第100話 バトル裁きスタイル
突如現れた戦乙女のような装いの女は、俺に背を向けて赤い骨へと立ち向かっていった。
女は手に何も武器を持っておらず、徒手空拳にて挑んでいるように見えた。
素手で戦うのはカルシウムを呟き続けるあの妙な骨もやっていたが、この戦乙女の方がこう、雄々しい感じがする。
カルシウムのはケンカ殺法という風だったが、戦乙女のは構えが武術みがあるな。
とはいえ高貴そうな鎧装備で武術とは、ミスマッチ感はどうしても拭えない。
なぜわざわざ素手で戦うことを選んだのか。その凝った装飾に似合う武器とかいくらでもありそうなもんだが。
「一丁ド派手に……かまして来いやぁッ!」
振りかぶったテレフォンパンチ。
唸る剛拳が双剣の守りに重ねるように放たれる。
相手の防御の上から叩き潰すパワー一辺倒の一撃。
まともな敵ならそれでねじ伏せられただろう。
だが、この赤い骨が例外に当たることを俺は知っている。
「なんだァ!?」
ギャイィン! と甲高い金属音を震わせ、火花を炸裂させた双剣が超重量の拳を弾き返した。
体勢を崩した戦乙女に対し、舞のように滑らかな動きで赤い骨が双剣を十字に構え直すのが見えた。
「危ねえぞ!」
間に割り込んで、【絶】が発動しない距離で骸骨の剣を蹴りつけて強引に構えを崩してやる。
咄嗟に崩せたのは片腕だけ。もう一本の切っ先は俺の喉元を捉えていた。
「ぅおわっ!」
反射的に上体を反らすと、さっきまで俺の頭があった場所を槍のように刀剣が貫いた。
「骨風情が……裁きを免れられると思うなァーっ!!!」
戦乙女が迫真の形相で赤い骨に迫る。
両腕の拳での乱打。機関銃の如き暴虐。
だが聴こえてくるのは、そのことごとくが剣に弾かれる金属音ばかり。
更にはその隙間を縫って、骸骨のクロスした二刀がハサミのように戦乙女の首を捕えた。
「だから油断すんなって!」
慌てて戦乙女をソバットでぶっ飛ばしてハサミのように交差された凶刃から救い出す。
直後、一瞬で狙いが俺に移って開いた二つの刃がギロチンのように左右から襲い掛かってくる。
「危なァい!」
膝を曲げてしゃがみ込んで回避。九死に一生を得たって感じ。
「アリマ、一回下がれ!」
袈裟に剣を振り下ろそうとするガイコツの元に飛来物。カノンの支援攻撃だ。
すぐ立ち上がって飛来物を払いのけている赤い骨を踏み台に飛びのいて、ようやく距離を取り直す。
「……なんですか、この赤い骨。強すぎません? 私のバトル裁きスタイルが通用しないんですけど」
「そうなんだよ。ご覧の通り俺たちも困ってんだ」
赤い骨から距離を取り直したところで、戦乙女の方から声を掛けてきた。
戦闘時は荒々しかったが、会話する分には落ち着いた丁寧語のようだ。いやなギャップだ。
「で、とりあえず共闘してくれるって認識でいいんだな?」
「そうせざるを得ないでしょうね。既に一撃貰っていますし、やり返さねばなりません」
貫かれた胸の傷をなぞりながら、赤い骨を睨む戦乙女。突然裏切ってくる雰囲気もないし、ひとまず信用するか。
というか自力であの骸骨をどうこうできる自信がマジでない。
この戦乙女がいる現状でもまだ形勢がこちらに傾いてないんだから、とんでもねえよ。
何の説明もなく出てきていい強さじゃないだろ、この骨。
「壊しきるパワーはあります。隙を作っていただきたい。よろしいですか」
「なんでもいい。それで倒せるっていうんならやるよ」
護衛してるせいで撤退できないんだ。何としてでもこの赤い骨の息の根を止めねばならん。
突然現れたわけわからん人物との協力だって俺はするぞ。
「流儀には反しますが、無様に骸を晒すよりはマシ。私も手札は惜しみません」
そう言いながら戦乙女がどこからともなく取り出したのは大鎌。
忘我キャラでもプレイヤーと同じくそういうことができるのね。
竿のように長い柄、大げさに巨大な刃は、農作業用の鎌とは似ても似つかない。
まさしくファンタジー御用達のビジュアルだ。
「相手はスケルトンだが」
「承知の上ですよ」
肌を裂く鎌じゃ骨に相性が悪そうだが、なにか考えがあるようだ。
最初から拳で戦っていたのにも、単なる縛り行為や舐めプではないのか。
できれば詳しく理由を問いたいが、今は時間がない。
「長くは持たない、はやめに何とかしてくれよ!」
祈りにも似た頼みを戦乙女に言いつけて、俺は赤い骸骨を前に踏み出した。
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