第92話 呪いの中身
「説明してくれ。なんだこの、呪いっていうのは」
エトナが丹精込めて作ってくれたはずの武器が、なぜか呪われていた件について。
おかしいな、妙なトラブルとか予想外の問題に遭遇しないように無難な武器選びをしたつもりだったのに。
どうもエトナが気合を入れ過ぎてしまった結果のようだが。
心なしかエトナもしょんぼりしているような気がする。表情が読み取りづらいからわかりにくいけど。
「呪いは武器に付与された特別な効果。ただしそれにはデメリットが付随する」
そうなのか。呪いって言われて身構えたけど、一応マイナスな効果だけじゃなくて特殊効果も一緒にあるんだな。
とはいえエトナが沈んだテンションでいることを考えたら、失敗みたいな扱いなのか?
それなら呪いの中身次第だな。
「効果は?」
「攻撃が当たると攻撃をしてしまう」
「……」
ええと、つまり。
「一度攻撃を当てたら、外すか倒すまで攻撃を止められない……という認識で合っているか?」
「そう。そして、攻撃が連続して当たるほどに威力と速度が増していく」
うーーん。
飢餓と名に冠しているだけあってハングリー精神の旺盛な武器のようだ。
厄介と言えば厄介だが、呪いというには軽微……でもあるのか?
実戦投入するまえだと評価がちょっと難しいな。
攻撃したら強制的にラッシュを仕掛けることになってしまうってことだよな。
途中で反撃を避けたりできなくなるのがデメリットのようだが、このスペックなら使いどころはあるはず。
むしろ生半可な攻撃なら無視できるリビングアーマーとの相性は良好かもしれん。
「そこに木人形を用意したから、確認してみて」
そう言ってエトナが組み立てたのは、素振りに使えそうな簡素な木偶。
これをぶって呪いの効果を確認してみろということらしい。
「なら、遠慮なく」
促されるままメイスを握って人形をぶん殴る。重さに任せて叩きつければいいから楽だなぁ、と思ったのもつかの間。
「うぉ!」
メイスが意志を持ったように木偶をぶん殴りはじめ、俺の腕が強引に振るわれる。拳を開いて武器を手放そうとしても固まって動かない。
攻撃が当たると、それがもう一度。より強引に、威力が増して腕が引っ張られる。
まさしく武器に勝手に体を使われているような感覚。呪いの武器って感じだ。
感覚としてはスキル【絶】によって不自然に自分の座標がズレていくのに似ている。
そのまま俺の体は狂ったように木偶をぐちゃぐちゃになるまでブチのめし続け、人形がバラバラの粉々になったことでようやく止まった。
わざと木人形が脆く作られていたおかげで助かった。これ岩とかぶん殴ったらどうなっちまうんだ。
「ふぅ……。思ったより攻撃の仕方が荒々しいな……」
なんか殺意がすごいというか、攻撃の仕方が半狂乱で外面がすんごい悪い。
呪いの追加攻撃の方法はまったくコントロールできず、あんな猟奇的というかスプラッタな感じになってしまうようだ。
強引に動かされている側としては、猛犬の首輪に繋いだリードを抑えきれずに振り回されている感覚。
メイスの動きが止まった頃には俺もすっかりぜーはーぜーはー肩で息をしていた。
いや、リビングアーマーだから肉体疲労とかはカットされているっぽいからそんなことする必要ないんだけど、こう、気分的にね?
「とりあえず性質はだいたいわかった。呪いの効果はそれで全部なのか?」
「今は、そう」
ん?
いま聞き捨てならないセリフがあったぞ。
「……いずれ変わるのか? 呪いの効果」
「呪いは変容する」
じゃあ厄介じゃん。厄介極まりないじゃん。
呪われた武器って言われて身構えたけどピーキーなだけで使いようかな~とか考えていた数秒前の認識が即改められたわ。
変容するってことはデメリットの効果も変わるよな?
で、たぶん変容するタイミングって戦闘中の可能性もあるんだよな?
どうすんだよ万が一この武器に『視界に敵が映ったらとりあえず一発殴ってしまう』的な効果が追加されたら。
明らかな格上と遭遇して逃げることもできずに自分から殴り合いをしに行ってしまうみたいなシチュエーション嫌だぞ。
「コントロールはできないのか」
「難しい。呪われた武器は新しく定義されている。銘も、私がつけたわけではない」
「そうだったのか」
腐れ纏いに次ぐ、エトナの武器で失敗作じゃない名前の作品かと思ったんだが。
じゃあ呪いの効果やデメリットもエトナが考案したわけじゃないんだな。
本当に彼女が言っていたような、できちゃったって感じっぽい。
そう思うと失敗作より失敗作じみているような。
でも名前が勝手についたというのも興味深い話だな。
ゲームの方で自動生成とかされたのか? 呪いの効果もある程度レパートリーとかあったりして。
このあたりの話は一回ドーリスとしてみたいな。情報屋なんだし呪いが変容する条件とか知ってるかもしれない。
とにかくエトナに作ってもらった打撃武器として、ありがたく受け取ろう。
呪いというとネガティブな印象だが、相応にレアな武器の可能性だってあるしな。
彼女の話じゃ俺を貶めようと念を込めたとかでもなさそうだし、当たりを引いたようなもんだと前向きに捉えよう。
「まあ、使ってみるよ」
「……打ち直しても、いい」
「いや。せっかくだからこれでいってみる」
こういう欠陥のある装備も実は結構好きだし。使いどころを選ぶって話だが、今回想定する敵はスケルトンだ。
ガイコツどもをしばくのにこの呪いが不都合なシチュエーションはそう多くないと思う。
今後はともかく、差し当たりスケルトンに効く打撃武器がほしいっていう俺の注文はきちんと果たしているわけだしな。
最初にダイアログメッセージで呪われたとか出てきたときはビビったが、説明を聞いたらなんてことはない。
よくある呪いの効果として、装備したら取り外せなくなるみたいなのもなかったしな。
「助かったよ。またよろしくな」
呪われているけど、打撃武器は無事入手できたぞ。
攻撃の仕方がちょっと狂気的なのがアレだが、心強い新武器。
こいつでスケルトンどもをしばきに行こう。
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