第66話 蜂の親衛兵

「先手必勝だぜ」


 対峙する三匹の蜂に向けて迷いなく物を投げるカノン。

 赤い液体の詰まった瓶は中央の蜂に直撃し、円柱状の爆炎を苛烈に噴き上げた。

 その火力は凄まじく、もろに食らった蜂は体躯から黒煙を噴き上げ墜落。

 すげ、開幕で一匹落としやがった。

 

「おかわりは期待しないでくれ!」

「任せろ、あとは俺らで何とかする!」


 範囲を狭めた代わりに攻撃力を高めた爆発物といったところか。厄介そうな敵を即座に一体落としたのはでかい。

 非常に心強い威力だが、やはり連発はできないか。

 

「おっと、できることがなくなったとは言ってないぜ!」 

 

 ならば残る二体は俺とリリアで始末させてもらおう。そう思った直後に背後から続けて投げものが二つ。

 蜂目掛けて投じられた果実は爆竹のように爆音と閃光を生じ、やや遅れて着弾したもう一つが強力な突風を巻き起こす。

 音と光に怯んだ蜂は突如発生した風の流れに呑まれ、動きを止めたまま遥か後方へと押し流された。

 敵の分断。それもおそろしく迅速な対応。

 カノン、お前少し心強すぎるぞ。

 

「助かった! 合流される前に仕留めきるぞ!」


 カノンが分断してくれたので俺も即座に走り込み、蜂の側面に回る。

 面倒なことに間合いの長い槍と堅牢な盾を構えており、真っ向から戦えば苦戦は必至。

 だが、カノンが数的有利の状況を作り出してくれた。

 回り込む俺を正面に捉えた蜂が、黄色いキノコの槍を鋭く突き出す。

 他の寄生された蜂の異なりその動きは的確にして俊敏。やはり深部にいるだけあってそこらの雑兵とは違うらしい。

 しかし正確無比な刺突は、だからこそ狙いが分かりやすい。突き出された槍の切っ先を盾で受け流して払い、力強く踏み込み斬撃を見舞う。

 それに対し蜂は片手に持つ分厚く固いキノコの盾で剣を防ぎきる。

 盾は想像以上に堅牢。ビクともしねぇ。それに空中にいるとは思えないくらい踏ん張りが効いている。羽による浮遊力まで雑兵とは桁違いらしい。

 続けて二度三度と斬りつけるが、蜂の盾はまるで破れない。

 

「背中がガラ空きだな」


 だが、側面をとった俺に釘付けになっていた蜂はリリアに背中を曝け出していた。リリアがその無防備な羽をレイピアで斬って落とす。

 装甲と装備を固めた上位個体とて羽の強度までは向上していないらしい。倒し方は他の蜂と同じで良さそうだ。

 風に吹き飛ばされた蜂が遅れて戦線に復帰してくるが、時すでに遅し。

 蜂はお前が最後の一匹だ。

 

「落ちた蜂は私が始末しとく」


 羽を斬り落とした蜂のトドメはカノンに任せ、リリアと二人で残る一匹を挟撃する。

 蜂がリリアに槍を向けたのを確信し、今度は俺が背後を取る。攻撃を外す可能性を排除するため【絶】を伴って上から斧のように叩き落すかかと落としを見舞う。

 普段はかかと落としなんて狙う余裕はないが、無防備に背中をさらけ出した相手に当てるくらいわけない。

 重い甲冑の足甲で蜂の脳天を押し潰し、蜂を力づくで大地に引きずり落とした。

 地に落ちた衝撃で蜂が槍と大盾を取り落とせば、正面のリリアがすかさずに蜂を貫いた。

 

「いっちょあがり~」


 振り返れば、ちょうど落ちた二匹目の蜂をカノンが無慈悲に焼却しているところだった。

 これで蜂は全滅か。

 

「よゆーよゆー!」 

「無傷で切り抜けられたか。……カノンのお陰だな」

「まぁな!」


 誇らしげ胸を張るちっこい赤ずきんは可愛らしいが、それ以上に頼もしい。

 硬い装甲と強力な武装をした敵との、三体同時戦闘。しかも初見だ。

 はっきり言って少なくない被弾を覚悟していた。それをまさか無傷で切り抜けられるなんてな。

 誰がどう見ても立役者はカノンだ。開幕で一体葬り去った時点でおつりがくるのに、戦闘が始まる前にスムーズな分断まで行ってくれた。

 おかげで俺とリリアは危なげもなく1対2の戦闘を二回繰り返しただけだ。

 

「アリマもずいぶんな腕利きを見つけてきたものだ」

「だろう? 俺の目も捨てたもんじゃなさそうだ」


 一息つきながら、素直にカノンの働きを褒め称えるリリアを首肯する。ぶっちゃけここまで出来る奴とは俺も思ってなかったんだけどな。

 他の候補は時限爆弾の惑星ガイコツと紐を握り締めた爺さんだったか。二人にゃ悪いが、あいつら連れてこなくて良かったよ。

 カノンを超える働きができたとは思えない。

 風のスクロールを買うなんかよりよっぽどいい選択肢だ。

 カノンは良い出会い、良い買い物だった。

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