第8話 荒野の占い師
「同胞ではないにおいがすると思えば……レオ、そやつらは」
「ババ様!」
ババ様と呼ばれた老体の獅子族は、厳しい目つきでレオを見る。
「息災のようで何より。だが、人族をここに連れてきたのはいただけぬな」
「ごめんなさい……でも、この人達は獅子族を疎んだりしない!」
「お黙り!たとえそやつらがそうだとして……」
後ろから嫌な気配がすると思えば、見知らぬ商人と盗賊たちがぞろぞろと出てきた。
「賊の足掛かりにならぬとは限らぬ。このようにな」
「な……!?尾行されてたのか!」
みな一様に下品な笑みを浮かべて、獅子族を品定めするような目で見ている。
レオ達は武器を構えると、キッと賊達を睨む。
「ここの皆に被害が及ぶ前に、僕たちが止める!力を貸して!」
「もちろん!」
タルトが先陣を切りまっすぐに駆ける。
相手の短剣が頬をかすめそうになるところを、くいとかわし拳をぶつける。
「タルトそういえば杖は」
「こいつだ、よ!喋ってる暇あったら戦えバカ!」
そういって手を突き上げる。腕から手の甲にかけて装甲ができている。
いつもの魔改造だろうが、デザインが前衛的……といったら伝わるか怒られるか。
なんやかんやで新しい服、ついでに髪にも慣れたのかもしれない。
「バカって、言った方が、バカなんだ、よ!」
刀を振るって対するは片手剣を持った男。刀身が曲線を描いていて、うまく攻撃をいなされ反撃しづらい。
そんな様子を察してか、フローネが加勢する。
「そのまま相手してて、あんたに当たらないようにぶちこんでやるから」
「せいぜい、気を付けますよ!」
水球を放ってひるんだ隙をついて、ラッセルが斬撃を放つ。
二人がかりで相手をしていたのを見計らってか、フローネに弓矢が迫っていたがレオが防御する。
「気づいてはいたけど、体が反応できないなんてね……ありがとう」
「逃げられたね。あの子で最後のはずだったけど」
矢が命中せず、かつ前衛がのされているのを確認した賊の一人はどこともしれない方向へ駆けて行った。
タルトが追おうとしているのを、ラッセルが制して一旦戦いは終わった。
フン、と遠巻きに見ていたババ様は鼻を鳴らす。
「ここも長居はできないね。彼奴らを退けるだけの力はあるようだが……一晩泊っていくのは許そう。だが、それ以上は許さぬ」
でも、とタルトが一瞬怪訝そうな顔をして反論しようとしたが、レオの顔を見て大人しくなった。
レオはこの集落では幼い方なのだろう。
でなければ、獣の形をとった時こんなに小さくはないし、このように責められるのも予想できたはずだ。
「ごめんなさい、ババ様。でも、ひとつだけわがままを聞いてほしい」
「……」
老体の獣はただ沈黙する。制止をしないということは、続けろという意味だろう。
「この子とこの子の母親の行方を占ってほしい。そうしたら、明朝にでも出ていく」
「……次に帰る場所はないと思え、レオ」
「承知の上です」
何のためらいもないレオの返答に、誰も異を唱えることはできなかった。
*
「はっきりと言おう。ババの占いをもってしても、はっきりとした場所の特定は難しいだろう」
「そんな……!」
「凄腕の占い師って言ってたじゃねーか!」
タルトが声を荒げると、フローネが睨み頭を小突く。
呆れるラッセルと、苦笑するレオ。
「占いにもいろいろあるけど、ババ様の占いは本来星詠みの術なんだ」
「つまり……獅子族の魔法使い?」
ラッセルの言葉に、ババ様は黙してうなづく。
「まぁ、ざっくり言うとそういうことだね。あとは……」
「あとは?」
「においを嗅ぎわけることさ」
いきなり原始的になったのと、もはや占いではなさそうなので全員レオを見やる。
困り顔のレオをみてババ様が呆れて補足する。
「ただのにおいじゃない。魂、精神、気配、殺気……空気の流れや概念的なものを鼻で感じ取るのが獅子族の占い師の能力さ」
そうだったの?という目で全員レオを見るが、僕は占い師じゃないと首を振る。
とりあえず、寝る前に占いをしてもらうことになった。
「というわけで……皆、戦ってお腹空いたでしょ?ご飯食べよう!」
「ゲテモノじゃないよな?」
「んー、君たちにとってのゲテモノ?がわからないけど、きっと美味しいよ!」
不安。
3人にとって、ここの景色すら古めかしく野生的に感じていただけに全員がそれを感じていた。
そんな不安をよそに、レオはいつもの人間の姿になって台所らしい部屋に手伝いに行った。
