第79話 生還

 因縁のレシーとの突発的な再会。

 予兆も無く強襲してきたレシーとの戦闘は、これまた突拍子もなく再出現したテレサの介入によって俺たちは生還した。

 だが、負った傷は大きい。なにせ両腕を足で斬り落とされた。

 冷静にどういうことだよ。蹴りは刃物じゃありませんが?

 あいつは直前に【空列】と口にしていた。

 おそらくスキルの名称だろう。順当に考えるなら蹴り技に関わるスキルだ。

 詳細な効果はわからない。想像すらつかん。キックでものを斬れるようになるだけ? そんなまさか。

 

 ともあれ【絶】がそうであるように、蹴りに特別な効果を付加するものではあると思う。

 言いなりになったようで業腹だが、今一度修行を挟んでみるのもありかもしれない。

 やつの口ぶりでは、俺にそのスキルを修得するだけの素養はあるようだった。

 むしろ【絶】を覚えていることにさえ驚いていたような。

 蹴りを愛用するだけで覚えられるスキルではなかったのか?

 修得に何か細かい条件が介在するユニークスキルだったのかもしれない。

 

 だとすると、その【空列】とやらの習得は一筋縄ではいかない可能性が高いか。

 だが、覚えられる素養があるとわかってしまうと覚えたくなるのが人情。

 近頃戦闘スキルで困っていなかったから選択肢に入っていなかったが、地下水道でやったようにスキルの習得を直近の小目標にしてみるか。

 まあ、どのみち今すぐできることはない。

 

「アリマ、とりあえずこれ持ってきたけど……」

 

 カノンがしずしずと持ってきてくれたのは、今の戦闘で斬り飛ばされた俺の両腕。

 しかし受け取ろうにもその為の腕がなくては……と、思いきや、なんと装備することができた。

 こんなのも許されるのか。

 素晴らしきかなリビングアーマー。

 

「だ、大丈夫なのか、それで」

「……いや。見た目だけだな。体力の消耗は著しい」


 切断面がきれいなおかげで影響でぱっと見は元通りだが、流石にダメージまで回復はしないようだ。

 というか蹴りで斬ったとは本当に思えない。スキルの影響が介在しているのは明らか。 

 ただでさえ兜が無くて体力値が低いというのに、ここにきて追い打ちだ。

 足甲が片方歪んでいるのもよくない。いつもより足の動きがぎこちなく、うっかりすれば転びかねない。

 

「剣が折れるのも、久々だな」


 拾い上げたのは、エトナが打ってくれた失敗作【特大】。

 苗床に有効打を与えた俺の切り札は、レシーの足技によってなで斬りにされてしまっていた。

 剣というには長すぎる刀身も、半ばからスパっと斬り落とされて丁度いい長さにされている。

 片方は握りがないが、折れた刃を両手に一本ずつ持てば双剣として使えそうだ。

 まあする意味もないのでしないが。

 よもや、手持ちの武器の中でもっとも巨大かつ頑丈な武器が最初に壊れるなんて。

 思い返せば初めてレシーと戦った時も剣を壊されていたな。

 今回はあのときよりも巨大な剣を用意したが、今回もあえなくへし折られてしまったな。

 しかも足で。

 

「すまんが撤退しよう。この状態じゃ無茶はできなさそうだ」 

「了解だ。また来ればいいしな」

「敵との遭遇もなるべく避けよう。この腕で敵をうまく斬る自信がない」


 困ったことに、腕の変な場所に関節が増えたような状態だ。戦闘したらどうなるか知れない。

 リビングアーマーとしての体質は鎧が千切れても関係なさそうだが、肝心の中身の俺が変形した鎧の形に対応できない。

 将来変な形の鎧を入手したとしても、その形状を活かす練習が必要になるってことでもある。

 ……当分は直観的に動かせる人型の鎧だけでいいかな。

 

「今の帽子のやつ、知り合いだったのか?」

「ああ。右も左も分からん頃に一方的に嬲られてな。いわゆる因縁というやつだ」


 前はゲーム初めてたてでわからなかったが、ある程度この世界に慣れた今でも手も足も出なかった。

 こちらの手札を全て出しきったわけではないが、現時点でも実力がかけ離れていることは明らか。

 今も昔もレシーが最強の敵だな。他の有象無象とは強さが桁違いだ。


「なんか急に出てきたな。何者なんだ?」

「さっぱりわからん」

「それにしちゃ、随分執着されてる様子だったが……?」

「それもわからん」

 

 前回も今回も唐突に現れて襲い掛かってきたしなぁ。

 俺がやったことは一方的に倒されないように抵抗しただけだぞ。

 ただの被害者だろう。

 

「それに、あんな妙な能力があるのは知らなかった」

「私の投げた瓶、どこに消えたんだろうな?」


 戦闘が始まってすぐ援護してくれたカノンだが、効果を発揮することはなかった。

 瓶が届く前に虚空に呑まれて消えたのだ。ちゃぽんと水面に沈む様な波紋を伴って。

 詳細不明だが、飛び道具対策か?

 俺の近接攻撃をあんな不可思議な力で防がれたら流石に忘れないし、見逃さない。

 今だって逆立ちしても敵わないくらい力の差があるというのに、レシーにはまだ使ってない力があるようだ。

 折角戦勝気分に浸ってのんびり湿地を散歩していたのに、レシーのせいで台無しだ。

 

「まあそんな気を落とすなって、村に戻ったら新しい鎧もできてるだろうしさ!」

「ああ、そうだな……」


 カノンに励まされながら、俺たちはとぼとぼとエルフの村へと帰路についた。

  

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