第74話 シャルロッテの才覚

 指鳴らし一つで居城を魔術工房に作り変えたシャルロッテは、防具の作成には時間が掛かるとのことで俺たちを作業の邪魔だと追い返した。

 

「外から見ていた。シャルロッテが魔法を使ったんだな」


 シャルロッテの研究所の外に出ると、リリアが俺たちを迎えてくれた。

 見慣れたガスマスクは取り外している。怜悧な美貌を目にするのも久々だ。

 

「Type4が見たら顎が外れそうなくらいすげー魔法だったぞ!」

 

 興奮冷めやらぬといった雰囲気で話すのはカノン。

 彼女の言うType4とは、忘我サロンで同席していた星辰魔法使いのスケルトンのことだな。

 というかアイツ親しい仲のやつからはType4って呼ばれてるんかい。まああのガイコツ名前らしい名前してないし、仕方ないか。

 にしても忘我キャラたちは忘我キャラたちで仲が良かったりするのか? そのあたりの交友関係も気になるな。

 特にランディープ。アレが受け入れられているかどうかは個人的に大変興味深い。

 

 まあ忘我キャラ関連のことはさておき俺もこの世界の魔法の凄まじさの一端を味わった。

 このゲームならNPCに使える魔法はプレイヤーにも使えるだろう。この世界における魔法の自由度を目の当たりにしたなあ。

 次元なんとか魔法という仰々しい名称からして、まさかあれが初級魔法ということもあるまい。

 名前だけで判断するのならば、むしろ上級の更に上。俺が魔法に精通していれば、シャルロッテの凄さがより鮮明にわかっただろうか。

 カノンの言う通り、専門職のやつなら愕然としていたのかも。俺たちには凄いってことしかわからなかったけどな。 

 

「ところでリリア、鉄の臭いは平気なのか?」


 リリアはさも当然のように俺たちを出迎えてくれたが、こいつがシャルロッテ宅に同行しなかったのは鉄の臭いへの拒否感が理由だったはず。

 それをガスマスクも無しにここまで近づくなんて一体どういう風の吹き回しなのか。


「うむ。後ろを見てみろ」 

 

 言われるがまま振り返ると、そこにあるのは洋風な造りの一軒家。

 先ほどまであった金属の寄せ集めのような建築物の名残はもうどこにもない。

 

「……変わったのは内装だけじゃなかったのか。なあ、やはりシャルロッテはとてつもない魔法使いなのか?」

「シャルロッテは南の魔術城から招待状が送られる程の才媛だ。もっとも、機械に傾倒しきりでまるで興味を示していないのだが」

「魔術城ってなんだぁ?」


 俺が喉まで出掛かった疑問を、カノンが先に聞いてくれた。

 南の魔術城。地理に関する話はいつ聞いてもワクワクするな。いつになるかはわからないが必ず立ち寄りたい。


「魔術城はその名の通り魔法において優れた能力を持つ者が集う城だ。しかしどうも選民的かつ排他的でな。外からじゃ中がどうなってるのか知られていない」

「なにもわからないじゃんか。大丈夫なのかよその城」


 おいおい、協力的な勢力なのか敵のひしめく城なのかも不明なのか?

 招待状に誘われて行ったら『ようこそ、死ね!』されるような場所の可能性もあるじゃないか。


「まあ噂の絶えん城ではあるな。確実なのは卓越した魔法使いに招待状を送るということだけだな。それを目標にする魔術師もいると聞くぞ」

「ふーむ。行ってみたいが俺に招待状が来ることはないだろうな……」

 

 魔術なんてさっぱりだしなぁ。俺でも使えたりするのか? こういうってだいたい種族ごとに適正の有無がはっきり分かれてるパターンがほとんどだよな。

 誰か先生を見つけて座学に励んだら使えたりするかも。いやそんなことしても魔術城から招待を貰える領域になる気がしねえ。

 俺が行くには招待される以外の方法で侵入するしかなさそうだな。それか招待状を譲ってもらうとか?

 

「機械工房都市の招待状みたいなものがあれば魔術城の招待状と交換してくれそうだが」

「そんなものがあればの話だろう」


 ま、だよな。

 ぶっちゃけ門前払いされるよりずっと前の段階だ。魔術城のふもとにすら到達していない。今考えても仕方のない話だ。

 

「それより時間が空いたのだろう? まだ一つ訪ねるべき場所が残っているぞ」

「……ああ、神殿蜂の巣か」

「いかにも」


 蓄音機ならぬ聴音機を取り出して微笑むリリア。

 すっかり忘れていたが、神殿蜂の女王にも苗床の撃破を頼まれていたな。

 ちゃんと報告しに行って礼の品をきっちり受け取っておかないと。

 

 

 と、いうわけで待ち時間を利用して俺たちはエルフの森を抜け、再び湿地エリアに足を踏み入れた。

 霧のない良好な湿地で道に迷うこともなく進み、蜂の案内のもと空中に浮かぶ八面体の神殿へ。

 なお蜂は当然の如く俺たちを待ち受けており、聴音機で翻訳するまでもなく俺たちを先導し始めた。

 もはや待ってましたと言わんばかりだ。もう初回にあった意思疎通できているかの確認などは丸ごとスキップ。

 蜂たちとは一定の信頼関係が築けたと思って良さそうだな。

 そのまま滞りなく空中への神殿に運ばれ、女王と謁見へ。

 てっきりカノンはまた俺の鎧を着せないとダメかと思ったんだが、今回は必要なかった。

 パーティの一員として認められてるからだろうか。苗床戦のときとは何かが違うのだろう。

 今回は自分から着られに来るカノンをやんわりとお断りしたことでカノンの表情が宇宙猫のようになっていた。

 お前は本当に表情の豊かなやつだよ。

 

 それはさておき、再びの女王蜂との謁見。

 何を要求するか全然考えていなかったなぁ、どうしたもんか。

 いや、要求できねーじゃん。蜂にこちらの言葉を伝える方法がないことを失念していた。

 まあ恩を仇で返すような手合いでもなさそうだし、とりあえず何が出てくるか楽しみにしておくか。

 

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