第5話 王都リュミエラ
母親とどこか雰囲気の似ている女性とすれ違って数刻後。
タルトは露店で立ち止まっていた。
「可愛らしいお客さん、この髪飾りが気になるの?」
「いや、ちょっとキレイだなぁとは思うけど似合わねぇよ。今それどころじゃないし」
いわゆる押し売りに捕まっていたタルトを見つけて、慌てて駆け寄ろうとするフローネ。
その前に駆けつけていた少年がいたのだが。
「あっちにもっと可愛いのあったよ、行こ?」
「あ、ちょっと!」
タルトの手をとっさにとるラッセル。
困っていると思って助けたつもりだが、ほんとに欲しかったのなら悪いことをした。
「あー、ラッセル?」
「あ、ごめん!」
とっさにとってしまった手を慌てて離す。
闇雲に走っていたが、そういえば人通りが少ない。
いる人は少し厳つい男たち。
これはもしかしなくても、裏通りなのであった。
「ここはガキにははやいぜ?とっととお家帰って寝な。それとも……通行料払っていってくれるか?」
「あ、何だその目は」
「ちょ、タルト……あんまり睨んじゃダメ……」
「気が変わった。お前らボコボコにして有り金全部奪ってやる!」
まずい、非常にマズい。
こういう時はおまわりさんを呼ぶのだろうが、だいぶ奥に来てしまったようで。
これは終わったかと思い空を見上げると、竜の影。
……竜!?
「おい、なんだあれ!?」
「やべぇ、隠れろ!!きっと警吏の連中だ!」
そして、竜から人が落ちてきて。
……人?
「うわぁ!!」
「あら、思ったより着地が楽に……といいますか、地面って柔らかいですのね」
「セピア、どいて差し上げなさい。お尻の下で少年がクッションになっておりますので」
「あら、失礼?」
すっとどいたが、だいぶ腰が痛い。
タルトが手を貸してくれたから良かったが。
「……セピア、この方」
「いや、こんなところにお兄様がいるはずがないですの」
「おに……!?」
ふむ、とラッセルをまじまじと見る竜から降りてきた男。
そして、落ちてきた女の子もまたまじまじと見ている。
「少年、君はどこから?」
「出身は王都だけど、おれはシンセアデルから…」
謎の男女は顔を見合わせて、顔を輝かせる。
なんだかわからないが、もしかしたらおれを探して……?
いや、心当たりがない。
俺が探しているのは母親だし、百歩譲っても父親なので、こんな年代の妹もいないはず。
「少年、名前は?」
「ラッセル……ラッセル・C・リベルス、だけど……」
「クローお兄様!!」
いきなりぎゅっと抱きしめられて、ちょっと照れる。
ハッとして、慌ててセピアと呼ばれていた少女を剥がす。
タルトに呆れられると思ったが、こころなしかちょっとすねている……?
「おれに妹はいないから……!」
「間違いないですのに……」
とにかく説明する、仲間がいるなら合流しようと話す謎の男女。
とりあえず、それだけの猶予を与えてくれるなら信用しても良いのかもしれない。
さっきは助けてくれたし。
とりあえず、ちょっと怖いけど竜に乗ることにする。
謎の男女はセピアとテオドールというらしい。
王室付きの商人とこの国の姫であったが、訳あって家を出て、家出少女と指名手配犯になっているらしい。
なんとも信じがたい話だが、とりあえず半分くらいは信じることにする。
姫様は王様である父親に聞いた、生き別れになった腹違いの兄を探していたとのこと。
「名前はわからないのですけど、クローというミドルネームを持つリベルス家の男の子とのこと」
「たしかにおれだけど……」
「お前、王様の捨て子だったのか……ん、待てよ」
「どうしたのタルト?」
いや、とタルトは黙り込む。
何か考えがあるらしく、フローネさんに判断を委ねたいという。
空からの眺めはなかなかのものだが、これは目立つのでは……?
と思ったが、竜は停泊場のようなものがあるらしい。
探して場所のアテをつけてから、そこに向かうとのことだ。
「ていうか、指名手配犯がうろついてて良いの?」
「まぁ、変装するから大丈夫ですよ。人も多いですし」
心配だが、フローネさん達の判断を仰ごう。
しばらく歩いて合流できたので、事情を話してみる。
「犯罪者に巻き込まれたくないわ。却下」
「僕はいいと思うけどなぁ。もし王様の娘さんや息子さんなら、許してくれるんじゃ?」
「いえ、まずお母様に牢屋送りにされますの」
「やっぱりダメじゃない!」
呆れ返っているフローネを説得しつつ引きずりつつ、王宮の入り口へと向かう。
一体どんな秘策があるのかわからないが、セピア達を信じよう。
「門番、私はこの国の姫です。兄を見つけることに成功しましたので、この犯罪者達をひっ捕らえていて下さいな」
「ちょっ!?」
一気に大勢の軍人達に囲まれた。
やはりあまり信用できない人なのかもしれない。
仲間まで売るなんて、どういう神経をしているのだろう。
「(信じてほしいですの)」
小声でそう呟いた。
わからないが、何か本当に秘策があるのだろうか。
タルト達と別れて、俺はセピアと共に玉座の間に通された。
「お母様、勝手なことをして申し訳ありませんの。こちらがお兄様ですの」
「御託は良い。こいつがあの女の息子か」
思ったより手厳しそうだが、大丈夫だろうか。
「はい。お父様の息子ですの」
「だが、私の息子ではない。そうだろう?」
王妃様は大層お怒りのようだ。
少し雲行きが怪しい。
「お母様は、お母様とて、お父様以外を好きになったことはあるはずですの!」
「……それは……」
王妃様が口ごもって、何も言わなくなった。
これを好機とばかりに、セピアはさらに続ける。
「自分を棚に上げて人ばかり責めるのは良くないですの!」
「待って、セピア」
「っ!もう少しですのに……!」
おれが大人しくしていれば、ことはスムーズに運んだかもしれない。
だけどこのまま言いたいことも言わずに黙っているのは、逃げているだけだ。
「王様相手なのはわかってる……でも、おれにも言いたいことがある。なんでさっきから黙ってるんですか?
