第98話 裁きたがり
ふらりと現れた、ただならぬ赤いスケルトン。
俺はそいつと対峙しながら、思考を練っていた。
(この骨、ガチで強ぇ……)
拮抗状態を維持するため、背後に控えたカノンが爆発物を投擲。
赤スケルトンはそれを双剣で撫でるように受け止め、切り裂くことなく明後日の方向に放り投げた。
当然スケルトンは無傷。マジで達人の如き腕前。ここのスケルトンはおろか、今まで出会ったエネミーの中でも最強クラスに思える。
ともすれば、あのレシーに並ぶのではとさえ思わされる。距離を詰めたあとの接近戦の苛烈さを思えば、あながち的外れでもないだろう。
だが冷静に考えれば、こんなぽっと出の骨があの意味深なNPCのレシーに比肩する存在だとは考えずらい。
つまり、この赤い骨には致命的な弱点があると予想する。一介の雑魚敵が異常な戦闘能力を得た代償として、弱みが用意されているのではないだろうか。
そう考えないとやってられないってのが、俺の本音なんだがね。
弱点。順当に考えりゃあ、耐久力だろうな。
低耐久は他のスケルトンにも共通する弱点だし、一部のスケルトンはそれをカバーするために装備を固めている個体もいた。
この赤い骨は一糸まとわぬ姿だ。こいつの防御力の低さは信用していいだろう。
攻勢を凌いで強烈な反撃を叩き込めれば、倒せる気がする。
でもなあ。メインウェポンが呪われてるせいで、チャンス一回しかねえんだよな。
一発で倒しきれなかったら、呪いの効果で離脱できないのが痛い。
あの骨なら俺の鎧でさえも、あっさりなます切りできそうだし。
でもなんも策が思いつかねえ。メライとドーリスを護衛する必要がないんだったら開き直って突撃して、負けながら情報を持ち帰っても良かったんだけどなぁ。
迂闊に試せないから、身動きが取れない。
向こうの骨も、動き出しにカノンが投擲を合わせるせいで先手を取れずにいる。
ひたすら膠着した状況が続いていた。
そんなとき、突然空間に変化が訪れた。
それは、どこからともなく吹きすさぶ大量の白い羽根。
「いきなりなんだ!?」
一瞬赤い骨の攻撃かと思って身構えるが、ダメージを食らう気配はない。
吹雪のように殺到する白い羽根が視界を塞ぎ、辺りが見えなくなる。
そんな中、聴こえてきたのは明朗とした声。
「救済執行のときよ!」
吹きすさぶ羽根が落ち着いたとき、そいつは俺たちの目の前に立っていた。
まばゆい金髪に自信に満ちた表情、天使の如き白い大翼、豪奢な白いアーマー。
そして、頭上に浮かぶ『マルレイン』と記された日蝕のようなプレイヤーネーム。
「ドーリス! こいつなんだ!?」
「短く纏めりゃ、【ありがとうの会】の同類だな」
「最悪じゃねえかっ!」
混乱の中でドーリスに情報を求めた結果返ってきたのは考え得る限り最悪の返事。
【ありがとうの会】の同類ってなりゃあ、要するにプレイヤーキラーって認識だろ。
こんな緊迫したタイミングでなんでよりにもよって。
辺りを見回せば、白い羽根が辺りに浮遊して、金色の結界を構築している。
ランディープが襲撃したときに逃げられなくなったのと類似した現象と思ってよさそうだ。
……。
あれ、待てよ。
赤い骨ってどこ行った?
「ギャアァァァァ!!!! なんですかコイツッ!?」
悲鳴。
見れば、目の前の天使は背後にいた赤い骨に、背後からなんの躊躇もなく剣をぶっ刺されていたのだ。
このよくわからん忘我キャラは俺と赤い骨が対峙している中、ちょうどその真ん中に出現してしまったらしい。
で、正面に俺がいたので背後にいたこの凶悪な骨の存在に気づかなかったようだ。
ていうかプレイヤーキラーでいいんだよな? なんで骨に攻撃されてるんだ。
「ドーリス、これは一体?」
「例えプレイヤーキラーとして乱入しても、エネミーとは敵対関係のままなんだぜ」
なるほど、それで。
「所属とかはわかるのか?」
「天使族のプレイヤーキラーとなりゃ【やみつきジャッジメント】で確定だな」
「また忘我キャラだぞ」
「お前が連れてる赤ずきんみたいな協力的な忘我キャラのがよっぽど珍しいんだぞ。プレイヤーキラーの方が、向こうから強引に接点を作ってくる分目撃例も多いんだぜ、ヒヒ」
「笑い話になんねえ」
他人事のように眺めていると、マルレインなる人物はくわっとこちらを振り向いて叫んだ。
「なに呑気に眺めてるんですかッ!? 」
「いや、そう言われても……」
「ふんッ!!」
胴を貫かれた天使が、肘鉄で背後の赤いスケルトンを殴りつけて突き飛ばす。
「さぁ、協力してこの狼藉ものを倒しますよ!!」
「えぇ……」
お前って俺たちを倒しに乱入してきたんじゃないの?
素直にどういう神経をしているんだろう。なんか指図までしてきてるし。
とりあえず強敵を前に駆けつけた援軍だと思っていいのかなぁ。
「私はねぇ、裁きができりゃあねぇ、相手は誰でもいいんですよォーッ!」
不安になってきた。
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