手練れ
いた。敵の異能による摩耗が始まる。多勢に無勢。
「お前と心中した方がマシではないか?!」
「雪姫、滅多な事言うな、お前だけでも生かして帰す」
「お前、まさか」
「傾国の大妖、白面の者、狐の尾、六本開放……!」
空の背、尾骶骨から狐の尾が生える。狐火を放ち、
「蟻地獄か……吸い込まれたら終わりだねぇ」
「捕縛するにはうってつけか」
蟻地獄自体は凡庸な囚だが、理を敷く程となると牛鬼からの派生系かもしれない。狐火は砂に効果が無く、雪姫の氷の理は拮抗するばかりで手が届かない。
万事休す、であった。敵兵力、いまだ減らず。そこに一人。大女が現れる。鬼の角を生やし、
「つかまぁえたぁ」
「離せ下郎」
「誰が下郎だ、ブス!」
「お面で顔を隠した醜女が何を」
「殺してやる」
「まて! 半鬼! そいつは炉心だ! 殺すなら、男の方にしろ!」
不承不承と言った様子で空を殴りつける半鬼、未来視でもかわせない巨大な鬼の拳、もろに喰らう。空は吹き飛ばされる。
「空!」
「お前は来てもらうよぉ」
「くそっ離せ……!」
「囚なら少し力込めても死なねぇよなぁ」
雪姫を握りつぶす半鬼、血を吐く雪姫、空はもう意識が薄らいでいる。単なる力押しで負けるとは思えなかった二人。しかし負け戦は覚悟の上、白雪を逃がす事には成功した。それで十分だった。
(後は任せたぞ……息子よ……)
(なんの因果か知らないが、雪姫はお前が救ってくれるんだろう……?)
血反吐を吐いて前へと進む、せめて一矢報いる。狐火を再加熱させる。変色する炎。紫の炎が半鬼を襲う。背中から撃たれた半鬼は炎上し絶命する。意識を失った雪姫を他の境殺が回収する。その最期の一撃を放って空は息を引き取っていた。
「半鬼が死んだ!?」
「クソッ、手間かけさせやがって!」
もう二人にまで減った境殺の集団。雪姫が意識のないうちに山を下る。
一方、江戸には異能による念話で雪姫確保の通信が入る。
「おっと、いよいよ手間が省けたが……ちょっと困った事になったねぇ」
「こいつの前で戦闘か……やんなるね」
荒覇々奇、その御前で、将軍の命とは関係のない戦闘が始まろうとしている。父娘殺し、私怨と言えばそれまでだが、こんなもの作った対価を払わってもらわなければならない。腐は少なくともそう思っている。しかし場所を江戸城に指定したのがまずかった。これでは計画が露呈する。
「まあ、なるようになれだねぇ、星墜としの悲願、宿業の終わり、全部が全部この刀で叶えてやろうじゃないの」
腐の決意は固く、その瞳は鈍い赤色をたたえていた。
江戸の城下町。
「なんだお父ちゃんお城いっただか」
「……みたいだね」
「では夜が明ける前に行きますか、善は急げと言いますし」
輪廻の言葉に頷き、三人は江戸城を目指す。しかしそこで羅針盤が斜め下に傾いた。
「おや?」
それは城の地下を指示していた。
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