止まるような歩幅で 弐
数日後、東京中を騒がしていた火災の号外はすっかり止まった。代わりの号外は突然の雪模様だった。雪で遊ぶ子供達の声が遠くから響いて来る。昼間、ではあった。だが暗い。東京タワーの周りだけ切り取られたように暗く
そこに一人の少女が居た。
「お前が見たって女の子か?」
「……多分」
白いワンピースの少女は雪とは不釣り合いだった。具体的には麦わら帽子でも似合いそうな感じの女の子。
白髪を流し、こちらを振り返る。
「また会えたね」
「……?」
「いや首傾げんなよ
「あなた『がらき』って言うのね?」
「あ、ああ……」
「私、しらゆき!」
「白雪……白雪だな、名字は?」
「みょうじ?」
腐の問いに殻器と同じ様に首を傾ける少女こと白雪。腐はずっこけそうになった後、こほんと咳払いをして。
「上の名前だよ、上の名前!」
と大人らしく対応した。しかし。
「名前に上も下もあるの?」
と真顔で返されたらたまったものじゃない。こいつ俺らを馬鹿にしてんのかと拳を握りしめているのを殻器が「どうどう」と怒りを宥めている。
「えっと、そうだな、名前に上も下も無いよな、俺らも無いし」
実際、殺し名を受け取った人間は元の名を捨てる決まりがある。異形の者を狩る使命を背負うからだ。もう現世には戻れないという最後通告でもあった。
「じゃあなにか、この嬢ちゃんもご同業だっていうのか?」
「じゃないですかね、だって異能も使ってたし、俺を助けてくれたし」
「ふうん、お前がそこまで庇うなら今は見逃してやるがね、危険なら、撃つぞ?」
「……先輩が銃を抜くのは、それこそ危機一髪の時じゃないですか」
まあな、と呟いて腐は一旦、その場から離れる。境界の調査に向かったのだ。今回の目的は新たな
「ねぇ、がらき、わたしのおうちを知らない?」
「おうち? 迷子なのか?」
「まいご……まいご……うん、きっとそう、わたしまいご」
「あはは……どうしたもんかなこれ」
特殊な相手に戸惑っている少年は少女に手を取られる。
「つめたっ!? 雪遊びでもしてたのか?」
「うん」
「そ、そっか、ていうか、なんで手を?」
「なんとなく」
なんとなくで手を握られては男の子としてはたまったものじゃないだろうと思うのだが、殻器は慌てず騒がず務めて冷静でいた。表面上は。彼は復讐に生きる戦士なのだから。こんな事で慌ててはいけないのだ。
「ここにあるって思ったの」
「なにが?」
「おうち」
「……ここに家が?」
「でもなかった。ううんわからなかった」
分からない。それはつまりどういう事だろうと少年は考える。戦うしかない脳で考える。やっぱり分からない。
「それってどういう意味――」
その真意を聞く前に火柱が上がった。小型の盾を構えた腐がこちらに向かって走って来た。
「炎尾が出たぞ!! 境界を超えて来やがった!」
九匹いる内の一体、数日前のとは違う個体が仲間の臭いに誘われて出てきてしまった。
「えーん……えーん……」
そいつは泣いていた。数日前のの炎尾を人間を下に見て笑う「嘲り」とするならば、こいつは「悲しみ」だった。何に悲しんでいるのかと言えば。
「独りは嫌だ……独りは嫌だ……」
仲間を求め泣いていた。そして火の粉を振りまく。そう仲間に自分が此処に居る事を告げるように。涙の雫の代わりに炎の塊が雪を溶かしていく。
「先輩、俺、今度こそ!」
「あーもー、やる気ある若者って嫌だねぇ!」
「また来たのね、あのきつね、でもこの前のとは違うみたい」
白雪がぼそりと呟くが、気にせず短刀と盾を構える殻器と腐。戦闘は開始されるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます