第101話 裁きの力

 重々しく大鎌を取り出した戦乙女。俺はあいつの攻撃力を信用しなくてはならん。

 いきなり乱入してきた意味不明なやつを頼るのは嫌だが、骨一匹自力で処理できない俺が悪い。

 

 やるべきは、あの骨の動きを止める事。

 ぶっちゃけそれだけでもしんどい。かなりやりたくない。

 あの骨の超絶技巧は何度も見てきた。接近方法をしくじるだけで大惨事確定だ。

 

「鎧の使いどころか……」


 シャルロッテ謹製の鎧なら一撃死はすまい。

 もらい方をミスったら致命傷とから余裕でありそうだけど。

 

「呪いの力の見せどころ!」


 剣ではなく、メイスで詰め寄る。

 【絶】頼りの蹴りは骨の練度が高すぎてカウンターで切り伏せられるから封印。

 狂ったように攻撃し続ける性質があれば、相手は無視しない。

 どうなっても攻撃する俺がビビらないというのもデカい。

 

「後学のためにも、どう捌くか見せてもらうぞ!」


 一発目は俺の理性によって振るわれるので、時間稼ぎ重視で剣に向かって殴りつける。

 ワンチャン刃こぼれして戦闘力を下げられるかもしれないし。

 

 武器を狙った攻撃は、火花を散らしていなされる。

 一番怖いのは避けられることだったが、戦乙女やカノンの支援攻撃を嫌ってか直接受けてくれた。

 メイスの重打が流水に呑まれたように流される。

 弾かれたのではなく、スイングしてからぶったかのように体勢が崩されてしまった。

 赤い骨の技巧が強調される防御だ。通常であれば大きく隙を晒してしまっただろう。

 

「今はもう止まらんからな……!」


 だが、今俺には呪いの力の強制力が体に働いている。

 【攻撃した相手を攻撃する】という効果により、空振りして崩れかけた姿勢が無茶苦茶な動作で強引にもう一度攻撃を試みる。

 体勢を崩しても強引に最速最短の軌道で繰り出される滅茶苦茶な攻撃は、いっそ酔拳のようでさえあった。

 いや酔拳なんて上等な表現は相応しくない。この動きは品がなさすぎる。

 この状態、棒を握って暴れる泥酔したゴリラみたいな動きだし。

 

 一応、自分の体が動いている意識はある。でも自力でこの挙動を再現しろと言われても、絶対に不可能と言わざるを得ない。

 そもそも理性と自意識からしても恥ずかしくて再現したくない……。

 

 踊り狂ったような俺のメイスの攻撃は、しかしまったく赤い骨には届かない。

 骨という体の身軽さを活かし、右へ左へ小さくステップして有利な状況と距離を常に維持している。

 この小刻みな足さばき。そういえばレシーもこんなふうに戦っていた。

 こまめに足を動かすのは、やはり戦いにおいて重要なのだろう。

 このクソ強い骨もレシーもやっているのだから、取り入れても間違いはないだろう。

 制御不能の呪いの力は、だからこそ俺に観察するだけの余裕をもたらしてくれた。

 

 しかし、明らかに骨が動きの傾向を掴みつつある。

 俺はもう止まれない。呪いの挙動を見切られるのも時間の問題。

 だが、協力者がいる今はそれでいい。

 

「うッ」


 どれほどいなそうと攻めの手が終わらないことに気づいた骨が取った手段。

 それは、刀身を使ってメイスを絡めとり、振り回す力を逆利用してメイスを俺から手放させることだった。

 剣の達人らしい、合気道じみた必殺技。

 

 流石に武器を手放せば呪いの影響は消える。無防備な姿をさらす事は免れない。

 俺の胴に骨が二刀で踏み込み、切っ先が鎧の表面を撫でたその瞬間に、戦乙女の声はした。

 

「喰らえ裁きのキック!」


 大鎌を携えたままの戦乙女のハイキックが、赤い骨の顎を捉えた。

 手に持ってる鎌は?

 

「続いて裁きのパンチ! 度裁きのフック、裁きのアッパー!」


 大鎌を右へ左へ流れるように回しつつ、繰り返し戦乙女の拳が赤い骨の顔面を打ちぬく。

 じゃあその鎌は何に使うんだよ。

 

「トドメ、裁きのニーソバット!」 


 長い柄の大鎌をせわしなく持ち替えながら殴り続け、ついにはただのニーソバットで赤い骨をぶっ飛ばした。

 奇妙なもので骨は殴られた部位が燻るように黄色く燃えており、チリチリと骨は灰になって消えていった。

 

「よっしゃあ撃破ですよっ!!」


 勝利のガッツポーズをしながら俺を見返す戦乙女。その口元には、自慢げな笑みが湛えられていた。

 

「すまん、一つ聞かせてくれ。鎌は?」

「あんなものはただの飾りですっ!」


 じゃあなんで出したんだよ。

 さっき流儀には反するとかどうとか言いながら勿体ぶって取り出してたじゃん。

 しかも両手で扱うことが基本の大きな武器だし、どう考えてもいま邪魔だっただろ。

 

「いやぁ~、いい裁きでしたっ! 満足したので帰りますね! またご縁がありましたら裁きますんで、今後ともよろしく!」


 戦乙女はニッコニコの晴れやかな笑顔でそれだけ言い残すと、出現したときと同じように大量の羽根を巻き上げて姿を消した。

 呆然と戦乙女がいた場所を眺めていたが、静かに舞い上がった羽根が地面に舞い降りていくのみ。

 

「……。まあ、味方みたいなもんだと思ってよかったのか?」


 ランディープもそうだけど乱入してくるやつって変なのしかいないのかな。

 こんなの続くようじゃ精神的に参っちゃうぞ。

  

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