第103話 地上
新しい武器を手に入れたなら、使ってみたいと思うのが人の常。
その外見が、手放しにかっこいいと賞賛できるのであればなおさらだ。
手中に収められた双剣【風雲と夕立】。
早速装備して辺りのスケルトンどもをなます切りにしてやりたい。
(が、ここは我慢だな)
魅力は充分だが、使うべきでない理由は枚挙にいとまがない。
スケルトンに効きが悪いし呪いが付与されているかもしれないし、エトナのこともある。
未開のエリアで護衛対象を連れていくときに新装備なんて試してられないしな。
任務完了後のお楽しみとして、この双剣は懐にしまっておこう。
そういうことにした。
「あんなおっかないスケルトン、前はいなかったんだけどね」
「返り討ちに遭うやつがほとんどだろうな」
会話は後ろにいるドーリスとメライのものだ。
俺と違い、様々なプレイヤーと交流があるドーリスから見てもあの真紅の骨を持つスケルトンの強さは別格だったようだ。
「正直、俺も例の乱入者がいなければここで終わっていたと思う」
「聖属性の使い手は少ないからな。イヒヒ、マジで運が良かったぜ」
例の乱入者とは、もちろんあの戦乙女のことだ。
えーと、マルレインみたいな名前だったかな。
一回の攻撃チャンスだけで撃滅できたのは、彼女がスケルトンを即死させられるレベルの特効となる攻撃手段があったからに他ならない。
こういっては何だが、もしここに参戦してきたのがランディープだったなら勝ちの目はより低かっただろう。
それでも彼女は彼女で、なにか秘策を残して解決したとしても不思議ではないが……。
まあここにいない人物の話はいいだろう。
それよりも今は先に進むことが先決だ。
一本道を赤い骸骨が塞がれていたせいで停滞していたが、満を持して先に進むことができる。
「お、潮の匂い。そろそろだね」
「潮の匂いって、じゃあこの先は」
スケルトンの邪魔が入ることも無く、ずんずん奥へと進んでいるとふと後ろの二人がそんなことを話しだした。
「匂いなんてしないが」
「私も」
「お前ら無機物組は、元々そうだろうが」
そういえばそうだったという気持ちと、そういうものだったっけという二つの気持ち。
リビングアーマーの俺と、オートマタのカノンはそれぞれ無機物系の種族だ。
無機物系の種族はいくつか感覚器官が無いが、嗅覚もそれに含まれていたのか。
視覚と聴覚があるんだし嗅覚もサービスしてくれたらよかったのに。
ていうかドーリスお前、風船頭の癖に有機物側だったのかよ。
なんだか裏切られた気分だ。
「おい、出口っぽいのが見えてきたぞ」
などとゲーム内で味わえない嗅覚を恋しく思いながら進んでいたら、角度のキツイ上り階段が見つかった。
ここが地下墓地であること、そして奥から光が差し込んでいるのを見るに地上に繋がる出口で間違いないだろう。
「さて、潮の匂いがするというなら……」
階段を上がり、眩い光に視覚を慣らして目を凝らす。
その先に広がっていたのは、リゾート地のような美しい海とビーチであった。
「おお、海だ……!」
どこかずっと薄暗かったこのゲームに珍しい、明るく美しい浜が広がっている。
少し引き返したら歩く人骨がひしめく墓場に繋がっているというのに、すごいギャップだ。
大海原を正面に、右を見ても左を見てもはるか先まで海岸線が繋がっていた。
「結婚の儀式だと言って地下墓地に連れていかれたときはどういうことだと思ったんだけどな」
「これほど景色のいい場所は他にないんじゃないか? 私は体が錆びそうで、あんまり長居したくないけど」
「やっぱり潮風で錆びがつくのか? 俺もあんまり長く滞在しないほうが良さそうだな……」
景色の美しさを認めても、カノンは自分の体の心配をしていた。普段から修復に苦労しているからこその言葉だろう。
俺も例外じゃない。なんか錆びで状態異常とかになるかもしれないし。せっかくのミスリル製なのに錆びてたら格好つかないしな。
「海もいいけど、ほら、後ろ。儀式の場所はあそこよ」
メライに促され、背後を見返す。
そこには峠があって、先端の岬には白く荘厳な建築物があった。
俺たちが今いる浜辺は、峠の崖下に位置する場所だったようだ。
「この場所の情報が入っただけで、面倒ごとに頭を突っ込んだ甲斐があったぜ、イヒヒ」
「お前の商魂はたくましいなぁ」
ドーリスも最初は指名手配までされていたのに、けっこう強かなやつだ。
しかしこんな珍しげなイベントの同行者に選んでもらったのはかなり運が良かった。
このまま最後まで見届けさせてもらうとしよう。
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