ガラクタ掴ませ

 その夜。駅のバス停留所に、一台の観光バスが停まっていた。そこからひとり、青年が下車した。

 土曜の夜の駅には人どおりはあったが、殆どが青年に見向きもしない。どこにでもいる、大学生くらいの若い男は、群衆のひとりとしてそこに馴染んでいた。

 と、その青年は、突如足を止めた。

 満月に向かって、自身の体から黒い灰が吹き上がる。崩れ落ちる青年は、「え」と短く呟いた。なにが起こったか分からないといったぽかんとした顔が、アスファルトの上に突っ伏して、灰の山と化していく。

 駅前はそれなりに人出がある。だが人々は周囲に無関心で、突然粉になった青年など、誰も見てはいなかった。ただひとりを除いては。


 灰の山から数メートル離れた柱に、モッズコートの男が寄りかかっている。重い前髪とその奥の気だるげな目で灰を見ていたのは、チェシャ猫である。ネックウォーマーで口まで覆っていたが、そこから微かに上がる吐息は白く染まっていた。

 厚手の手袋を嵌めた手には、岩肌のような武張った拳銃を握っている。だがそれはコートの長い袖と柱の影で隠れており、すれ違っても見抜けないほど馴染んでいる。灰になった青年は、隠れた拳銃どころか、気配のないチェシャ猫にすら気づいていなかった。


