江戸凶星編

プロローグ 凶星


 凶星マガツボシが輝きし時、世界はとらわれの国となる。人の住めない地となるであろう。そう言い伝えられ続けて数百年。戦国の世が終わり、囚との戦いに集中出来る世になった。江戸幕府。そう呼ばれたのはいつの話か。

 人と境界は隣合わせで生きていた。路地の常夜は暗いくらい、闇の底。辻斬りよりも恐ろしい人ならざる者の住む場所。そう信じられていた。その闇を駆ける者達が居た。

 境界越境者殺害許可証持ち、通称、「境殺けいさつ」。囚を殺す任を幕府から言い渡された狩人達。

 何故、許可がいるのかと言えば囚の存在を神聖視する勢力、具体的には御上の存在があるからだ。御上には囚の血が流れているとも言われている。それゆえに人に害をなす囚は幕府が許可を出すから殺してよいという形を取っている。

 任に当たるのは数百年前から囚と戦い続けた退魔の家系。時には戦国の世で忍者として活躍したり、剣豪として名を馳せたりした者もいた。

 囚を使い魔として操りながら、囚の死骸から武器を作り、己の体術で囚を狩る。それが境殺。名前が後世に残る程の威容。人としての在り方を変えた者達。しかしその業績とは矛盾するように彼らは影に生き、影に死んでいった。

 影こそ彼らの戦場いくさば。影こそ死に場所と見つけたり。

 そんな家業を継いだ少年と、独り揺蕩う少女が一人。

 凶星の照らす江戸の街で、今、大乱が巻き起こる。


「夜明け前が一番暗いって言ったのはァ誰だっけかなァ」


 そんな事も忘れながら。

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