確かに進んでいる 参


 白雪しらゆきことわりの維持、クサレは嘲りの炎尾えんびの攻撃により負傷、殻器ガラキは怒りと楽しさの炎尾二匹を相手を目の前にしていた。炎に囲まれ、窮地が迫る。

 ――ゆっくりと呼吸をする。

 殻器は唱える。勝つために。


狐狗狸こっくりさん、狐狗狸さん、我が行くべき道を示したまえ――」


 神憑かみがかりという言葉がある。まさしく自分に神如き上位存在を憑依させる召喚術いのう。この場合、予知のとらわれ。最適解を導き出す神にその身を委ねる。殻器の瞳が金色に変わる。金色の眼、それは神憑りの証。


「これまた酔狂よな、ひぃふぅみぃ、九尾の眷属が三匹とな」


 殻器の声であって殻器のものではない。どこか古風な趣を感じさせる喋り方。


「クククッ! 狐狗狸とは低級な!」

「ほう九尾の分け御魂の分際でよう叫ぶ。一寸先も見えない輩に見下される筋合いは無いの」


 そんな嘲りの炎尾は腐が抑えている。河童の盾を構えて、剛力と精力を吸い取る。しかし嘲りは余裕をもってそれをいなす。白雪はその間に理を広げる。雪景色が火の海を塗り替えて行く。


「……助かる嬢ちゃん。最初は殺そうとして悪かったな」

「いいよ! 気にしてない!」


 朗らかに笑う少女、腐は少し救われた気分になった。白雪には人の隙間を埋める力があるのかもしれない。そう腐は思った。

 怒りと楽しみの炎尾は殻器に炎を叩きつける。しかし当たらない。それは事前に分かっていたかのような、いや事前に分かっている。そして踊るように跳ねるようにかわしていく。


「この身体軽いのう! いいぞ! いいぞ!」

「こいつ動きまで変わりやがった! ふざけるな!」

「アハハ! 楽しい! 楽しい!」


 怒りの炎尾と楽しさの炎尾がそれぞれの反応を見せながら、炎を纏って突撃してくる。しかし狐狗狸に出来るのは未来予知まで、それ以上は出来ない。しかし全ての攻撃をかわし短刀を構えて、怒りの炎尾に向かい、突き進む炎を掻き分け刃を腹の傷孔を抉る。叫びを上げる怒りの炎尾。

 楽しさの炎尾がその隙に殻器を横から火の玉をぶつける。しかしそれを紙一重でかわす髪の毛を焦がした程度だ。怒りの炎尾を沈めた殻器を依り代にした狐狗狸は笑う。


「楽しいの、弱者をいたぶるのは!」

「アハハ! 楽しいよね! 楽しいよね!」


 意気投合したような一人と一匹。


 場面は変わって、腐と白雪対嘲りの炎尾、しかし、怒りの炎尾が沈み、楽しさの炎尾との戦闘に入った時点で嘲りは少し劣勢に立たされていた。白雪が攻勢に回ったからだ。


「しんしんと」


 吹雪をぶつけ、嘲りの炎尾の炎の理を剥がしていく。


「ククッ! 混血のお嬢さん? お前はこちら側じゃないのかい?」

「こちらがわ?」

「おっと悪質な勧誘はお断りだ」


 銃を向けて接近する腐に対し、ここに来て初めて後ずさる、撤退行動の構えだ。


「逃がすかよ!」


 リボルバーに龍の鱗の弾丸を込め撃ち放つ、弾丸は右脚を撃ち貫く。炎が噴き出る。形勢逆転である。

 炎を吹き出し煙幕ならぬ炎幕を張り、嘲りの炎尾は腐と白雪を飛び越え楽しさの炎尾と殻器の間に現れる。


「狐狗狸、君も『恐怖の大王』の降臨を願ってはいないのかい?」

「恐怖の大王のう……天のアレか」


 空を仰ぎ片手間に怒りの炎尾にトドメを刺しながら、告げる。


「アレな、降りては来んぞ?」


 それは狐狗狸の予知だったのだろうか、嘲りの炎尾はそれでも笑いながら。


「ククッ、退くぞ」

「楽しいよ? 楽しいよ!」

「ああ、そいつな? もう死んでるおる」

「クククッ……何を……?」


 その時、楽しみの炎尾の眉間に風穴が開いた。それはフリーになった腐の長距離狙撃だった。

 炎が消える。残された嘲りの炎尾は四つ眼を歪ませて、苦笑する。


「クククッ、このまま下等生物に舐められるわけにはいかないな」


 嘲りの炎尾は怒りと楽しみの死骸を回収して炎の渦に巻かれ消える。残された殻器、腐、白雪は暗い東京タワーの下で立ち尽くすしかなかった。

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