山狩り


 とある予言師は氷の女神とその伴侶を守り隠していた。しかし。


「今だ! 山に火を放て!」

「周りに家は無い! 構わん放て!」


 洞窟内にも響く声、山狩りが始まった。男が震えている。近くに女神、名を雪姫と言った。男の名前は鉄。そして予言師のくうと言った。


「おっかねぇ、将軍様の家来だありゃあ」

「おっかないなら私が火を消しに行きましょう」

「悪いが雪姫、お前さんには白雪を守ってもらわにゃならん」

「それなら空、あんただけで十分だろう」


 毅然とした態度、何も恐れてはいないそんな気概である。治めるのも一苦労だと頭を掻く空。鉄も困ったように笑い。


「そうだよおっかさん、白雪もすやすや寝てらぁ」

「だけれどおっとさん、これは戦いだよ?」

いくさはおっかねぇけどよ……」

「お前も元足軽なら立て鉄」

「予言師さんまで……またぁ槍振るわにゃならんのか……」


 どういった経緯で女神と足軽が結ばれたのか、予言師は知らない。だけどそこには確かに愛があった。昔の妻との思い出を空は省みる。空殻を生んですぐ死んでしまった。短くも濃い一生であったと思う。そして予言を見た。白雪と我が子孫が凶星マガツボシを討つ瞬間を。遠い遠い未来に見た。だから守らねばならないと誓った。

 しかし今、その女神が狙われている。もう山に火は放たれた。幸い洞窟内に煙が入って来る事はないが火が消える頃には洞窟が暴かれているだろう。


「分かった、三人で戦おう、俺が前線に出るから雪姫が退路を作れ、そして鉄、お前が白雪を守って逃げるんだ」

「そうしましょう」

「ええ!? あの火の中に突っ込む気ですか予言師さん!?」

「構わん、火には慣れてる、散々、狐火に焼かれたからな」


 金色の瞳輝かせ、狐憑きが行く。するともう一対の金色の瞳、女神、雪姫の氷が世界を席巻する。火は消え、燃える木々が樹氷になる。


「行け! 鉄!」

「白雪を任せたよ、おとっさん」

「あ、ああ! 二人共、また会おう!」


 洞窟から出た空の後ろを駆けて鉄が去る、雪姫と空だけが残される。


「で? 未来はどうなるんだい空、まさか此処でお前さんと心中かい?」

「いんや、死ぬのは俺だけだ」

「そりゃまた」

「お前は将軍に捕まる、そんでが動く」

「神をも恐れない所業……か」

「まさしく『業』だよ」


 苦笑いする二人、すぐさま手練れの境殺けいさつが数人訪れる。


「さあさ絶景御覧じろ! これが天下分け目の大戦! 神を二柱! 殺す覚悟があるのかい!!」


 雪姫が口上を名乗り上げる。それに呵々大笑して追随する空。


「神を造るならァ! 神を殺す覚悟もいるってなァ!!」


 短刀を握りしめ、空が駆け出した。一人の境殺と対峙する。氷のことわりを敷く雪姫もまた境殺達と対峙する。


「この金色の瞳を見てもなお下がらぬか」

「将軍の命である。ご同行願おうか」

「下らんな」

「なにぃ!?」

「しんしんと」


 そう呟いて、さらに氷結が広がる。空中に氷柱が生える。それをかわす境殺。


「なかなかの手練れだな、これはどうだ?」


 氷の矢が何本も形成されては三百六十度、四方八方から境殺を狙い襲いかかる。それら全てをかわし生き残る男。そこで雪姫はその境殺の異能を見抜く。


「お前、一度死んでおるな?」

「見破ったか化生め! 生命を二度殺す『渡らずの河』お前に超えられるかな!」


 笑っている。戦場で笑えるのは幽鬼の類だけであるとは、鉄の言葉だ。まさしく雪姫が対峙しているのはその幽鬼の異能。三途の川の渡り船を加工した武器を使っている。恐らく服の下に隠し持っているのだ。その異能で死者として扱われている。もうその時点でその境殺は罰当たりだと雪姫は思った。


「それでこそ境殺よな、とらわれを狩ってこそか、どうやって三途の川まで行ったかは知らんが」

「着いてくんなら教えてやらぁ」

「誰が」


 下卑た笑みを浮かべる男を払い除けるようにを起こす雪姫。


「は?」


 全方位攻撃。躱す暇も無く境殺は雪の下敷きになった。

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