第96話 対スケルトン
カルシウムを連呼する異色のスケルトン、掲示板で一度見知ってはいたが実際に相対してもその存在感に翳りはなかった。
というかさりげなく掲示板上の人物と直接邂逅するのは今のが初めてだったな。
ハンドルネームと口調だけでも、存外わかりやすいものだ。
また掲示板で遭遇した住人と直で顔を合わせる機会もあるだろう。
というか掲示板に入り浸っているプレイヤーは有名人が多そうな雰囲気もあったしな。
そのうち、重要なクエストをこなすときにでもで縁が繋がったりもするかもな。
「にしても、我の強い骨だった」
「存在を知っちゃあいたが、俺も直接会うのは初めてだったぜ」
「そうなのか?」
「掲示板上で検証報告とスケルトンの布教を繰り返し続ける奇人だったからな。まさかこんな形でヤツの検証拠点を知ることになるとは思わなかったが」
マジか、あのスケルトン一生ここで検証を繰り返してるのか。
俺だって軽い検証は地下水道でやったけど、わりとすぐ切り上げたぞ。
やり込みとかタイムアタックとか、制限を設けたプレイでクリアを目指す人はそれなりに聞くが、延々と検証を繰り返すなんて。
それを支えるのはスケルトンという種族への愛ゆえなのか?
それだけずっと続けていたら飽きがきそうなものだが、やっぱりゲームの遊び方は本当に人それぞれなんだなぁ。
「アリマ、向こう」
なんて考えていたら、カノンが暗闇を指さした。
釣られてそちらを睨めば、スケルトン特有のカタカタとした音を伴って闇の向こうからスケルトンが姿を現す。
足音が聴こえるよりも先に見つけてくれるカノンの頼もしさよ。こいつ連れてたら敵に先手取られることとかないだろ。
「うわ、武装してやがる!」
またさくっと処理してやろうとか思っていたのだが、そうはいかないかもしれん。
姿を隠すこともなくのっそりと歩み寄るスケルトンは全身に分厚い革の防具を纏い、手には剣と盾を持っていた。
一番最初の拳で殴りかかってきたスケルトンとは脅威度が段違いだ。
「アリマ、覚えておけ。スケルトン本体の動きの練度は、おおよそ身に着けている装備に比例する」
構えた俺の背後からドーリスの助言が飛んでくる。
いい装備をしているスケルトンは、それだけいい動きをするってことか。
よく見ればスケルトンは軽く腰を落とし、前方に盾を構えてじっくりと間合いを詰めてきている。
ドーリスの言う通りだ。既にスケルトンの挙動に違いが出ている。無造作に殴りかかってきた雑魚スケルトンとは行動パターンからして別物だな。
もっとも、俺の戦い方は変わらない。向こうが先手を譲るような挙動をするなら、選択肢は一つ。
「【絶】」
この手に限る。スキルによる不可解な加速を伴った蹴りで間合いを詰めると同時に構えた盾を蹴り飛ばす。
いつもならこのまま武器で攻撃するんだが、手に持った武器が呪われているからな。
少し趣向を変えて、片足を鉈のように振り落として相手の足に叩きつける。そうして相手が怯んだ隙にメイスを叩きつける。
一発ぶち当てれば、あとは込められた呪いが勝手にやってくれる。
防具のないところを殴るような知恵もなく、体の主導権が奪われてレザーアーマーを叩いて引き千切らんほどの勢いで執拗にメイスが振り下ろされる。
先に足に一撃入れておいたお陰でスケルトンは体勢を直せず、そのままバラバラに砕け散っていった。
……ふう。
体が勝手に動いてくれるっていうのも便利なものだ。あとはこの正気を失ったようなこの猟奇的な攻撃方法さえなんとかなればな。
まあでも、中々うまく呪いと付き合えているんじゃないか? これなら今後ともこの飢餓槌とやっていけそうだぞ。
「流石にこの程度じゃあ、危なげもなく倒せるか」
「これくらいはな」
「にしても……今の妙な加速、ユニークスキルか」
「ああ。ドーリスなら見るだけでわかるのか」
「ユニークじゃないスキルがだいたい頭に入ってるからよ。そこに該当しない挙動をしてるんなら、逆説的にユニークスキルだとわかる」
「なるほど」
【絶】をドーリスに見せるのは初めてだったはずだが、知識量がゆえの答えの導き出し方だな。
とはいえ、ユニークスキルだとわかってもその詳細な効果までは看破できないだろう。
いや、ドーリスが俺のユニークスキルの存在をむやみにばら撒いたりする心配はしていないが。
まあこのスキルは初見殺ししやすい性質なのはもちろんそうだが、内容がバレたとしても汎用性に富むのでそこまで問題ない。
「ま、ユニークスキル関連に首突っ込む気はねえよ。果ての見えない深淵みたいなもんだ、終わりが見えなさすぎる」
「やっぱり習得方法に再現性がないのか?」
「熱心に調べてるやつらもいるみてぇだが、あいにくと成功したって報告は見たことがねえ。もはや誰かが習得したら、以後誰も習得できないって線が濃厚になるくらいだぜ。要約すると、情報に価値がねえってことよ」
「お前がそこまで言うのか」
ユニークスキルを見せたわりにドーリスの反応が薄いと思ったら、そういうことだったか。
なんでもかんでも情報をかき集めているかと思ったが、彼の基準で取捨選択はしてるらしい。
「アリマ。盛り上がってるところ悪いけど、また新手だぞ」
「おっと、すまん。助かる」
おっと。俺たちが談笑している間もカノンがずっと周囲を警戒していてくれたらしい。また敵の接近を察知してくれた。
見落としがちだが、護衛対象が二人もいる状況だと先んじて敵を発見してくれるカノンの貢献が凄まじいな。
非戦闘員を連れていると、囲まれたり不意に近づかれたときの危険度が段違いだ。カノンにはあとでなんか礼をしなければならないかもしれん。
さて、出てきたのはさっきと同じようなスケルトン。装備のランクも同じくらいだ、さっさと始末しよう。やり方もさっきとまったく同じで通用するだろう。
まずは構えた盾を蹴っ飛ばすところからだ。
「【絶】」
一瞬で近寄って、スケルトンの盾に蹴りを入れる。そうすれば、……あれ。
……裂けた。蹴りを受け止めた盾が、スケルトンが、まっぷたつに。
『ユニークスキル【空列】を習得しました』
マジで習得者ぐらいには習得条件教えてくれてもいいんじゃないか?
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