 チェシャは灰に歩み寄ると、試験管でさっと掬って、すぐに立ち去った。やや早歩きで広場を進み、進行方向に停まっているバスを確認する。


 ふいに、チェシャ猫の背中に、脳天気な声が届いてきた。


「チェシャくん! 灰の山、消しておいたよ!」


 その弾んだ声に、チェシャ猫は驚くと同時に頭を抱えた。楽しげな声が近づいてくる。


「この観光バスに、さっきのの仲間がいっぱいいるんだよね? そこに単騎で乗り込むチェシャくんかっこいいー!」


 振り向くのも億劫で、彼は盛大にため息をついた。


「あんた……なんでここにいるんだよ」


 追いかけてくる少女は、もちろん愛莉である。


「だって、羽鳥さんの新作の威力、見てみたかったんだもん」


 愛莉がふふふっと笑う。


「というか、その新しい武器でレイシーの群れに突っ込むチェシャくんを見たかった。使い心地はどう?」


「最悪だ。重くて反応が鈍い。使えたもんじゃねえ」


 機嫌の悪いチェシャ猫の反応を窺い見て、愛莉は尚更面白がった。


「そう言いつつ一発で決めた。チェシャくんは恰好いいなあ」


「あのさ」


 チェシャ猫はちらりと、前髪から覗く目を愛莉に向けた。


「なんで相手が群れで、場所がここだと知っている?」


 やっと自分に目を向けてもらえた愛莉は、ご機嫌でピースサインをした。


「シロちゃんが接客してる隙に、カウンターの中覗いて、置いてあったメモを盗み見したんだよ!」


「はあ。油断したな、シロさん」


 今後は大事なメモは、愛莉の目の届かないところに隠してもらおうと思った。愛莉は駆け寄って、チェシャ猫の顔を覗き込む。


「観光バスであちこちに移動してる、団体様レイシーなんだってね。レイシーって、束になってるケースもあるんだ」


「一匹見たら三十匹、じゃないけど。こういうパターンも珍しくはない。似たのが寄ってくるのか、一体だったのが分裂してんのかは知らねえけど」


 今回のレイシーたちは、近隣地区の狩人が取り零した案件である。決まった地域をバスで移動し、接近した車両に交通事故を起こさせ、誘発した怪我や事故死を餌にしている。

 愛莉はバスの方に目をやり、少し声を低くした。


「チェシャくん、容赦せずに駆除しちゃってー」


「言われなくてもする」


 チェシャ猫が面倒そうに、おざなりに答えた。


「ったく、バス一台使ってる分かりやすいレイシーを取り零すとは、近隣の狩人とやらも使えねえな。まあ、素直に役所に申し出てるのは幸いだが」


「取り零したの、黙ってる狩人もいるってこと?」


「手続きが面倒だったりして、隠し通す奴もいる。仮に取り零しても、被害が拡大する前にすぐ自分で対処すれば揉み消せるからな」


 応じたあとで、チェシャ猫はくるっと愛莉に顔を向けた。


「て、あんたには関係ないだろ。帰れ」


「なんでそんなに邪険にするの。瑠衣先生もトゲトゲお姉さんも、あとトンネルのレイシーも、皆あたしに触れなかったじゃん? だったら危なくないし、むしろチェシャくんのお手伝いができると思うよ」


「そうだけど、万が一ってこともあるだろ」


 チェシャ猫はぼそぼそと小さく、且つ苛立った声で言った。


「万が一相手のレイシーを駆除し損ねて逃げられたら、レイシーは俺や近くにいたあんたを覚える。そうなったら、今度は向こうがこっちに奇襲をしかけてくる」


「うん」


「あんた自身はレイシーを寄せ付けなくても、あんたの家族とか、身の回りの人間に危険が及ぶかもしれない」


 チェシャ猫が怖い顔で愛莉を諭す。


「俺はあんたやあんたの周辺の人間を四六時中庇えるわけじゃない。たしかにあんたはレイシーを怯ませるから、いれば便利かもしれない。だがリスク考えたら、あんたを連れていくわけにはいかないと、シロさんとそう決めてんだよ」


「つまりチェシャくんは、愛するあたしを守るためにも危険な場所には来ないでほしいと……」


「そうは言ってねえだろ」


「そういうことでしょ!?」


「違う。俺はあんたなんかどうでもいいんだからな」


 チェシャ猫はふいっと前を向いて、早歩きでバスに向かった。


「いいか。俺はシロさんに言われてるからそうしてるんであって、俺自身はあんたがどうなろうと心の底から興味がない」


 いつも以上に冷たく愛莉を突き放し、わざと置いていくように足早に行く。


「あんたを足でまといだとは思わない。なぜなら俺は、あんたになにかあっても庇わないからだ。目の前で死にかけていようと、助けない。シロさんには『ついてきてたとは気づかなかった』で押し通す」


「うん、いいよ。チェシャくんはそのくらいあたしに冷たいのがちょうどいいね」


 見放されていても、愛莉は上機嫌でついてきた。チェシャ猫はまた大きなため息をついた。少し怖がらせれば引き上げてもらえると考えてわざと突き放したのに、これも効果なしだった。ポジティブがすぎる愛莉は、チェシャ猫にはコントロール不能である。


「……もう知らん。ついてくるなら、せめて邪魔はするなよ」


「まっかせなさーい」


 愛莉は声を潜めて、それでいて楽しそうに敬礼をした。

 チェシャ猫が先を行き、愛莉は少しだけ離れて、ふたりは観光バスに向かった。駅前の明るい通りには、遅い時間にも拘らず人がたくさんいる。

 ふいに、チェシャ猫が愛莉に問いかけた。


「なんかあんた、彼氏ができたとかなんとかって浮かれてなかったか。幸せの絶頂なのにわざわざ危険なところに来るとは、変わってんな」


「あたしの話、本当に聞いてなかったんだね。彼氏ができたなんて言ってないよ。ただ、あたしにひと目惚れした男の子がいたってだけ」


 愛莉が少々むくれて、ため息をつく。


「けどどっちにしろ、それって嬉しいことだよね。あたしが死んだら、あの人泣いちゃうのかな。あの人……えーと、お、小川じゃなくて、小山じゃなくて……」


「名前、覚えてねえのかよ」


 チェシャ猫は名も知らぬその男子生徒に同情した。彼の方は愛莉に好意を持っているのに、愛莉の方は関心が薄そうである。なかなかハードルの高い恋のようだ。

 愛莉はチェシャ猫を追いかけ、無邪気に尋ねた。


「それよりチェシャくん。シロちゃんが言ってたチェシャくんの借金って、なんのお金なの? 普通に働いても返せない額だって言ってたくらいだから、かなりの大金だよね。どうしてそんな借金抱えたの?」


