喫茶店の白ウサギ
「――でね。チェシャくんはそのあと、立てなくなってたあたしに肩を貸してくれて……」
「愛莉ちゃーん。その話もう何度も聞いてるよ。体感百回目くらいかな」
『和心茶房ありす』のカウンター席。黒蜜ほうじ茶を片手に惚けた顔で語る愛莉と、それに付き合わされるシロの姿がそこにあった。
ふたりのいるカウンターからは離れた壁沿い席には、チェシャ猫が苦い顔で和紅茶を啜っている。
「別に……ほっといてもそのまま約束忘れて口割るかもしれないし、落ち着くまでは見てた方がいいと判断したまでだ」
彼の向こう側の窓の外は、午後の晴れやかな空が広がっている。店は相変わらず閑散としていて、チェシャ猫と愛莉とシロ以外に誰もいない。愛莉がきらきらした目をチェシャ猫に向けた。
「なんだかんだ言って、家まで送ってくれたよね。ほぼ無言だったけど」
彼女のこういう無邪気さが苦手で、チェシャ猫は余計にうんざりした。
「だから……落ち着いてからもう一度説得しようと思ってだな」
チェシャ猫が愛莉をトンネルの化け物から救った夜。あれから愛莉はすっかりチェシャ猫を気に入り、こうして彼が出没する『和心茶房ありす』を訪れるようになっていた。
「ともかくあたしは感動したんだよ。大ピンチのところへ颯爽と駆けつけてきてくれて、怖い奴らをバッタバッタ薙ぎ倒す!」
拳を握りしめ、愛莉が熱く語る。
「か弱い女子高生に救いの手を差し伸べたのは、『チェシャ猫』の異名を持つ無音のハンター! 痺れる!」
「あんたを助けに来たんじゃなくて、ターゲットがたまたまあんたを囲ってたというだけだ」
「でも実際、あたしはチェシャくんに助けられたの! ヒーローだよ、ヒーロー!」
熱弁する愛莉を眺め、シロがはははと笑った。
「あながち間違ってないかもね。実際、チェシャくんは、自身を危険に晒してレイシーを駆除してくれてる」
「報酬が出るからやってるんであって、なにも大義名分があるわけじゃない。平和を守ろうとしてるわけでもなんでもねえぞ」
チェシャ猫は椅子の上で脚を組んだ。シロがまあまあと彼を宥める。
「チェシャくんはかわいげがないな。愛莉ちゃんは褒めてくれてるんだから、素直に喜べばいいのに。まあでもこんなにしつこく褒められたら辟易しちゃうのも分かるけどねー」
「だって、あたしあのとき本当に死ぬかと思ったんだもん。お化け? 怪物? えっと、レイシー? なんて初めて見たし!」
愛莉が夢中になって言い返すも、チェシャ猫の方はしれっと返した。
「初めてってことはねえだろ。レイシーは普通の人間と見分けがつきにくいだけで、日常に当たり前に溶け込んでる。あんたが気づいてないだけで、一万人にひとりはレイシーと言われてる」
「ピンとこない!」
頭を抱える愛莉に、シロが微笑みかけた。
「それこそ瑠衣先生だってレイシーの一種だったわけだからね。レイシーは社会に上手に紛れ込んで、獲物を探してるんだよ」
「ひゃー、やだねえ」
愛莉はくたっと、カウンターに突っ伏した。
「正直あたし、まだレイシーってよく分かんない。そんなの現実にいると思ってなかったし」
「まあ、そういう『現実にいるとは思わないもの』を『レイシー』と呼ぶんだと思ってくれればいいよ」
シロがカウンターに肘を乗せる。
「レイシーは、基本的には群衆に混じって馴染んでる名もない存在。妖怪とか怪物みたいな、名前のある怪異に似てるものもいる。けど、伝承は殆ど創作物だから、そのまんまのはいないかな」
「なるほど」
分かっているのかいないのか、愛莉は少し顔を上げて返事をした。シロはにこりと微笑んで、付け足す。
「共通して、奴らは死ぬと灰になる。気持ち悪いね」
愛莉はやや眉を寄せ、唸った。
