第13話 行き先不明
「ところでセレナ、いい考えって何だったの…?」
フローネが半ば不安そうに尋ねると、セレナは得意げに答えた。
「ふふ、そろそろ飛んでくる頃よ!」
全員嫌な予感が的中したと思い、辺りを見回す。
そして、空の上から情けない声が聞こえてきた。
「は?」
「え?」
上に視線を移した頃には遅かった。
タルトの頭上に見覚えのある影が落ちてきたのだ。
「き、キルト!?」
キルトは状況が掴めず呆然としていて、タルトは下敷きになって動けなくなっていた。
「え、何これ……どういう事?」
「いいからはやくどけクソメガネ!」
「ハッごめん!!」
なぜか顔を赤くして飛び退くキルト。
「セレナさん?」
「助っ人を風の力で呼んでみたのだけど、なんで皆ナイス!とかありがとうセレナ様!とか言ってくれないのかしら?」
そんなセレナに向けられるのは、ジト目だとか冷たい目だとかそういう類だけなのである。
納得のいかないセレナのことは置いておいて、一同はひたすらざわついた。
「レオがメンバーから欠けたから代理メンバーを呼んだってこと……?」
「セレナってこんなことできたんだ……」
「そもそもなんでこのクソメガネなんだよ……」
そんなざわつく喧騒を全部聞き分けていたキルトは、ちょっとしょぼくれていた。
「突然すっ飛ばされた上に歓迎されてないんだけど」
「あの……大丈夫キルト?」
突然どこかから聞こえる聞き覚えのない声。
だが、キルトとルゥ子だけは聞いたことのある声だった。
「ルミナ姉!?」
「あ、いや大丈夫だから寝てて良かったんだよ……?」
「あ、ごめんなさい……また眠るわね?」
その声を確認した後、キルトは深いため息を吐いた。
「で、事情を話してくれるかい?風の精霊」
「セレナよ!」
今までの経緯を説明する。
すると、しばらく真剣な表情で考えた後キルトはにこりと笑った。
「いいよ、レオ君にも何か考えがあるんだろうし!俺でよければ手伝おう!!」
「あたしはお前じゃない方が良かったけどな」
「酷い!俺が何をしたのさ!?」
自覚がないのかわからないフリをしているのか、これまでのことがなかったかのように話すキルト。
そんなキルトに嫌気が差しつつも、反対するメンバーがいないので仕方なく承諾したタルトであった。
*
「でも、良いのカ?」
「何が?」
ルゥ子は真剣に続ける。
「ルミナ姉が仲間ということは、キミは”中立者”だネ」
「………」
キルトは黙して笑顔を貼り付けている。
「中立者……?」
「昔は傍観者とも呼ばれていた、本来どちらかに味方しない勢力のことだヨ」
「俺は良いのさ、ちょっと中立者の力を借りているだけのソラ派だから」
妖精たちはざわめく。
「そんなことができるの、今までにいなかったわ!」
「こんなイレギュラーが加わっていたなんて……」
「こんなこと、神は許しているのカ?」
そんな声を聞き分けて、キルトは少しだけ笑顔を崩して。
「どうせ何もできないと思われているから見逃されているのさ!ちょっと腹が立つけどね」
口は笑っているが、目は笑っていない。
だが、すぐに表情は戻った。
「ひとまず、君たちの行き先を聞こう!どこに行く気なんだい?」
「それが……」
ラッセル達は口ごもる。
「あの、まさかとは思うけど決まってない!?」
キルトの反応を見て、タルトが嫌そうな顔をする。
「だから嫌だったんだよこいつ」
「うん、まぁシルクさんがどこに行ったかわからないもんね。でも……」
キルトが苦笑いしたかと思うと、誰もいないのに背中の大剣を構え始めた。
「代わりに敵さんから来てくれたみたいだよ」
「!!」
辺りから異臭がする。タルトとキルトは嗅いだことのある臭い。
あの異空間の臭いが、今ここに突如として現れたのだ。
一同鼻を覆って動きが鈍くなる。
「あの時はよくもやってくれたなァクソ人間……でも残念、今回のオレ様は一味違うんだよォ!!」
「うわっ!!」
より臭いの強い方から、巨大な気味の悪い手がタルトの体を掴む。
空中だ。
「あの方に教えてもらったんだよォ……どうせ人質をとるならコイツにしろってなァ!!」
「くっ……」
身動きのとれない一同。
そして、一瞬動きが止まるキルト。