「あんたはずけずけと……デリカシーの欠片もない奴だな」


「だってほら、あたしチェシャくん大好きだから、結婚するかもしれないと思ったらそういう事情も知っておきたい」


「絶対しないから安心しろ」


 やがてふたりは、バスの前に到着した。黄色いバスはどこでもよく見かける観光バスのようだが、よく見るとやけに状態が悪い。車体は傷だらけで、窓にはヒビが入り、タイヤには蔦が絡んでいる。どこかに打ち捨てられていたバスを拾って、塗装したのだろう。


 バスの入口には、ガイド風の女性が立っている。

 チェシャ猫はちらりと愛莉を振り向き、無言でハンドサインを出した。バスの影を指さし、「隠れていろ」と合図する。愛莉はこくんと頷き、指示どおりに身を隠した。

 一方チェシャ猫はというと、入口の女に堂々と歩み寄っていった。女は遠くを見つめて佇んでおり、チェシャ猫の方を見ない。愛莉はそれを不思議そうに眺めていた。

 ついにチェシャ猫は女の真横に立った。それでも女は、全く別の方向を見ている。まるでチェシャ猫が見えていないみたいだ。いよいよ不自然な展開に、愛莉はますます目を離せなくなった。

 ふいに、チェシャ猫が女の首に下がった名札を手に取った。


「名前、文字になってないな」


「ひゃあっ!?」


 女がぎょっと飛び上がる。ここで初めて、チェシャ猫に気がついたのだ。


「いつからそこに……名札、えっ」


 しかし女は狼狽しているうちに、額に銃口を突きつけられて、数秒後には黒い灰となった。

 愛莉はその一部始終を呆然と観察していた。どうやらチェシャ猫は、入口の女がレイシーなのか人間なのかを見極めるため、近づいて調べていたようである。そして名札が見せかけであると判断し、相手が人間でないと確信してから、弾丸を撃ち込んだ。

 なにより驚いたのは、チェシャ猫と女の距離である。

 音も気配もない狩人、「チェシャ猫」。その真髄を見た気がした。あれだけ近くまで寄っていっても、まるで彼自身が透明人間かのように気づかれないのだ。

 思わず愛莉は、歓声を上げた。


「すごい! チェシャくんって本当にチェシャ猫みたい!」


「おい! 隠れてろっつってんだろ」


 チェシャ猫が愛莉を振り向き、くわっと牙を剥く。


「大人しくじっとして……」


 と、そこでカシャンと、バスの扉が開いた。


「なんだ?」


 チェシャ猫と愛莉の声が聞こえたのだろう。中から観光客風の男が顔を出す。そして地面に零れていた黒い灰を見て、目を見開く。


「うわっ! 死んでる! くそ、お前何者だ!?」


 男に警戒心を剥き出しにされ、チェシャ猫はひとつ舌打ちした。羽鳥の拳銃を握り直し、男の額に向ける。


「クソガキ。あんたが騒ぐから見つかったじゃねえか」


「あたしのせい? ……そうかも」


 愛莉が苦笑いをする。

 チェシャ猫は不機嫌な目つきで拳銃を構え、真正面の男の顔面に銃口を突きつけた。


「まあいい。どっちにしろ特攻しかない」


 引き金を引くやいなや、銃弾が男の額を貫通した。

 男が灰を散らかしながら、崩れ落ちていく。隠れていた愛莉が顔を出して彼を見下ろした。

 チェシャ猫が拳銃をひと睨みし、舌打ちする。


「一回撃つごとに切り替わるのか、これ」


「ほんとだ。最初のガイドのときと今のだと、威力が違う。こっちは貫通してる」


 羽鳥から預かったその拳銃は、彼自身は「マルチツール」と呼んでいた。同じ名前の、ブレードやクリーパーが一体化している工具から着想を得たという。

 羽鳥作の拳銃「マルチツール」は、一丁の拳銃でありながら、発射速度や反動の違う別の拳銃に化ける他、催涙スプレー、錐、果てはダミーにも切り替わる。


 チェシャ猫はちらちらと周囲を見て、周りに見ていた人間がいないのを確かめると、そっとバスのステップに踏み込んだ。愛莉もバスの影から飛び出してきて、チェシャ猫に駆け寄る。