「本当に人じゃないんだなって感じがするね。でも、人間に混じって生活してるだけの、悪くないレイシーもいるのかな。だとしたら、駆除するのちょっとかわいそうじゃない?」
「たしかに、ただそこに存在しているだけのレイシーもいるね。だけど大抵が人を喰うし、喰わないものなら喰うものを増強させる。意思があるものは人を襲うために意思を持っているし、意思がないものは雑菌みたいなもの。どっちにしろ駆除しないとね」
シロが続ける。
「彼らの姿や生き方は、様々。瑠衣先生のように、人を喰うために人間に擬態していたり、初めから化け物の姿で暗闇に住み着いていたり、本体にはなんの力もないけど、人間の体に寄生することで力を持ったり、パターンはまちまち」
それから彼は苦笑の混じったため息をついた。
「だから対処法はその都度それぞれでさ。面倒くさいね。今回の瑠衣先生も、かなり珍しいケースなんだよ。個体名や職業を名乗って、あそこまで人間と密接に関わってるタイプは初めて見た」
「そうなんだ」
「うん。七割八割のレイシーが、他人に関心を持たれないただの通行人として紛れてる」
「トンネルに巣食ってたレイシーは、トンネルで事故死した男の霊を中心にしていろんな悪いもんが集まったものだった」
チェシャ猫が冷めた声色で、離れた席から付け足す。
「あれは人間社会に紛れ込まないで、ああして『場所』に取り憑いて獲物を待つタイプ。結構上級クラスのレイシーだったから、生きた人間も取り込まれるほどの力があった。あんた、あと少しであれの一部になってたな」
「わー、嫌すぎる。助けてくれたチェシャくんにはますます大感謝だね!」
顔を伏せていた愛莉はがばっと頭を擡げてチェシャを振り向く。また始まった、とチェシャ猫は目を背けた。そんな様子をカウンター越しに見ていたシロは、楽しそうに言った。
「で、そんなレイシーを人知れずお片付けしてくれるチェシャくんみたいな人たちを、便宜上『狩人』と呼ぶよ」
「かりゅーど」
愛莉が間抜けな声色で繰り返す。シロは頷いた。
「実は世界各地にいるんだ。愛莉ちゃんもチェシャくんに会うまで、レイシーが実在するとは思ってなかったでしょ。そんな感じで、知らずに過ごせる人々がレイシーに気づかず平和に暮らせるよう、存在を伏せてレイシーと戦ってくれる人たち」
「どうして存在を伏せるの? 平和を守るヒーローなんだし、大々的にやってもいいと思うよ?」
「レイシー側が、狩人の存在に気づいてしまうから。レイシーにとって人間は餌でしかないけど、その餌の中に脅威が混じってると気づいたら、真っ先に脅威な餌から殺しに行くでしょ」
「あ、そっか」
「狩人自身を守るためにも、コソコソしてた方がいいんだ」
愛莉にはまだ、レイシーやそれを取り巻く人々の日常をよく理解できていない。この店に来る度に少しずつシロから聞いているのだが、あまりにも非現実的すぎて頭に入ってこない。
分かっていなそうな愛莉に、チェシャ猫がさらに追い打ちをかける。
「相手は人知を超えた存在だ。接触してすぐに仕留めないと、どんな反撃を食らうか分からない」
「あっ、そうだよね。レイシーは自分が人間じゃないってバレたら、もう人間の真似する必要がないから、思いっきり襲ってくるんだ」
愛莉がポンと手を叩く。チェシャ猫は小さく頷いた。
「それと、顔を覚えられたら狙われやすくなるから、一度戦闘になったレイシーは必ず駆除しなくてはならない。取り零せば、あとから奇襲される」
「物騒だなあ。せめて言葉を話せるレイシーなら、話し合いで解決できないの?」
「甘い。不可能だ」
愛莉の疑問に、チェシャ猫は即答した。
