼女は速やかに折り返しをくれる。なのにそれがなかったのは―――、

 寝ちゃったな。

 明りをつけたまま寝てしまうことは、たびたびあった。そんなときは決まって結構な酒が入っている。

 〇時すぎ。

 早急に伝えたい気持ちが、訪問の迷いを飛ばした。

 たぶんこれ聞いたら、眠気も酔いも一気に覚めるでしょ。

 ほくそ笑みながら表階段をのぼった百合音は、目的の部屋のドアノブをまわす。

 が……。

 ロックだけはちゃんとしてるわね。よしよし。

 百合音はその手を、キッチンの窓についた格子の裏側に添わせた。ドア側から三つ目は合鍵の隠し場所。はたしてガムテープで留められたそれはしっかりあった。

 酔っぱらうと、彼女はよく店に忘れ物をした。そこには部屋の鍵が入ったバッグも。帰り着いてから失態に気づいた彼女を、百合音はよく泊めてやった。そしてこのアイデアを授けたのも百合音だった。

 そんな勝手な入室も問題ない間柄である百合音は、キッチンスペースを抜けると、明りの洩れるリビングのドアを開けた。

「だめじゃな~い、明りつけっぱ―――」

 との戒めの言葉は、ベッドに横たわる彼女と、テーブルに広がる非日常的な絵によってその先を失った。かわりに続いたのは、音にならない悲鳴のみだった。

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