第89話 邪魔者とは
「で、肝心の儀式ってのはどんな場所なんだ」
「いわゆるカタコンベよ。地下墳墓を経由するの」
カタコンベ。洞窟や地下に作られた死者を葬るために築かれた墓所のことだ。
けっこう閉塞的な感じの場所だよな。正統派なダンジョンっぽさのあるところでもあるが。
「地下墳墓ねえ。ならメライがさっき言っていた邪魔者ってのは」
「スケルトンよ」
これまたお馴染みかつ正統派なエネミーだ。
動く白骨死体だもんな、素晴らしきファンタジーだ。
このゲームじゃプレイヤー側にもスケルトンしばしばいるから、一緒に連れてったら混戦のときわけわかんなくなりそうだよな。
忘我サロンにいた星辰魔法使いのスケルトンくらい特異な外見してるならまだしも、オーソドックスな外見だったら困ったことになりそうだ。
俺も今後、城を攻略するステージとかで相手に動く鎧がたくさん出てくるようになったら同じような問題にぶち当たるかもしれんな。
しかし、スケルトンが相手か。まあでも今まで戦ってきたキノコやら水やらと比べたら相当やりやすいんじゃないか?
戦闘要員として連れていかれる以上は頑張らないといけないわけだが、人型ってだけでかなり助かるなあ。
外見からは想像もつかない突拍子もない攻撃とかもないだろ、スケルトンが相手なら。
「一応聞くが、そいつらは普通のスケルトンでいいんだな?」
「そうね。想像している通りのものよ」
「巨人みたいにデカかったり、獣のスケルトンではないな?」
「別に隠しごとなんてしないわよ。特に知ってることはないから」
メライを念入りに問い詰めるドーリスを見て、ああそっかそういう可能性もあったのかと後から気づいた。
そうだよな、スケルトンだからってこっちが想像してるものが出てくるとは限らないよな。
たかがスケルトンだと高をくくって突撃したら中が全部ドラゴンのスケルトンでしたとかいう可能性すらありえないとは言えないのが恐ろしい。
こういうのがあると自分の不用心さに気づかされる。頼れる裏方がいるうちで良かった。
「そうかい。しかしスケルトンか、厄介だな」
「……ん? そうなのか?」
スケルトンっていえば雑魚敵の代名詞じゃないのか?
そりゃあスライムとかほど弱くはないだろうが、序盤に出てくる弱めのエネミーの印象なんだが。
白骨の体は脆くて耐久力に乏しいから簡単に倒せるだろって思っていたんだが。
「アリマは知らねえか。面倒くせえぞスケルトンは」
「あまり想像がつかないが……」
「スケルトンには熱心な研究家がいてな、他の種族よりもわかっていることが多いんだが」
その研究家は昔スレで見たことある気がする。あとその人の作った実験サンプルキャラも。
「ほぼ確定で自己修復のスキルを持ってる。ブッ叩いてバラしても再生するんだよ」
「は? ずるいだろ」
リビングアーマーにもくれよそのスキル。パッシブスキルとして必要だろどう考えても。
なんで骨は勝手に治って俺はそのままなんだよ。俺も戦闘中に負った傷が自然治癒してほしいんですけど。
「まあリビングアーマーのお前はそういう感想になるだろうが、そういうもんなんだよ」
「すごく釈然としない」
リビングアーマーとスケルトン、いったいなぜ差がついたのか。
そりゃ確かに骨と鎧じゃそもそもの防御力が違うから種族ごとの差別化みたいなもんなのかなあ。
スケルトンと違ってリビングアーマーは装備する鎧を変えられるみたいな特徴もあるし、妥当だと自分を納得させよう。
「というかそんな固有スキルみたいのがある種族があるのか」
「ああ。というかだいたいの種族は持ってるが」
えっ?
「俺は持ってないぞ。リビングアーマーの固有スキルは?」
「お前が持ってないんなら無いんだろ」
「そんな」
ドーリスの突き放すような言い分に俺の心は静かに涙した。
店員さんに探してる品物を聞いてたら「そこに無いなら無いですね」と返ってきたときのような無情感だ。
怒ることできない、やり場のない虚しいきもち。
なまじ他の皆は持っているという情報を先んじて入手してしまったが故の悲しみだ。
なぜ俺だけが、リビングアーマーだけが……。
と思ったが、そういえばリビングアーマーにはいくつかの特徴があった。
疫病系の状態異常の無効や炎熱攻撃への耐性だ。固有でないのが悔やまれるが、リビングアーマーにだっていいところはある。
俺はそう心を奮い立たせ、メンタルを取り戻した。
「話を戻すが、スケルトンは中々に面倒だぞ。ただでさえ自己修復でタフな上に装備を固めている場合もある」
「弱点とかはないのか?」
ゲームによっては聖水が特効の弱点だったり、回復の魔法が逆にダメージになったりするよな。
そういう裏技的攻略で楽したいんだが。
「これまた有名な話だが、打撃に弱い」
「効率的に骨を砕けるからだよな?」
「というよりも、斬撃の通りが悪い」
「そういえば刺突もダメって昔聞いた気がする」
「武器は選んだほうがいいぞ。槍とかレイピアは論外だな。刀も苦労するって話だぜ」
うーん。とは言ったものの剣しか持ってないしなあ。
ただ攻撃力が物足りないのは百も承知だし、それでも湿地を攻略できたのは【腐れ纏い】という状態異常による助けもあったからで。
というか一緒に来てくれたリリアとカノンのお陰でもあるか。
あとは、失敗作【特大】の存在もあるか。
これなら白骨死体ごとき装備ごと重さでバラバラに粉砕できそうなものだが、場所が地下墳墓だもんなあ。
野外ならまだしも、狭い通路とかだったら壁や天井に突っかかって扱え無さそうな予感がぷんぷんする。
それに戦うフィールドが狭いとなると、味方を巻き込む可能性も増えるよな。
長くて重い武器を重量任せに振り回してたら咄嗟に止めたりもできないしまずいことになる。このゲームって普通に味方に攻撃あたるしな。
よし。
またエトナに新たな武器をおねだりするときが来たようだな!
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