「たとえ会話が成立するレイシーだとしても、言葉が分かるだけで話が分かるわけじゃねえ。そんな隙を見せたら、その瞬間に攻撃されると思え」
「えーっ。妖怪と友達になったり、幽霊の悲しみを聞いてあげて成仏させたりは……?」
「漫画の読みすぎだ。現実のレイシーはそんなに人間に寄り添える存在じゃない。過去に人間だった奴らでさえ、大概が人格も感情もなくしてるんだよ」
チェシャ猫が容赦なく一蹴する。残念そうに唇を尖らせる愛莉に、シロはくすくすと笑った。
「そういうこと。狩人は一瞬の隙も許されない。短期決戦第一なんだ。だからしっかり慎重に対策をとって、確実に仕留めなくちゃね」
ふいにシロは、カウンターの内側から封筒を取り出した。角二サイズの茶封筒である。
「さてチェシャくん。有栖川瑠衣についての報告書と灰の提出、よろしくね。それが受理されないと賞金が振り込まれない」
そう言いつつ、シロが茶封筒を手にカウンターを出ようとする。チェシャ猫は面倒くさそうに一瞥した。
と、ここで愛莉が首を傾げた。
「ねえ、その報告書と灰ってどこに出してるの? 賞金って?」
「区役所だよ。あれ、これ説明してなかったっけ?」
シロが目をぱちぱちさせる。愛莉は宙を仰いで、えへっと笑ってみせた。
「聞いたかもしんないけど、忘れた」
「もう、愛莉ちゃんって興味が薄いことはすぐに忘れるよね」
シロは苦笑いののち、カウンターを出るのをやめて愛莉の正面に戻った。
「どこの地域の役所にも、それなりの規模のところであれば大抵レイシーを取り扱う部署があるんだ。部署名は各々、『地域安全課』みたいな感じでぼかしてて、レイシー専門だとははっきりとは言わないんだけどね。ともかく、レイシーの駆除は役所の許可が必要なんだよ」
シロが愛莉の前に封筒をぶら下げる。見れば宛先には区役所の名前と、例に挙げられたとおり「地域安全課」と刻まれていた。
「狩人がレイシーを発見して、それが間違いなく人間ではないという確証を掴むまで調査。確定したら、書面を作成して管轄の役所に提出して、許可を取ってから討伐に行く」
「めちゃ事務的じゃん」
「役所の方から依頼が来るケースもあるよ。誰かしらが見つけて役所に報告が行ってるレイシーを、管轄の狩人に駆除をお願いされるパターンだね。狩人の活動地域は厳密には決められてないから、全国誰がどこのを駆除しても問題ないんだけど、まあ基本的には属してる役所の管轄地域での仕事がメインかな」
「狩人同士の縄張り争いを防ぐため、みたいな?」
「ううん、単純に手続きが面倒くさいから」
シロがさらりと現実的な返事をする。チェシャ猫がそれに続いた。
「で、狩人はレイシーを駆除したら、役所に報告書を提出する」
彼は椅子の背もたれにかけていたモッズコートに手を突っ込み、ポケットから試験管を取り出す。
「その際、駆除したレイシーから採取した灰も一緒に渡す。駆除したという証拠だ」
しっかりと蓋をされた試験管の中には、雨水を吸い込んだ黒い灰がどろどろ詰まっている。シロがにこにこ笑って付け足した。
「証拠っていうのもそうだけど、この灰は最終的に研究機関に渡って、レイシー研究の重要なサンプルになるよ」
チェシャ猫が試験官を目の高さに掲げる。
「採集分の以外の残った灰は、風ですぐ散るし、何日も経てば日光で浄化されて自然に消える。けど目立つ場所に残った場合は、放置しておくわけにもいかないから掃除までが狩人の仕事」
愛莉は茶封筒を見上げ、ふうんと鼻を鳴らした。
「なんかなあ……身近にこんな漫画みたいな世界があるの、未だに信じられない。その割に、役所とか研究機関とかお掃除とかは、やたら現実的だよね」
「うんうん、現実にこんなことがあるなんて思わないよね。でも普通はもっと戸惑うから、愛莉ちゃんは落ち着いてる方だよ」