「マルチツール、ひとつの武器で何役もこなせて優秀だね!」


「おい。ついてくるな」


 チェシャ猫がバスに入りかけた足を止める。愛莉は無邪気に飛び跳ねた。


「それ選んで正解だった。選んだあたしを褒めて褒めて」


「そんなわけあるか。さっきも言ったが重い。しかも搭載してるツールが多すぎるし、勝手に切り替わるからコントロールが利かない。物珍しいだけで、全然実戦向きじゃない」


 と、開きっぱなしのバスの扉から新たに四、五人、男女が姿を現した。


「なんの騒ぎかと思えば! 貴様!」


「思ったよりたくさん乗ってるな」


 チェシャ猫の機嫌がみるみる悪くなる。


「まあ、この状況なら確かめる必要もなく全部レイシーだろうな。人間が混じってるとは思えない」


 彼はマルチツールを構え、引き金を引いた。パンッと音がして、銃口から真っ青な液体が吹き出した。立ち向かってくる者らのシャツにそれが降りかかり、彼らは悲鳴を上げた。


「なんだこれ……! べたべたするぞ」


「てめえ、なにをかけやがった!?」


 狼狽するレイシーらを見上げ、愛莉がチェシャ猫に小声で尋ねる。


「チェシャくん、なにをかけたの?」


「俺にも分からない。羽鳥、なにを仕込んだんだ?」


 チェシャ猫本人すらも困惑していた。このマルチツールなる機器が、どこまでのポテンシャルを秘めているのか、チェシャ猫も把握していないのである。


「なんだか知らねえが、余計なツール入れやがって」


 苛付きを募らせ、チェシャ猫は再び引き金を引いた。今度は散弾銃に切り替わり、青く染まったレイシーたちが次々と伏していく。


 チェシャ猫に続こうとした愛莉は、ハッと後ろを振り向いた。バスの外から、ひとりの若い男がこちらを見上げている。首から下げている名札には、ぐちゃっとした線が引かれているだけで、文字になっていない。愛莉はひと目で、彼がこのバスのレイシーの一味であると察した。


「チェシャくん後ろ……!」


 愛莉が声をかけようとしたそのときには、すでに後方の青年は名札を浮かせてひっくり返っていた。チェシャ猫が気づいて先手を打ったのである。


「危ねえ。もう少し反応遅れてたら間に合わなかった。全く、この新作、動作が遅い」


 チェシャ猫はすぐに前を向き、バス車内に突撃した。すでに侵入がバレているチェシャ猫は、足音を潜めるでもなく、堂々と飛び込んでいく。中には十人前後のレイシーがおり、それらが一斉にチェシャ猫に注目した。


