第102話 双剣
「とりあえず何とかなったが……ドーリス、色々聞いていいか?」
「イヒヒ。用心棒してもらってる身の上だしなぁ、お代は取らないぜ。言いな」
必死の思いで撃破できたあの赤い骨だが……口が裂けても自力で倒せたとは言えない。
幸運にもあの乱入者がいなければ、俺たちはここで八つ裂きにされていただろう。
「あの乱入者のことについて知りたいんだが」
「先に断っておくが、ヤツに関して持ってる情報は豊富じゃない」
「そうなのか?」
「そもそもあの【やみつきジャッジメント】とかいう集団そのものが新興なんだ」
確かPVP、つまりプレイヤーと戦うことを目的としたギルドとは言っていたよな。
そういう意味ではたぶん他のプレイヤーに対して非協力的な姿勢をとっている団体だし、情報が少ないのは仕方ないのか。
むしろ語れることがあるだけすごいと思うべきだな。
「あいつ、これ見よがしに大きな鎌を取り出していたが使わなかったよな。ああいうの良くあるのか?」
「武器の特質が自分の体にも同じように付与される場合がある。全てがそうってわけじゃないけどよ」
「というと?」
「俺の見立てが正しいなら、あの大鎌にはアンデット特効のような効果があったんだろう。そしてそれを装備していれば、大鎌に頼らずとも体術でアンデットと有利に戦えた」
なるほどなあ。それならあの流儀に反する云々の言動とも一致する。
本当は完全に武器を持たずに戦いたかったが、必要に駆られて大鎌を装備した上で体術の使用を続行したのか。
「いやでも、それって意味あるのか?」
「大鎌で戦い続けた方が有利だったろうって? イヒヒ、以外とそうでもないケースもあるんだぜ」
「そうなのか」
「特質を付与する装備の性能が低い場合や、その武器の扱いが困難な場合があるからな」
なるほど、そう言われてみれば確かに納得できる。
今回だって実際に大鎌は扱いが難しい武器種には間違いないし、スケルトンと対峙するにはかなり相性の悪い武器だった。
それらを統合して考えてみれば、大鎌を手に持ったまま体術で戦うのはかなり効率的というか、理屈の通った戦法だったのか。
「まだまだ知らないことだらけだな」
「もっとも、あの様子じゃ明らかに鎌の扱いにも心得があったけどな」
「……確かに」
あの戦乙女、思い思いの体術を繰り出すために淀みなく大鎌を操って振り回していた。
あんな流れるように手元で捌いておいて、武器としては使えないとは考えにくい。
全力を出さなかったとは思わないが、本人が自らに課したルールがなければ、本来の実力は目で見たもの以上なのかもしれない。
「そう思えば、赤い骨と戦っている最中に乱入されたのは幸運だったな」
戦乙女と戦って勝てた自信はない。
というか実感したが、自分の戦い方には弱点がある。
俺自身冷静にじっくりと戦うタイプなのだが、それがマイナスに働くシチュエーションがある。
それこそが、格上と戦うとき。
自分より強い敵を、偶然でもいいから倒せるような爆発力がない。
10回やって1回だけなら勝てるような、ラッキーパンチを持ってない。
課題が見つかったな。
いや、というかそれこそが乱入前に試していた【空列】なのかもしれない。
結局赤い骨との戦闘中でさえも一度も成功しなかった。
もっと試したいが……今は先に進む事の方が先決だよなぁ。
「おーい、アリマ! なんか見つけたぞ!」
「ん? わかった、見に行く」
声を掛けてきたのはカノンだった。
赤い骨との戦闘後に何か見つからしい。見に行ってみよう。
「何見つけたんだ?」
「これ!」
「うお、でかした!」
そう言ってカノンが指差した先にあったのは、二本一対の双剣。
あの赤い骨が操っていたサーベルだった。
手に取ると、この双剣の【風雲と夕立】という銘が画面に表示された。
「武器のドロップアイテムなんて、初めてだが……」
今まで倒した敵は、スケルトン含め持っていた装備もろともポリゴン化して消滅してしまっていた。
こんなふうにその場に武器だけ取り落とす形でドロップするんだな。
カノンが見つけていなければ、うっかりそのまま見逃していたかもしれない。
あんな苦労して倒した強敵の得物なんだから、取り逃したら最悪だ。
「よく見ると、刀っぽくもあるのか」
戦っているときは西洋風のサーベルだと思っていたが、和風の名称を疑問に思ってよく観察してみると、双剣は日本刀のような意匠でもあった。
しかしサーベルとしても日本刀としても外観が半端。丁度その中間ぐらいの見た目をしている。良く言えば和洋折衷というか。
二本の剣は大きさや形状がやや異なっているが、共通して表面に蛇のように赤い紋が走っている。かっこいい。
店売りの量産品とは違う、明らかに特殊な武器。
そして初めての敵からのドロップ品。しかもボス級に強さの誇る強敵の持っていた代物。
実際に扱えるかどうかはともかく、エトナにいいお土産ができたことが率直に嬉しかった。
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