シロはくすくす笑うと、改めてカウンターを出て、チェシャ猫のテーブルに茶封筒を置いた。
「今回の有栖川瑠衣の件は、まず発見の段階から経緯説明を書かないとね。どうやって突き止めてどう追い詰めたかまでしっかり報告しよう」
「面倒くせえ……もう済んだことなんだからどうでもいいだろ」
封筒を受け取りつつも、チェシャ猫は顔を顰めている。報告書嫌いの彼に、シロは少し俯き、言った。
「気持ちは分かるけど、過去のサンプルを集めることで将来的に現れるレイシーに対する対策に繋がるから……」
「っせえな、分かってるよ。書くよ」
チェシャ猫は半ば声を尖らせ、封筒を開けた。中から専用の報告用紙を数枚取りだし、カウンターに置く。シロはにっこり微笑んで、自分のボールペンを貸した。
「まず発見の経緯。今回は愛莉ちゃんが見つけたんだよね」
名前を出され、愛莉は元気よく手を上げた。
「うん! 学校に来られなくなった友達にプリント届けに行ったら、瑠衣先生と会ったの。真冬なのにジャケット一枚だし、缶コーヒー持ってるけど持ってるだけで飲まないし、変だなーって」
「お手柄だったね愛莉ちゃん。よし、お礼に和栗モンブランをご馳走しよう」
シロが気前よく言うと、愛莉は大喜びで手を振り上げた。
「やったー! 気づいてよかったー!」
愛莉はなんとはなしに、有栖川瑠衣という変わった人がいる、とシロに報告した。接触している生徒の具合が悪いと知り、チェシャ猫とシロは調査に入った。
数日様子を見たところ、瑠衣の出入りをポイントに友達の具合が悪化すると判明。さらなる追跡調査したところ、明らかに人間と違う生活習慣を持つと分かり、有栖川瑠衣をレイシーと断定。
そう書こうとペンを構えたチェシャ猫だったが、ペン先が用紙につく前に止まった。
「この女子高生のこと、なんて説明すればいいんだ?」
「あー、知人女性とかでいいんじゃない?」
シロがカウンターに戻ってきつつ答えて、そうだ、と手を叩いた。
「発見者の知人女性が無事だったと報告する書面も書かないと。あと愛莉ちゃんの友達が被害に遭ってるから、被害者の状況報告も。用紙をダウンロードしておかなくちゃ」
「面倒くせえ……」
チェシャ猫は先程と同じ悪態をついて、気だるそうにペンを走らせはじめた。
愛莉は黙ってほうじ茶を啜り、書き物をするチェシャ猫を見ていたが、ふと顔を上げてシロに尋ねた。
「ねえシロちゃん。あたし、先生を見て冬でも薄着で変わってる人だなって思った程度で、まさか化け物だとは思わなかった」
そもそも、他人を人以外ではないかと疑うなど、まずない。
「なんかもっと、レイシーをレイシーだって一発で見抜ける方法はないの?」
「残念ながらないね。証拠を集めて、ちょっとずつ確信に近づいていくしかない」
シロの返答を受け、愛莉は眉間に小さく皺を刻んだ。
「えー。漫画だったらもっと、霊感のある人なら見ただけで見抜けるとか、空気が淀んでるとか、あるじゃない」
「そんなに分かりやすかったら苦労しないよー。物によってはあからさまな妖気を発してる、所謂悪寒を感じさせるものもいる。けど殆どのケースがそんな露骨なやつじゃないんだよ」
「つまんないの……」
愛莉が唇を尖らせる。シロはカウンターに腕を乗せて苦笑いした。
「レイシーは真人間の生活を真似てるだけだから、必ずなにかしらの違和感がある。そこを突き詰められれば必ずボロが出る。小さな違和感を見逃さないのがポイントだよ」
「そっか、瑠衣先生も気温を感じてないっていう違和感があったから、変だなって思ったんだった」
