管理都市OSHIAGE
そこは日本一の電波塔の袂、感情ボックスの位置。今日も今日とて感情が出入りする。ネガティブな感情はしまわれ、ポジティブな感情が引き出される。市民はそうして幸福を得る。世界はそう廻っている。そうあの日まではそう思っていた。黒い仮面、雷撃、死んだ両親、妹。空の鬼は吠える。どうして、と。世界は完璧で幸福じゃなかったのかと。両親の実家から短刀を持ち出した。そして世界の裏に飛び込んだ。黒い仮面を追いかけて。途中、同志とも出会った、歳は離れていたが志を同じくする者。そして彼は
「負の感情を『境界』の向こう側へ送り続けていた……それがこの社会システムの真実」
それを知ったのは十六歳になった時、彼が境界越境者、通称、
そのはず、だった。
人間が感嘆に感情を捨てるなんて事出来ないのかもしれないといういい例だ。とある白髪の少女を見た。その娘は雷撃の囚に襲われていた。そこで「先祖返り」のクウキは未来視で雷撃へと対抗する。
「君は何者だ!? どうして囚に狙われる!?」
「わ、私は吹雪! 私もわかんない!」
「お前ら! 敵を前にして自己紹介なんかしあってんじゃねぇ!!」
雷撃を短刀でいなす。そして返す刀で斬り付ける。五年の間、戦い続けた歴戦の手練れ、そんな風貌。
「お前、黒い仮面の男を知っているか」
「知ってる、って言ったらどうする。ククッ」
「殺してでも聞き出す」
獰猛な表情で一人と一体がぶつかり合う。剣戟と雷撃、爆ぜて、混ざって、消えて、生まれる。人の業とは思えない。それは空の型と呼ばれる。神殺しの演武だった。実戦で使える演武など無茶苦茶にもほどがある。しかし、存在するものは仕方がない。
そこに第三者が現れる。
「仮面の男を知っているってのは本当か」
帯刀した男が一人、現れる。江戸時代に失われた秘術を復活させ、その名を継承した男、
「毒素抜刀術・第一宣告・許さずの言」
雷撃が腐る。あり得ない超常現象。これこそが失われた秘術、異能の毒。それに体術を合わせ、一撃に乗せる。
さらなる来訪者が一人、現れる。
「やぁ、復讐者諸君に
「黒い――」
「――仮面の男!」
「ふぇ?」
「ちっ、なんで出てきやがった!」
雷尾と呼ばれた囚が唸る。仮面の男はやれやれと首をすくめて手を挙げた。
「今の君じゃ分が悪い。せめて二本は尻尾が欲しい、今日のところは退散しようじゃないか」
「逃がすと」
「思ってんのか」
短刀と刀が翻る。未来視によって黒い仮面の男の身動きを封じる形で攻め入り、最高濃度の毒を振りかぶる。しかし。短刀は指二本で受け止められう。刀は空を切る。
「僕が殺しちゃってもいいんだけどね? それじゃ面白くないだろう? この因縁、決着はあえて雷尾が付けるべきだ」
「なんで俺が」
「まあそういうなよ。
「それまでの『仲』だ」
「あら冷たい」
黒い仮面の男は短刀ごとクウキを腐に投げつけて、ぶつける。未来視の対応が間に合わず。ぶつかる。地面を転がる二人。雷尾と仮面の男は境界へと消えていく。
「じゃあ吹雪ちゃん、時が来たらまた回収しに来るよ。全ては星辰が揃う時に」
「今度は逃がさねえ」
「ねぇ、らいび? っていうあなた?」
「あん?」
「おっと雷尾――」
「あなた、きっと騙されてるわ。だって――」
そこで雷尾と黒い仮面の男の姿は消える。
「言い損ねちゃった」
そう言って白髪の少女はまた駆け出す。笑顔で。
宵闇の狭間 亜未田久志 @abky-6102
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。宵闇の狭間の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます