第19話 おわり

時はユノとの対峙まで進む。


「あちゃー……伝えきれなかったけどあいつ、大丈夫かなぁ?」

「フッ……足掻くのぅ人間、神にここまでするとは、ほめてつかわすかのぅ……」


ユノは余裕の表情をしているが、内心怒りが煮えたぎっていた。


「ただ見ているだけなら見逃したのにのぅ……残念じゃ、ルミナリエ」

「謝らないわよ、ユノ。貴女のしてきたことは、許せないもの」


ユノを真剣な目で睨むルミナと、そんな姿を嘲笑うユノ。


「苦しむ人間は面白いからのぅ……」

「またそうやって、嘘をついて!貴女はそんな神じゃなかった!!人を愛し、慈しみ、人の幸せを願うような……」

「昔話は嫌いじゃ……」


黒い棘がルミナの頬をかすめる。


「くっ」

「ルミナ!」

「人間は愚かじゃのぅ……私の子供達もまた……愚かじゃ」


黒い棘が、近づこうとしていたルゥ子の額もかすめる。


「あぁ、わかったヨ。ユノ、悲しむのに疲れたんだネ?面白いと思ってれば気持ちも楽ヨ……」

「!!」


ユノが明らかに動揺した。

まさか、図星だとでもいうのか……?


