第12話 二度目の旅立ち
「すごいなぁ!君たち結構冒険してきたんだね?」
「楽しそうに話聞いてくれたから、結構長引いちまった!そろそろメンテとやらは終わったのかな?」
フィルチカの部屋の扉をノックしてみる。
もう少しでNSのメンテは終わるらしい。
「そういや、もう少しでここは立ち去る訳だからフェイとはお別れなのか」
「貴方の話、訳アリでギターが弾けること以外よくわからなかったけど……なれるといいわね、吟遊詩人」
お別れと聞いて少しだけ表情が曇ったかと思うと、フローネの言葉でにこやかになったフェイ。
「ありがとう、えぇと……フローネさん」
その表情はにこやかではあったが、どこか苦く微笑んだ顔だった。
「あ、待って!」
はてと振り返ると、レオがフィルチカの前で跪いていた。
「君にはとるにたりないことだったかもしれないけど……あの日助けてくれたの、セレナだけじゃなかったよね?」
「!!」
さして大きくは動かなかったフィルチカの表情が、レオの言葉で驚きで動いたようにみえた。
「明らかにあの時の声だ。土塊……いや、フィルチカっていうんだよね?ありがとう、君は命の恩人だ!それだけ言いたくて……」
「……とるにたりなくはない。君が生きていてくれたことは、私にとって幸い。」
そう言うと、手を差し出した。
レオがきょとんとしていると、セレナがメンテから戻ったNSから半ば叫ぶように言い放った。
「握手よ!フィルチカは握手がしたいの!!」
はっとした顔でレオが手を握ると、フィルチカは少し恥ずかしがるように帽子で顔を隠しながら手を握り返した。
*
「ねぇルゥ子、あの子の訳アリの“わけ”って何だったのかしら」
「ワタシの口からは言えないヨ。フィルチカからも口止めされたからネ」
口止めされるほどの秘密とはなんだろう。
いつそのことを話していたかはなんとなく察した。
「やっぱりあの場で何か話していたのね」
「やっぱりって何だ?……ん、でもあの時ってフェイの歌が音痴だったから追い出されただけじゃ?」
タルトは何も勘づいてはいないようだった。
フローネとルゥ子の様子にラッセルもレオもよくわかっていないようだ。
「あの子、たしかにあんなとこに住んでるのは不思議ではあるけど……」
「僕みたいに何かから逃げてて匿われてるとかなら、なんとかして助けてあげたいけど……」
レオは自分の以前の境遇と重ねているようだった。
そこで、レオは真剣な面持ちで決意したように提案した。
「皆、僕だけ一旦フェイ達のところに戻ってもいいかな?」
そんな言葉を聞いて、ラッセルが不安そうに返す。
「別行動?でもそれって危険じゃ…」
「皆には迷惑をかけるかもしれない。でもどうしても気になって…」
しばしの沈黙。
そんな中セレナがしばらく考えた後、拳をぽんと手のひらに落として。
「私にいい考えがあるわ!」
一同が思ったのはただ一つ。
(嫌な予感がする…!)
*
来た道をレオ抜きで戻ろうということになったが、フィルチカの厚意で帰り道には魔物がいなかった。
「快適だなぁ」
「一応かかる時間計算してるらしいから、ゆっくり歩いてるとまた湧くわよ」
フローネの言葉に、早歩きになるラッセル。
戦いには慣れたが、不要な戦いは避けたいらしい。
「用事は済んだかい?」
「えぇ、まぁ」
メルクリス家に到着すると、そこには姉妹の祖母が待ちわびていた。
「一人足りないみたいだけど、どうしたんだい?」
「レオはちょっと用事が残ってるみたいだから」
フローネは、どこか寂しそうにレオのことを話した。
「そうかい……で、また行くんだね?旅の続き」
「えぇ、そうね」
「母さんも連れて帰るし、新しい目的も果たす!だから、ばあちゃんはこの家を守っててくれ!」
タルトの言葉に、強欲だねと思いながら祖母は言葉を返す。
祖母はどこか嬉しそうに、タルトの背中を思い切り叩いた。
「何言ってんだい、当たり前よ」
「いてぇ!このババア、ババアの癖にこんなに力が……いって!!」
頭に鉄拳を食らったところで、見送られて再び旅立つのであった。
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