うら

 父が他界したのは、まだ小学生に入る前だったと思う。母が顔を覆い泣いているのに戸惑うばかりで、必死にその背中をさすっていた記憶がある。翌日には、「誰にも頼る人がいない身だからね」と笑っていたが、その目は憔悴しきっていた。この言葉は頼るに値しないと宣告しているように思えた。幼い我が身を思えば当然のことであるのだが。

 この日から、図書館に入り浸り、手に入れた知識を拙いながら披露したり、その日あった出来事を面白おかしく話したりして、何とか少しでも母を笑顔にしようと努力した。死物狂いだった。何かしていないと押し潰されそうだった。しかし、子供の力では高が知れていたのだ。いや、してきた事が間違っていて、もっと傍に居るべきだったのかもしれない。母が入信したのは、小学生になってしばらくしての事だった。

 ある日家に帰ると、話し掛けても上の空であった母が、自ら「おかえり」と言い、嬉しそうに話を続けたのだ。最初満たされた気持ちも、話が進むにつれ、冷や水を浴びせられた。内容は日毎に狂信的になっていった。父の御蔭おかげで送れていたそれなりの生活は尽く壊されていった。

 しかし、明るくなった母を前にして、何も言う事は出来なかった。

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