止まるような歩幅で 肆


 クサレと対峙する殻器ガラキ、白雪を庇い、前に出る。炎尾の亡骸を盾にして交渉へと移る。


「先輩! 白雪はとらわれじゃない!」

「ふざけんな! どう見たって囚だろうが!」


 短刀と盾を構えて臨戦態勢を取る二人、殻器の目的は腐に。銃を抜いた腐は人が変わる。そこがチャンスだった。型をとる。盾を前にした腐は舌打ちをして。


「本気でやろうってんだな」

「はい……!」


 狐狗狸さん、狐狗狸さん、そう唱えて、短刀による未来視が発動する。盾による三連撃。喰らえばひとたまりもない。しかしかわすすべも持たない。だから受け流す。


くうかた、参式、流動舞りゅうどうまい


 防御特化の型、本来は平手で受け流すが殻器は刃の背で受け流す。盾と短刀で火花が散る。白雪はおどおどと見守っている。

 銃を抜かせるまでには至らない。


「白雪! 遠くに行っててくれ!」

「う、うん」


 駆け出す白雪、追いかけようとする腐を殻器が止める。膠着状態。しかし抜け出したのは少年が先だった。短刀で盾を受け流した流れで短刀を翻して腐の腕を狙う。

 しかし、そこで殻器の足が竦む。それは腐の河童の皿で出来た盾の異能だった。持ち主に剛力を与え、敵対者の生気を奪う、その効果で殻器の身体に力が入らない。

 しかし、そこを空の型で対処する。


「空の型、肆式、瞑域領域めいいきりょういき


 呼吸法にて己の力に活力を取り戻す。そして盾を躱し直接、盾を持つ腕を狙う、狐狗狸さん、狐狗狸さん、未来視を使い軌道を読む。狙いはばっちり。

 短刀が腕に突き刺さる。苦悶の表情を浮かべる腐。そして思わず盾を持つ手とは逆の手で銃に触れる腐。引き抜いて殻器の眉間に突きつける。


「……これを使うほどの相手じゃ、ねぇな」


 驚くほどの冷静になる腐。彼は普段はうだつが上がらない男だが、この銃を抜く時だけが、彼をひどく冷静にさせる。


「話、聞いてくれますか?」

「……ちょっと頭冷えたわ、お前が囚を簡単に見逃すはずがないもんな」

「白雪は囚と人間の混血です。それも囚は神に等しいタイプの」

「……簡潔でよろしい。それなら筋は通るな。であの子の目的は?」

「多分、ですけど、境界の向こうに帰る事だと思います」


 溜め息を吐く腐。殻器は彼の反応に安堵する。許されたはずだと。


「帰すのか、あの子を」

「それがあの子の望みなら」

「境界ならすぐそこだぞ?」


 腐は東京タワーの袂を指さす。炎尾が湧き出る穴。電波を喰らう囚が集う境界。今、東京を恐慌状態に陥らせている元凶。

 

「白雪の生まれはそこじゃないと思います」

「境界に違いでも?」

「あるんだと思います」

「その根拠は?」

「白雪は自分の帰る場所を探して彷徨っていたんだと思います」


 そこで顎の無精ひげをさする腐、殻器は彼の態度の豹変ぶりにいつもながらの事だが銃を握った腐は頼りになる。


「長い旅になるぞ、境界がこの世にいくらあると思ってやがる」

「炎尾を倒したら必ず俺が連れて行きます」

「変わらねぇな、お前は相変わらずブレやしねぇ」


 殻器と名付けたのは他ならぬ腐である。復讐に満たされた器の殻。そんな殻器を腐は評価していた。

 

「炎尾を一匹しとめたが満足しないか?」

「九匹、全部狩るまで」

「本当変わらねぇよお前」


 銃を引き金に指をかけてくるくる回す。危なっかしいなと思いながら、殻器は話しを続ける。


「この前逃がしたやつもまだいますし、それに――」


 そこに声が割り込んでくる。


「あのっ」


 白雪だった。いつの間にか傍に居た。白い少女。驚く二人。少女は意を決した様に宣言した。


「わたしもたたかえる、とおもう!」


 確かに白雪の力は強大だ。対炎尾を考えるならば彼女の戦力は必要なものとなるだろう。炎を掻き消す吹雪は力になって来る。


「頼めるか、白雪」

「うんっ!」

「仲の良いこって」


 こうして三人は行動を共にする事になったのだった。


「クククッ、ククッ!」


 そんな光景を眺めていた嘲りの炎尾はビルの屋上から飛び去った。

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