「そうそう。そういうきっかけを掴んで少し調査すると、結論に近い大きな違和感に辿り着く。帰る場所を持たず夜通し同じ場所を徘徊してるとか、何十年も同じ姿で目撃されてるとか。戸籍がないとかね」
「人間に紛れ込んでるだけだから、細部がテキトーなんだね」
愛莉は納得して頷き、それからまたシロを見つめた。
「それにしてもシロちゃんって、レイシーにすんごい詳しいよね。何者?」
尋ねられたシロが、いたずらっぽく笑う。
「うーん、ただの喫茶店のマスター」
「なにそれ。少なくとも『ただならぬ』喫茶店のマスターでしょ」
「ただのマスター」
彼はそう言いつつ、愛莉の前にコト、と皿を置いた。そこには鎮座していたのは、優しい朽葉色のクリームのモンブランである。天辺には、ウサギ型にくり抜かれたマロングラッセ。愛莉の目がまた輝いた。
「おいしそう! ありがと、シロちゃん」
「こちらこそ。どうぞごゆっくり」
ふたりのやりとりを横目に、チェシャ猫は一旦ペンを止めた。モンブランを喜んでいる愛莉を睨み、問いかける。
「おい。どうでもいいがあんた、どうして有栖川瑠衣をこの店に連れてきたんだ?」
報告書に書くことでもないので本当にどうでもよかったが、純粋に疑問を抱いていた。愛莉が鞄から携帯を取り出しつつ、さらっと答える。
「ん? 抹茶ラテがおいしいからだよ」
シンプルな回答に、チェシャ猫は拍子抜けした。
「あんたがここにあいつを連れてきたせいで、俺は面が割れて、追跡中にあいつに気づかれたんだぞ」
そしてカウンターの向こうで微笑むシロを手で示す。
「それにな、一度決めたターゲットを喰いきるまで次に行けないタイプだったからよかったものの、そうじゃなければシロさんが喰われてた」
「ごめんごめーん。だって先生に抹茶ラテ飲んでほしかったんだもん」
愛莉は悪びれずにへらへら笑った。
愛莉の一連の行動には、これといって裏表はない。素直な優しい気持ちを瑠衣に浴びせて反省を促すとか、最後に後悔させたいとか、そういう目的は一切ない。ただ瑠衣においしい抹茶ラテを飲んでほしかっただけなのだ。
「まあでも、レイシーだから、飲み物だって分からなかったのかな。飲んでなかったね! ウケる」
「最近の高校生の考えることは分からん」
「なにそれ。おじさんじゃん」
愛莉は抹茶ラテとモンブランの写真を撮り、携帯をテーブルに置いた。フォークを手に取り、徐ろに話を戻す。
「でもさー、それ言ったらチェシャくんだって、レイシー相手にコーヒー奢ろうとしたじゃん」
「それは、あいつがなんか喋りはじめたからだ。レイシー本体から情報を抜き出せれば、灰以外から採取する貴重な資料になる」
チェシャ猫が紅茶を口元でカップを止めて言う。
「物を与えたのは、警戒心を解く常套手段だ。あんたも言ってるとおり、飲み物を飲み物だと分からない奴だから、受け取らなかったけど」
モンブランにフォークを入れていた愛莉は、ぱっと顔を上げた。
「でも、あたしが『先生は缶コーヒー持ってた』って話したのを覚えてて、あったかいのを買ってあげたの、優しいよね! ツンデレじゃん、いや、かわいいとこ見せてから駆除するんだから、逆だ。デレツンだ。上げて落とすやつだ。チェシャくんのそういうとこ好き!」
愛莉はきゃーっと顔を輝かせ、満足げにモンブランのひと口目を口に運んだ。そしてまた身をよじって興奮する。
「おいしい! 幸せ!」
チェシャ猫は黙って、紅茶を啜った。愛莉と出会って一週間が経つが、このテンションには未だついていけない。一週間前に比べれば、まだ対応できるようにはなったが。
チェシャ猫は目を伏せ、当初の出来事を思い出した。
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