王妃様に全てを委ねて、そうやって母さんが捕まったのも見過ごしたんですか?」
「お兄様……」
「答えて!!」
王様は黙りこくっていたが、重い口を少しだけ開いた。
「………私は」
「貴殿が何を考えているか、妾にもわからぬことがある。許す。話せ」
こんな目で王様を見てはいけないのかもしれない。
でも、止められなかった。
口を開いて、真実を―思いの丈を話してくれるまでは、許したくない。
「私は、ずっと王として正しいことばかりをしてきた訳ではない。
私は体も心も弱い。だから妻に頼って生きてきた。でも、かつて恋をした女性のことも
その子のことも心配していた。遠くに逃がしてどこかで生きていればそれでいいと思っていたが、それも許されなかった」
「………」
「妻は知りたかったのだよ。私が愛した女性がいかなる人間なのかを。そして私は、近くに愛する人を置いておきたかったのだ。
牢屋に行けば、会うことができたからな」
「それで、母さんは牢屋に……?」
「そうだ。情けない愚かな父で済まないと思っている。国民にどれだけ慕われようと、お前にだけは恨まれてもしかたない
私のかつて愛したウェルシィ・リベルスにも、な。そして―」
「もう良い。飽いたぞ王よ。そのように考えているのなら、引き離すしかあるまい。
監守に伝えろ。こやつらの仲間とウェルシィ・リベルスを解放するように」
「!!」
「お母様……!」
「勘違いするな、娘よ。妾はただ、あの女とそいつらを近くに置きたくないだけだ」
こうして、タルト達も母さんも解放された。
「テオドールは、王妃様の怒りが鎮まるまでしばらく牢屋だってさ」
「セピア―セリーヌは、王宮に戻るってさ。ちょっと軟禁気味だったけど、お出かけできるようになったんだって」
どうやら、王家の母子の仲も前よりは良くなったらしい。
とりあえず、母さんもホテルのバスルームを喜んでいたらしいので良かった。
フローネさん達とどんな会話をしていたのか気になるが、それは聞かないことにした。
たぶん、男が介入しちゃいけないんだろうし。
「そういう訳で、一旦シンセアデルに戻ろうと思うんだけど……どう?」
「良いぜ、この旅におばさん連れてくのも気が引けるからな」
「安心して母さん、この人達は強いからね」
「ラッセルだって前より強くなったよ!」
「ふふふ、良いお友達ができたみたいで安心したわ」
とりあえず、シンセアデルに戻るには
リュミエラ→日暈の国→ルミネコリト→シンセアデルの順で戻らなければいけない。
「長旅になりそうね……」
「そんなあなた方必見!竜に乗ってどこへでもひとっ飛び!!今ならちょっとお安くしますよー」
颯爽と竜に乗って飛び出してきたのは、牢屋にいるはずのテオドールだった。
「テオドール!?なんで!?」
「商品の在庫が気になると言って抜け出してきました!」
頭が良いんだか、バカなんだかわからないが、とにかく乗り物は助かるので買うことにした。
ちょっとどころかだいぶサービス価格だったが、流石にひとり一匹とかは買えないので控えめに買った。
「ありがとうございます!またお金がたまったら呼んで下さいねー!
あ、一度行ったところしかひとっとびでは行けませんので注意を!ではでは!」
ホントにお金が好きなんだな、と思ったラッセルであった。
*
シンセアデルに着くと、ちょっと竜のせいで驚かれたけどそれなりに歓迎された。
クレア先生に抱きつかれたが、苦しかったので必死で剥がす。
「ラス君とウェルシィさんはともかくぅ、このメンバー全員ここに泊まれるかしらぁ?」
「僕のことは気にしないで。野宿もしてきたし平気。床で寝るよ」
「そういう訳にもいかないわ、ソファの上の方が寝心地いいわよ」
「(そういう問題なんだ…)」
かくして、おれは自分の部屋で眠ることになった。
*
夢を見た。
銀の前髪で片目が隠れた、二つの三編みをした謎の人形に話しかけられる夢。
「マゼンタと花燐を退けたんだって?人間にしてはやるじゃん。」
「まぁ、でも……」
顔をずいと近づけてくる人形。
「これだけだと思ったら大間違いだけどね!アハハハハ!!」
……!
夢、だったらしい。
窓の外を見ると、まだ夜だった。
ただの悪い夢にしては圧がすごかった。
冷や汗とため息が出る。
護身用の武器を持っていって、外の空気を吸いに行くことにした。
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