「もらったァ!!ハハハ、やっぱり人間ってのは弱っちい……ア?」
「あの方に教えて貰わなかったのか?俺は一人で戦ってる訳じゃないんだよ」
巨大な気味の悪い手が止まる。
何が起きたのかと一同は距離をとって見る。
よく見るとその巨大な手は凍っていた。
そして、巨大な手の現れた位置より左下に、見覚えのあるシルエットが凍っていた。
「今度こそコアを……!」
キルトが大剣で突く構えをする。
そして……
「!?」
コアは貫かれる前に、何か巨大な力によって防がれた。
そして弾かれたキルトの体は、木の幹に叩きつけられた。
「ぐあっ……!!」
「キルト!」
フローネが駆け寄り、回復の術をかける。
「恵みの水よ、かの者を癒やし給え……ヒールウォーター……!」
「ほう、我の力で失せぬか……大したものよのぅ?人間」
それは声だけで威圧する者。
ソラからなのかチカからなのか、はたまたリクから響くのかわからない。
「はっ、どうせ小指しか使ってないくせに……よく言う……」
「ユノ様!!助けて下さい……!こいつ、人間の癖にしぶとくて……」
気味の悪い手の主―シアンは、ユノと呼んだ声の主に呼びかける。
どこからか響く、ため息。
「シアン……その名前で呼ぶなといつも言って聞かせたよのぅ……」
「あ……グエッ」
突然、シアンが壮絶な力によって潰される。
コアも破壊されたのか、シアンはチリになって消えていった。
得体の知れない力に、一同は恐怖した。
「そんな……こんな相手、どうすれば良いって言うの……?」
「味方を殺すなんて……!」
その声を聞いてか、笑い声が響く。
「何がおかしい!」
「はて、使えない駒を捨てて何が悪いというのかえ?」
そんな中、シアンが消えてから震える妖精がひとりいた。
「あ……あ……兄様……」
「いけませんわ!セレナが!!」
セレナは黒く、暗いオーラを体から滲ませていく。
「タルト、契約を解除するヨ!!」
「は?兄……?契約解除って……」
タルトが戸惑っている間に、セレナはどんどん闇に包まれていく。
「滑稽よのぅ……もう兄ではないというに、まだそのように想ぉておるとは……哀れで可愛い生き物よのぅ……」
そんな言葉の後、下品な笑い声が響く。
「クソ、もうこの方法しかない!」
「あ、まだ動いちゃ……」
キルトは傷を負った体で駆ける。
フローネは治癒術をかけ続けていたが、中断されて飛沫が飛ぶ。
「セレナ!お、お前……!!」
キルトは、セレナのNSをその体ごと斬った。
その体は、血も流れず風となって消えた。
「こうなったらこうするしか方法がなかったんだ……」
「なんで!なんでなんでなんで!!どうしていつもお前はそうなんだ!!ふざけるな!あの声の主と一緒だ!!味方を殺しておいて平気そうに……!」
うなだれるキルト。
恐怖と混乱で動けない一同。
そして、怒声を張り上げるタルト。
「落ち着いて聞いてくれ、俺は……」
「聞きたくない!!」
タルトは先程のセレナと同じように、黒く暗い闇に包まれていく。
「頼む、キミを殺したくない……」
「知らない!!」
闇に包まれていくタルト。
キルトは、ゆっくりと大剣を構える。
「!!やめて…!」
フローネの目が曇る。
そんな中、黙っていた声の主が口を開いた。
「それ以上動くでない。でないと……」
「っ……」
ラッセルが何かに掴まれて宙に浮いていた。
「動かないからそいつを離せ」
「離したらそなたは動いてしまう。離せぬのぅ……」
苦しそうにしながらもがくラッセルをよそに、キルトとユノと呼ばれていた神の駆け引きは続く。
「離せよ。動かないから……俺はな」
「何だと」
ルミナの目が、隠れていたユノの姿をとらえる。
そして、一時的に動きが止まった。
「ラッセル……」
「キル兄……あ、ありがと」
真剣な目をしているキルトに、ラッセルは不思議に思いつつお礼を伝えた。
「ごめん、時間が凍っているうちによく聞け。お前はこれから―」
そう言いかけた時、黒く暗いゲートが現れて。
ラッセルは、どこかへと飛ばされた。
遠く、とおく、とても遠くへ―
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