むかし
母が突然男の人を家に連れ込んだのは、中学生になって間もない頃であった。
「彼は私の彼氏なの」
無邪気に笑う姿は少女のようだった。如何にも優男という風貌で、記憶に
それから一年経ち、母は頻繁に男と家を空けるようになった。最初はあった書置きも、次第に見当たらなくなった。梅雨が明け、男が同居し始めて四年になる頃、母は家に帰って来なくなった。一日経てど、二日経てど音沙汰も無かった。一週間後、呼び鈴も鳴らさず目の前に現れた男は、他に多数の男を引き連れていた。無理矢理連れ出されるのは、瞬く間の出来事だった。連れて行かれた先は、母に付いて何度か来た事のある教会本部であった。公民館のような佇まいの其処は、何となく薄暗く、異様な雰囲気を放っていた。男は或る一室の前まで来ると、乱暴にその扉を開けた。
「視ろ」男は下卑た笑みを浮かべながら、部屋の一角を指差した。暗い部屋の中、廊下の明かりでぼんやりと浮き上がる人の形をした塊が
「嗅げ」煙草とアルコールの臭いが混じる濃密な空気が身体に充満する。強烈な栗の花の匂いと、それを上回る吐き気のする程甘い匂いが漂っていた。
──覚悟を
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