第93話 突入前
「癖が強ぇよなぁ、お前も大概によ」
「待て、遺憾なんだが」
これがカノンを連れてドーリス達の元へ合流した際に言われたときの第一声だった。
「待て? 呪いの武器ぶら下げて後ろに忘我した子まで引き連れてどの口で言ってるのかしら」
これはドーリスの隣に佇むメライからの一言。
どうしよう、反論できない。
スケルトン対策はできたかと聞かれたのでエトナに打ってもらったメイスを見せたらこの言われようである。
「いやこれは不可抗力で呪いの武器になってしまっただけでな」
「手に入らないとまでは言わねえけどよ、探して用意するのも難しいくらいに呪いの武器ってのは希少なんだぜ」
「そうだったのか? まあでもそこまで悪くない呪いだぞこれ」
「ほんとか?効果言ってみろ」
「攻撃が当たると攻撃をしてしまう」
効果を聞いてドーリスが口元をへにょりと曲げたなんとも言えない微妙な表情を浮かべた。
俺ももしリビングアーマーじゃなかったら、エトナからこの説明をされたときにそんな顔してたんだろうな。
「まぁ、当たり、ではあるか……」
「参考までに、他の呪いってどんなのが確認されてるか聞いていいか?」
「与えたダメージが全部自分に反射するとか、攻撃するほど武器が短くなっていくとかだな」
「使いものにならないな」
「だいたいそういうもんなんだよ呪いってのは」
呪いってそんな武器として扱うのに不都合が生じるレベルなのが当然なのかよ。
じゃあエトナが打ってくれたのは大当たりもいいところじゃないか。デメリットがメリットに転じる可能性があるというだけで素晴らしくないか?
「ちなみに、当たりの呪いだとどんなのがある?」
「出やすい呪いの中だと、やっぱ少しずつ重量が増し続けるヤツだな。最近は徐々にうっすらと見えなくなっていって最終的にそのまま消滅する呪いも一般的に当たりって評判だぜ」
「最終的に消えちゃうのかよ」
どっちも大概な呪いじゃねえか。重くなるのは、まあわかる。やがて重くなりすぎて扱えなくなるとはいえ、重さは利点にもなりうるからな。
でも最終的に消えちゃう呪いはマズいだろ。
「ま、徐々に効果が強まる類の呪いなら、使い捨ての強力な武器として使えるからな。呪いの武器の評価はそんなもんで固まってきてるぜ」
「そういうもんか」
「固定効果の呪いはろくでもないのばかりでな。到底使い続けらんねぇなのばっかりだ。そういう意味じゃ、お前のは当たりで間違いないだろうさ」
良かった、このメイスが徐々に透明化する呪いじゃなくて。困るもんな、普通に途中で消えられたらさ。
「それよか、準備できたんならさっさと行こうぜ」
「おう。ところで、ドーリスは実際どんくらい戦えるんだ?」
「戦えないが?」
んっ?
「あん? 戦力にはなんねぇって予め言ってたよな?」
「確かに生産職だとは言っていたが」
「おう。だから戦闘力はゼロだぜ、ゼロ。パーティの分類も『要人警護』になるから忘我キャラ連れていけるんだろうが」
「……そうだったのか。すまん、知らなかった」
やべ、完全に勘違いしていた。
「……なぁアリマ。ひょっとして私との契約内容も、もしかして忘れてたか?」
「正直いって忘れていた」
「オイ!」
とうとう俺とドーリスのやり取りに配慮して静かにしていたカノンにまで突っ込まれてしまった。
そういや確かに忘我サロンでパーティに忘我キャラ同行はさせられないって言われていたような気がするわ。
完全に忘れていた。でも逆に、ドーリスは自分たちならこの誓約をパスできるって知っていたからカノンも込みで呼んだんだよな。
ドーリスが情報に精通した人物じゃなかったらここで急遽ドタキャンになっていた可能性もあったんだよな。
……反省しよ。
「まったく危なかっしいぜ、おい」
「すまん。猛省してる。……ちなみになんだがカノン、もし俺がここで契約違反してたらどうなってたんだ?」
「うん!ある程度の裁量が私に委ねられるから、めちゃくちゃに違約金をふんだくるぞ!」
まばゆい笑顔で言い放つカノン。
なんて純真無垢で汚れのない笑みなんだ。これで発言の内容も伴っていたら良かったのに。
なんなら俺が契約違反してたほうが嬉しいまで言いかねないじゃねーか。
「まっ、流石にその前に警告は挟むけどな」
「それでも俺が無視してたらって事か」
「そうそう、そしたら有り金根こそぎ毟り取る!」
「よしてくれ」
「よさない! 絶対に一銭たりとも残さずふんだくるぞ!」
俺のこと見上げながらそんなこと言うんじゃないよ。
まるで貰った誕生日プレゼントを自慢する姪っ子みたいな感じなのに、カノンの実際の発言内容はこの有り様である。
忘れがちだけどカノンって金銭面にはすげーシビアでドライなんだよな。彼女の種族柄、金策が死活問題っていうのもあるんだろうけど。
「そろそろいい? カタコンベに移動するわよー」
「す、すまん、いつでも大丈夫だ」
チカチカと点滅する水晶を揺らすメライに促されつつ、俺は新たなダンジョンの突入に備えた。
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