確かに進んでいる 肆


 悲しみ、怒り、楽しみ、三体の炎尾えんびを狩った三人。残るえ炎尾は嘲り含めて六体。怒りと悲しみの死骸は回収され、恐らく嘲りに吸収されたであろう。

 元は九尾の分け御魂である、統合されるのが道理だ。一難は去った、しかし。


「いやぁ、久々の娑婆の匂いじゃ」

「おい狐狗狸こっくり、いい加減、殻器ガラキの身体から出て行け」

「ああ? なんじゃウヌ、一寸先も見えない小僧が何をぬかしておる」

「その恰好で言われるとクソむかつくな……!」


 クサレが怒りながら殻器へと問い詰める、戸惑う白雪しらゆきが質問する。


「どういうこと?」

「殻器は今、精神を狐狗狸に乗っ取られちまってんのさ、時間が経てば戻るはずんだが」

「のっとられ……」

「ほう、そっちの娘、混血か! 珍しいの!」


 白雪に手を伸ばす殻器に入った狐狗狸の腕を掴む腐。


「荒療治だ」

「ほう、我が手を掴むか」

「ちょっと寝てろ!」


 そのままもう片方の腕で殴りかかる。しかしそれは首を傾けるだけでかわされてしまう。歯を見せて笑う狐狗狸。


「面白いのう!」

「本当に厄介だな未来視!」


 そこからインファイトが始まる。腕を掴み掴まれのままで殴り合い。いや狐狗狸は短刀を持っている。己の牙。あれを手放さなければこの状態は解けない。腐の連撃が続く。腕を掴んでいる以上、アドバンテージは腐にあるはずだった。しかし、厄介な事に狐狗狸の手にはがはめられていた。


 ――爆炎。


 もろに喰らう腐、炎尾から作られたグローブは炎の異能を持つ。それは炎尾との戦闘時には殻器の手を守るのに使われていたが今は違う。腐相手に攻撃用としてその異能は発揮されている。


「厄介だな本当!」


 そこで、だ。


「しんしんと」


 雪景色が広がる。これで何度目だろう。白く白く広がって行く。狐狗狸を氷漬けにしていく。


「ごめんね、がらき」


 視野外からの攻撃には未来視は反応出来ない。その一撃は確かに狐狗狸を止めるに十分だった。そして。

 

「骨までいったらすまん!」


 腕を思いっきり殴りつける腐、狐狗狸の短刀をはたきおとす。そのまま氷で身動きが取れない狐狗狸は。


「お……のれ……」


 意識を失った。これで本当に、あくまで一時的だが、安寧が訪れる。氷を、異能を解く白雪。脱力する殻器を腐が受け止めて、三人は一旦、工房に帰る事となったのだった。


 殻器の工房にて、少年が目を覚ます。


「炎尾はッ!?」

「起き抜けの開口一番がそれかよ」

「がらきっ!」


 白雪が殻器に抱き着く、頬は染まるが身体は冷たそうだった。


「あれ、なんで俺の工房に……?」

「お前が狐狗狸に乗っ取られたからだ馬鹿」

「しんぱいした!」

「! ……それはすいませんでした」


 目を見開いて驚いた後、謝る殻器、しかし、彼はあの状況なら絶対ああしただろうというのは腐が一番よく知るところだった。


「お前が寝てる間に機関に掛け合ってきた」


 急な話題変更だった。殻器は脳の切り替えが追いつかない。


「機関ってようするに国じゃないですか」

「ああそうだが? でな対炎尾に対して俺らは待ちの作戦を取る事にした」

「待ちって」

「みなまで言うな、お前はこう言いたいんだろ、『被害が広がるのを指くわえて見てろって言うんですか!』ってな。だけどな殻器、今回の炎尾たちの目的は恐らく己の統合だ」


 そこで嘲りの炎尾が仲間、正確には分け御魂の死骸を集めて去った事を告げる。殻器は唸りながら。


「つまり?」

「炎尾が九尾に戻るところまで待つ、そして九尾が顕現した時点で俺の『逆鱗』を使って一網打尽にする。筋書きとしてはそうなる。そこでだ」


 殻器の手の平を指さす腐、正確にはその手にはめているものを。それは炎を吐き出すグローブだった。


「今からそれで絡繰り細工を作るぞ」

「絡繰り細工……?」

「ああ、あいつらの統合に『毒』を混ぜる」


 つまり、だ。腐はこう言っている。悲しみの炎尾の死体を用いてトロイの木馬を作るんだと。


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