地下決戦 下


 輪廻は思わず展開していたまよひがを止める。腐は自分を縛る糸を無理矢理断ち切る。


「よくやった、炉心の位置までは俺が運ぶ」

「いやなんかお前、戦ってないか……?」

「加勢するが……?」

「いらねぇ、死んどけ」


 境殺二人の首か刎ね跳んだ。腐が刀を投げたのだ。恐るべき腕力、しかし、行動に謎が残る。


「何故、今、仲間を殺したのです……?」

「別に仲間じゃねぇさ、ただのご同業。荒覇々奇アラハバキを知るやつは少ない方がいいのさ、当然、お前ら含めてな、影法師! 刀と女神を取りに行け」

「女神というのは雪姫の事か?」

「ああ……確かそんな名前だったかな、なんでお前が知ってる?」

「雪姫って輪廻さんそれ」


 空殻もよく知る人物だった。幼い頃から雪姫と鉄の娘、白雪と共に育てられたようなもの、そう空殻を産んで早々死んでしまった母親の代わりを務めてくれたような人物だった。その人が女神? と空殻は疑問符を浮かべる。


「父さんは……父さんをどうした……」

「お前の父親がどうした」

「山籠りしていた予言師だ! 雪姫さんと鉄と白雪と一緒に暮らしてた! 俺と一緒に!」

「ああ……そうか、お前が例の予言師の息子か、道理で厄介な狐憑きだと思った。でも此処に雪姫がいるって事は、まあ十中八九、死んでるだろうな」

「なっ、あっ……?」

「空殻、落ち着きなさい、聞いていますか?」


 空殻は短刀を握りしめ、九尾を完全体で顕現させる。狐火が辺りを渦巻く。くされはコキリと首を鳴らす。刀を振るう。蛇のような剣筋が閃くと炎を掻き消す。いや。


「炎を!?」

「ククッ、厄介だな……どうする。諦めるか?」

「雪姫さんは必ず助け出す……あやちゃんのお父さんの仇も取る……! 父さんの無念を晴らす!」

「空殻くん!」

「輪廻さんはあやちゃんを連れて逃げて、もうすぐ此処は火の海になる」


 金色こんじきの瞳は爛々と輝き、九尾と狐憑き、二柱の神が顕現する。それは奇しくも山狩りの再現であった。

 敵が一人、神は二柱。片方の神はことわりを敷き、片方が未来を視る。腐はそれに対応する。一振りで何撃も閃く剣戟、全て短刀で受け止める。鉄の溶ける臭いがした。

 九尾が炎の理を敷く、腐の肺を焼きにかかる。しかし。


「ククッ!? こいつ呼吸してやがらねぇ!?」

「違う、一呼吸であそこまで動いているんだ。次の呼吸で仕留める」

「冷静だナ! オイ!」

「絶対に、殺す!」

「こっちの台詞だ小僧」


 腐と空殻の剣がぶつかり合う、腐らせる剣、そして、空殻の短刀は――


「再生している!?」

「大蛇の牙から作った再生の短刀、俺の未来視に耐えられる器はこれしか無かった」

「道理で!」


 連続する剣戟の音、金属音、腐る音、再生する音、繰り返される。繰り返される。繰り返される事、十を超えた辺りで。腐が一呼吸。炎を吸い込んだ。肺が焼け爛れる。はずだった。


「俺の身体は特殊製でな、まだ耐えられる」

「何度でも! 九尾! 炎を絶やすな!」


 短刀を逆手に構え、型を変える、


「連鬼慟哭!!」

「技変えたところでなァ!」


 必殺の二連撃、放つ空殻は、しかし腐を殺す未来が見えない。炎に撒くしかないが、その未来も見えない。何重にも重なった未来がブレている。連鬼慟哭が通じないと分かった空殻は一歩いや跳躍して炎の向こうに跳ぶ、炎の真ん中に残される腐。


「九尾、同調」

「アレか! 久々だナ! 自分の身を焼かれるなヨ!」

「焼いてでも、だ。傾国けいこく大妖たいよう、九尾、九本開放!」

「人の身にて神に成る……か! なら! 影法師! 運び終わったな!」


 偽神ぎしん荒覇々奇アラハバキの炉心にが灯る。動き出す巨体、江戸城を切り崩し、月夜の町に出た。


「見ろ! これが偽神・荒覇々奇だ!」


 巨大な一本角、鎧武者のような風貌、巨大な火砲を持つ人型、顔には鬼の面。そして表面に氷を纏って行く。炉心の力だ。九尾対荒覇々奇。

 此処に江戸を崩しかねない最終決戦が始まろうとしていた。

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