第97話 赤い骨

 突如として発現したユニークスキル『空列』。

 その効果によって、俺の目の前にいたスケルトンは太刀で斬り伏せたかのように袈裟に両断されていた。

 

「なんだ? 凄まじい威力だな。まだこんなのも隠していたのか」

「いや……すまん、今突然スキルを獲得した」


 蹴りにあるまじき攻撃力を前に驚くドーリスだが、驚いているのは俺も同じだった。

 分厚い足甲による蹴りから想像もつかないような切れ味。というか、物理的にありえない切断面になっている。

 

「発現って、今か?」

「ああ。たぶん、攻撃する直前だと思う」

「……その様子じゃあ、習得条件にも心当たりは無さそうだな」

「すまんな」

「前も言ったがユニークスキル関係はそんなんばっかりだ、元より期待してない」


 新しいことを試したわけでもないのに、脈絡もなく習得してしまった。

 ただこのスキルに心当たりがないわけでもない。一度見ている。というか、喰らった。

 湿地で大きな帽子の女、レシーにお見舞いされた防御を切り裂く蹴りは、たぶんこれだったんだ。

 蹴りでありながら、殴打ではなく斬撃のような攻撃となる不思議なスキル。

 

 俺はドーリスたちに断りを入れて、その後も断続的に出現するスケルトンを相手に、このスキルの検証を進めることにした。

 どうせ出てきたら戦うんだし、一石二鳥。いいタイミングで習得できたと思っていい。

 ……だが、検証は思い通りに進まなかった。

 

 スキルが発動しないのだ。単なる蹴りにしかならない。

 理屈がさっぱりわからん。ドーリスに聞いてみても首を横に振るばかりだ。

 発動条件があるのか? 【蹴撃】と【空列】はどちらか片方しか発動できないとか?

 

 いやそんなことないと思うんだよな。そもそも初回は【蹴撃】をしようとして発動したわけだし。

 条件でないなら、クールタイムとか? とにかく当てずっぽうで色々試してみるが、あれっきり再発動することはなかった。

 同じユニークスキルの【絶】はそんなことないんだけどなぁ。

 でもまあ、【絶】も蹴りを繰り出したときに強制発動だからコントロールはできていないんだけど。

 

 【空列】というスキル名から推察できることはほとんどない。

 いや、実際の効果と名称を照らし合わせると、異様に切断面がきれいなので間に文字通りの空列を割り込ませる……的なニュアンスなのかな?

 実際のところは開発者に聞かないとわからないな。結局、スキル名は発動条件を探るヒントにならないということだ。

 

 だが、絶対に自在に使えるようになりたい。それくらい凄まじい効果だぞ、このスキルは。

 一度やられた側だからわかる。盾や鎧を無慈悲にバッサリと破壊できるほどの攻撃力、このゲームでは決して多くはないはずだ。

 ドーリスからはそもそも確率で発動するスキルなのでは? という意見もあったが、おそらくそれも違うんだよな。

 なぜならレシーが俺に使用した時は、明らかに意図的に行使していたからだ。

 

 そんなこんなで、検証と探索を兼ねながらスケルトンを撃破し続けることしばらく。

 何の危なげもなく墳墓を突き進んできた俺たちの前に、なにやら様子の異なるスケルトンが立ちはだかった。

 

「……なんだ、こいつ」 

 

 それは、全身が真っ赤に彩られた真紅の骨を持つスケルトン。

 防具の類は一切装備していないが、代わりに両手に赤い紋の走るサーベルを握っていた。

 一目でわかる。今までのスケルトンとは明らかに格が違う。

 

「言わなくてもわかると思うが、露骨に強個体だな」

「……だよな」


 薄暗い地下墓地にたたずむ赤い骸骨の姿は、その立ち姿からして既に圧が違う。

 そもそも色違いはオリジナルより強いって相場が決まってる。油断できない。

 まずは小手調べに、【蹴撃】から入らせてもらう。

 

 強引に接近しつつの蹴りは、たとえ【空列】が発動しなくとも相手が受けた時点で勝ちパターン。

 こうやって【空列】の検証相手のスケルトンを繰り返し蹴り砕いてきた。

 

 だが。

 骸骨は赤い軌跡を閃かせて、俺の蹴りを打ち返した。

 

「マジかよこいつ!」 

 

 直後に双剣を交差させて斬り掛かってきたのを咄嗟のタックルで押し返す。

 スケルトンとリビングアーマーじゃこっちのが余裕で重量で勝っている。簡単に刃物が食い込まない体だからこそできるゴリ押しだ。

 

 タックルで間合いを取り返したついでに一発蹴り込むが、当然の如く右手のサーベルで軌道を反らされて有効打にならない。

 すかさず反対の左手のサーベルが首狩りに薙ぎ払われるのをバックステップで飛び退いて逃れる。

 が、逃がしてくれない。ヤツのが圧倒的に早い。赤ガイコツは即座に突きを構えたまま鎧を貫かんと深く踏み込み……けれど突如飛んできた爆発瓶を切り払うために突進を止めた。

 

「カノン助かった!」

「久しぶりに仕事した気分だぞ!」

 

 カノンの援護によって、赤スケルトンは追撃を止めざるを得なかった。

 俺たちと赤スケルトンの間合いは、当初と同じく睨み合う距離まで離れた。

 

 でもカノンのおかげで九死に一生を得たって感じだ。この赤い骨、やべぇぞ。 

 まさか俺の【絶】を初見でほぼ完璧な形で対応してきやがるとは。足を振りぬく前に押し返され、俺の【蹴撃】は不発に終わった。

 たとえガードされようと有利状況に持ち込めるレシー直伝のドリームコンボが起点から潰されるなんて。

 それどころか、足に浅い切り傷をつけられて若干のダメージをもらっている。

 次同じ行動を繰り返したら、もっとうまく返されるだろう。

 

 二刀使いの、赤い達人の骸骨。

 今のたった一回のやり取りでわかる。今まで戦ったエネミーの中じゃ別格に強い。

 いくら強個体だつったって明らかに想像以上だぞ。ちょっとタフとか攻撃力がちょっぴり高いとか、その程度を想像してたのに。

 防具を付けていないからなのか骨の体だからなのか、恐ろしく動きが機敏だ。

 こちらを攻めをいなした後の反撃が速すぎる。俺のスピードじゃ退くのが間に合わなかった。

 メイスも呪いの効果があって迂闊に使えないし、蹴りを入れてもさっきの焼き増しだ。

 

 ぶっちゃけ、仮に【空列】を使いこなせていたとしても打破する未来が見えないぞ……。

 どうやってこいつ倒せばいいんだ?

 

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