しばし座って待っていると、なんだか熱々の料理が出てきた。
「じゃーん!いつもは生肉だけど、人族用に焼いてみたよ!香辛料も用意したし、きっとおいしい!」
小ぶりの鳥のような見た目の魔物が、皮を剥がれて丸焼きになっている。
ちょっとグロい気もするが、味は正直食べてみないとわからない。
最初にかぶりついたのはタルトだが、なかなかフローネもラッセルも目を見合わせて食べない。
「うめぇ!ちょっとハーブくせぇけど味はいいぞ!」
「あの、これナイフで切れないのかしら……」
「覚悟決めようフローネさん。タルトもほら、かぶりついてるし」
「あひゅい……みんらもはべて、おいひいよ?」
レオもいつの間にか食べ始めている。
フローネが生唾をごくりと飲んだ後、一口かじる。
なんだかフローネさんが焼いた肉にかぶりついているのも新鮮だな……と思いつつ、ラッセルも食べてみる。
「あ、美味しい……」
「んぐ……でしょ?はふはふ……」
香辛料はたしかに強い。おそらく臭みを消すためのものだろう。
だが、できたて熱々の焼いた肉ということもあり、味もしっかりついているし美味しかった。
てっきり、もっと魔物臭くクセのある肉なのだろうと警戒していた。
「レオ、次出すねぇ!」
「あえ、カフィル生きてたんだね!?良かったぁ」
「食欲が勝っちゃうの、相変わらずだねぇ!」
そういいつつ女性から出されたのは、何らかの海鮮を焼いたものだった。
これも魔物なのだろうか。
まだぐつぐつと焦げた殻の中で身が煮立っている。
「コシマゲエビの丸焼きだよぉ!」
「なんか生き物焼いたもんばっかだけど、うまそ!」
いつも狩りで得た生き物をかぶりついたりさばいたり血を飲んだりしているため、人族用にするとなるとこうなるのだ。
結果的にというか必然的にというか、率先して食べるタルトが毒味役になっている。
タルトは物怖じしないのは食べ物に対してもなので、幼馴染二人はこういう面で助かっている。
加えて不味い時ははっきり言うので、わかりやすい。
そのような一面が良い影響を及ぼさない時もあるが、今回は別だ。
かといって、無理をしておいしいと言ってもわかりやすいのがタルトである。
「ふーふー……んっく、こっちも美味いな!」
「よし、食べましょう」
「……」
わかりやすくタルトを見てからフローネが食べだすのを、レオが気づいていないか心配なラッセルであった。
*
これから占ってもらうというのに、ほぼほぼ全員満腹で眠たそうにしている。
太りやすい体質を気にしていたフローネは、この日一人だけ意識をはっきりして占いの結果を聞くことになった。
「申し訳ないです、せっかく占いの席を設けてくださったのに」
「全員寝こけるよかマシさ。それより……はじめるよ」
フローネは、ごくりと生唾を飲んで待つ。
ラッセルはこくりこくりと寝落ちそうになっている。
レオとタルトに至っては、完全に寝てしまっていた。
「フン。お前さんたち、もうその母親とすれ違っているじゃないか。似たような匂いがかすかにするよ」
「!!」
「この匂いがあるところに、おそらく母親がいるのだろうね。だが……」
「どこに!い、一体どこにいるんです!?」
「落ち着きな。今の居場所がわかったとて、移動先を読まねば追いつけないだろうに」
「う……」
いつも冷静なフローネが取り乱した声で、うとうとしていたラッセルが起きた。
「ご、ごめんなさい…うとうとしててあまり話が……ってタルト達も寝てるし!?」
「騒がないでちょうだい」
ピシャリと言われてしまったものの、フローネの声で起きたような…?と疑問に思うラッセル。
しかしながら、言い返しても怖いので黙っておくことにする。
「確実に途中で王都にいたのだろう。その後……っ!?」
「あ、あの…大丈夫ですか?」
心配したラッセルが声をかけるが、ババ様は酷い頭痛に見舞われていた。
苦しむババ様にみかねてフローネが回復魔法をかける。
「誰かが妨害しているか、もしくは……」
「タルト達のお母様の魔力?」
「まさか。もし魔力だとするなら……協力者がいる可能性はあるわね」
ババ様の容態が優れないので、占いは残念ながら途中で中止となった。
フローネはタルトを運び、ラッセルは頑張ってレオを引きずって寝床についたのであった。
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