「なんだ、それがほんとなら……可哀想な神様だね?」


キルトはカマをかけてみる。

ぷつん、と琴線が切れるように、ユノの堪忍袋の緒が切れた。


「生意気な口を利くな!そんな、そんなことは……考えていない!!」


黒く禍々しい巨大な球が、キルトを襲う。

そして、キルトのもとにそれは現れた。


「この時を、ずっと待っていましたよ……!」

「テオ!」


稲妻の巨大な球が、跳ね返そうと必死に耐えている。

巨大といっても、ユノの作ったもの程ではない。


「すっごい地震あったけど大丈夫!?大丈夫じゃなさそう!」

「そろそろ離してもいい。歩けるし今はアレの対処が最重要。」

「あ、レオとフィルチカ!」

「忘れてたみたいに!!」


レオとフィルチカに、力を貸して欲しいと伝える。

二人は地の力を足してくれた。


「ま、僕もついてきたわけだけど……シンシア、そろそろ出番っぽい!」

「腕が鳴るのよさ!」


いつかどこかで会ったような気がするが、うろ覚えの人物と妖精がいる。


「えっと……?」

「僕の名前はシュトルテ=メルクリス!タルトの双子の兄弟さ!!」

「あたいはシンシア!嵐の精霊、中立者なのよさ!!」


どの中立者もソラ派なのでは?と思ったが気にしないことにする。

二人は嵐の力を足してくれた。


「……ルゥ子、私達も行くしかないわね!」

「ここが正念場ヨ!張り切っていくネ!!」


二人は水の力を足してくれた。


「あたしは……あたしは、もう……」


タルトは、風のないこの場所を嘆くように泣いていた。


「悲しまないで、タルト」


そこに来たのは、シルクと花燐と孤狼の青年。

そして見知らぬ白い少女だった。


「っ!!どいつもこいつも、ユノをバカにして…!!」


白い少女はきょとんとして、少し困った顔をした。


「ユノ、なんで起こってるんだろう?セアリィ、わかんない」

「大丈夫よセアリィ、あの神は怒ってなんかいない」


シルクの言葉に、ユノは戸惑いを隠せない。


「何を……」

「あの神は……悲しいのをこらえている。誰も自分の味方をしてくれないから、悲しんでいるのよ」


ユノは意表を突かれて怒り狂う。

図星だった。


「うるさい……うるさい!!人間風情がわかったような口を利くな!!」

「大丈夫や、あんさんの味方はここにおる。もう晴れて自由の身やけど、あんさんの傍にいたるわ」


花燐はゆっくりとユノに近づいていき、そして抱きしめた。


「っ……!?なん、どうして……駒ごとき、ひとつ増えたところで嬉しくもなんともないのに、なんで……」


ユノの目から涙がこぼれていた。


「さぁ、これを受け取って。タルト……いいえ、エルゼ」


その言葉とともに、片翼が戻ったエルゼは天に還っていく。

そして、そこに残ったのは闇が払われたタルトだった。


「こんなところでへこたれてられない……そうだよな、セレナ」


その言葉に返事はなかったが、風の力はたしかに加わった。


「最後は、あの少年と共に戦いたかったのですが……しかたないですわね……!!」


最後に炎の力が加わって。

それでも神には届かない。


「くそ、なんでだ……!」

「ユノ、ゆるじでー!」


セアリィが駄々をこね始めた。


「ダメじゃ、アレはもう我にも止められないのじゃ……」

「嘘でしょ!?」


衝撃の事実に一同絶望し始めた、その時。


「皆さん、ちょっと乱暴ですが……眠っていただきますよ!」


テオドールが、なぜかそう言い放って。

そして空高くに弾丸を撃った。


「さぁ、行くわよぉ……!」


物陰から出てきたクレアが、巨大な水風船を銃弾の行き先へと転移させる。

風船がパァンと割れると、薬の雨が降る。


「あぁ、この感覚……久しぶりだぁ……」

「あの時みたいに、苦くはないでしょう?」


その言葉を最後に、俺たちは夢の世界へと転移した。

それも、あの巨大な球と一緒に。



*



「さぁ、やっとボクの出番だね?」


ラルカの夢の力が加わる。


「頑張れ、ルミナ!」


氷の力が加わり、球はユノのものより巨大になって。

そして、キルトが押し出していく。


「いっけぇえええええ!!」


巨大な魔法の球は、押し出されてユノと花燐と孤狼の青年の方へ―


「なぁユノ。人が苦しむのはやっぱり悲しかったんやな……苦しかったんやな、きっと」

「あぁ、冥土の土産に教えてやろうかのぅ……花燐、その通りだよ。当時見ていることしかできなかった我はたしかに、苦しかったんじゃ」


そういって、ユノは目に涙をためる。


「それでも、面白いと思おうとして、悪いこともしたのは間違っとったんとちゃう?」

「あぁ、そうじゃのぅ……」


そして、花燐は瀬市の方を向く。


「ところで、あんさんも一緒で良かったのかい?瀬市」

「……たくさんころした。だから一緒に死ぬ」

「じゃあ、花燐達と一緒やな!」

「……死んだら、どこへ行く?」

「そりゃあうちらは、冥府やろうなぁ」


花燐はどこか寂しそうに苦笑して。

球は爆発四散して、ユノ達と消えた。



*



「このクソメガネ、ラッセルどこにやったんだよ!」

「この子、気付いてないわよ……そろそろ教えてあげたら?」


タルトにゲシゲシと蹴られながら、フローネの言葉に答える。


「おれ、教えたら眠りにつく約束だからさ」

「多少の猶予はあげるよ?俺も無理させちゃったし」


そう言って現れたのは、ヴァイシスだった。

当然皆とは初対面だ。


「な、なんだこいつ!!」


といっても、幻影を見せているだけらしい。

タルトの殴った杖がスカっと空を切る。


「幽霊!?ま、まさかラッセルの……」

「俺、ヴァイシスっていう悪魔なんだけど……」


勘違いが進みそうなところで、俺はメガネをとってタルトの口を塞いだ。

口で。


「ひゅう」

「こいつ、姉の前で……」

「口調が荒いヨ、フローネ」


後で、というか15年後にフローネさんに怒られる心の準備はした。


「生きるために戦う事に、迷ってる時間なんてないんだよな?」

「ふぇ……あ……」


顔を真っ赤にして、タルトは合点がいったような顔でおれを抱きしめてくれた。


「ラッセル、ラッセル……!」

「あぁ、もう行く時間だから手短に話すよ」


タルトは泣いていた。

おれはボロボロだし、そろそろ眠気が来そうだ。


「おれと再会できるのはあと15年先だ。待てないなら他の男のとこにでも……」

「絶対行かない」


ポロポロと涙をこぼしながら、タルトは横に首を振った。


「待ってる。待ってるから……絶対あたしと……」


それを聞いている途中で、おれの意識は途切れた。



*



声が聞こえる。

聞こえるけど、体が言うことを聞かない。


「あ、そろそろ起きるんじゃないタルト!」

「そんな、まだ心の準備が……!」

「15年間何してたのよ……」


レオの声と、タルトの声と、フローネさんの声。

体が痛くない。

でも、重いような……。


「起きて、起きてー」


そして、やっぱり痛いような……。


「ちょっとレオ、そこどいて!」

「あっちょっとフローネ!抱っこしないで……そしてモフモフしないで……」

「ちょっとくらい良いじゃない」


そうしてなんだか静かになって。


「た、頼んでないのに誰もいなくなった……よし」

「何がよしなんだ?」


目を開けてみたら、なんだかタルトの顔が近くて。


「ぎゃー!!」

「痛い!?」


そんな悲鳴とともに引っ叩かれて、おれはもう一回寝ようかと思った。



-fin-

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ソラルチカ -Sky Land Under Ground- 幾谷コウセイ @198ks

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