「なんだてめえ! 何者だ!」


「落ち着け、相手は人間だ。殺せ」


 レイシーらは各々、目をぎらつかせてチェシャ猫に突っ込んできた。彼らももう、正体を隠そうとはしない。

 特攻してくるレイシーの群れに、愛莉はひゃあと皮肉っぽい歓声を上げた。


「すっごーい! こんなにたくさん! スリル満点だね!」


「いつまでそこにいる。あんたはバスを降りてろ」


 愛莉を冷たく一瞥して、チェシャ猫はレイシーらにマルチツールを構えた。


「クソガキ、あんたなんでそんなに余裕なんだ。ただの高校生なら、もう少し怯むもんだろ」


 チェシャ猫はマルチツールを突き出し、容赦なくレイシーらに撃ち込んでいく。灰が吹き上がり、車内を舞って、スモッグ状に渦巻いた。

 愛莉はんー、と楽しげに首を傾けた。


「あたしがパニックになったら迷惑でしょ。あっ、怖がってた方がかわいい?」


「その二択なら、余裕ぶっこいててくれる方がマシだな」


 短い会話を交わすふたりに、レイシーの男が牙を突き出して突進してきた。チェシャ猫はその男に向けてマルチツールの引き金を引く。岩石のような銃が重々しく反動を起こし、ずんぐりした銃弾を放つ。弾は男の喉を直撃し、牙はチェシャ猫の鼻先で止まった。男は断末魔を上げて床にひっくり返り、悶絶し、灰になった。


 しかし、やはりこの拳銃はチェシャ猫が思うよりやや反応が鈍い。チェシャ猫は本日何度目かの舌打ちした。


「せめて固定できればマシなのに、勝手に切り替わるのが厄介だな……」


 改めて、引き金を引く。だが、銃口から飛び出したのはパンッという破裂音と紙テープと花吹雪だった。

 これにはレイシーらも絶句し、チェシャ猫も目をぱちくりさせた。


「は? なんだこれ」


「そういえば、ダミーにも切り替わるって話だったね」


 チェシャ猫の背後で、愛莉が囁く。舞い散る紙テープと花吹雪の向こうに、チェシャ猫はひとりのレイシーの姿を捉えた。向かってくる他の者とは違い、バスの奥に引っ込んでいく。反対側の扉から逃げようとしているのだと気づき、チェシャ猫は振り向かずに背後に指示を投げた。


「おい、あんた! あっちの出口塞げ!」


「OK! あたしにまっかせなさーい!」


 愛莉は上機嫌で敬礼をして、バスのステップを飛び降り、バスの外周を駆け抜けた。反対側の扉へと先回りすると、降りようとしていたレイシーがギャッと叫ぶ。


「なんだお前、なんだお前……!」


 愛莉からはなにもしていないのに、レイシーは震えながら後ずさってバスの中に戻っていく。愛莉はそれを追い詰めるようにして、ステップを上った。

 バスに入ると、レイシーと対峙するチェシャ猫が正面から拝めた。残り三人まで減ったレイシーらは、牙を剥き出しにてチェシャ猫に飛びかかっていく。

 チェシャ猫はついに、ため息と共にマルチツールを放り捨てた。


「やっぱりだめだ。使い物にならない」


 それからコートの内側に手を突っ込み、中からナイフを取り出した。

 そしてレイシーらの懐に突っ込んでいき、ナイフで相手の手首を切りつけ、柄で殴り、腹部を蹴飛ばしていく。レイシーらは傷口から灰を零して、さらさらと砕けていく。最後のひとりが床にへばると、チェシャ猫はその男の襟首を掴んだ。


「バスの外にもいるのか?」


「こ、これで、全部」


「正直に吐いたら、お前だけ助けてやろうか」


「……駅の北口に、ふたり。衝突事故の現場に、瘴気を喰いにいった奴がいる……」


「そうか。さっきのは嘘だ。ご苦労」


 チェシャ猫は酷く冷たく言うと、レイシーの首にナイフを突き立てた。

 扉の前で立ち尽くす愛莉は、その様子をぽかんとして眺めていた。


「ナイフ、持ってたんだ」


 はあと感嘆して、ひとりごちする。

 チェシャ猫の仕事は、失敗が許されない。武器はひとつではないだろうし、初めて使う新作、それも得体の知れない「マルチツール」だけに頼るわけがない。当たり前か、と納得する。

 周囲には黒い灰の山と、カラフルな紙テープと花びらが散らばっている。真ん中にしゃがんだチェシャ猫は、肩で荒い息をして言った。


「次だ……駅の北口、行くぞ」


 片手に握ったナイフは、黒い灰で汚れていた。

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