第65話 完全対策

 おおはしゃぎで歯車キノコを欲しがるカノンをなんとか説得し、俺たちは更に奥に進んでいく。

 俺たちが最初に来たように歯車キノコの幼生が見つかればカノンを満足させられたかもしれないが、残念ながら前回俺が採取してしまったので残っていなかった。

 おかげでもう一度カノンとここに来る約束まで取り付けてしまったわけで。まあ、これくらいは許してやってもいいだろう。

 そのころには霧問題も解決して今よりのんびり見て回れるだろうしな。

 

 俺たちは今やっているのは、道端に落ちている蜂の死骸にトドメを指す行為。

 リリアはナイフで、カノンは投擲物で。そして俺は失敗作【特大】の切っ先でチクっと突っついて確認している。

 これをしながら先に進むのは必須だ。なにせこいつら、ゾンビのように再起動し襲い掛かってくる。前はそれでひどい目にあったんだ。

 めんどくさいが外から見るだけでは生死確認はできない。死体確認は大切。でないと前みたいに四方八方を囲まれて取り返しが付かなくなる。

 こいつらは蜂の死体に付着した胞子袋が弱点のようだが、攻撃すると煙幕が発生する。

 なのであえて胞子袋は狙わず、あくまでも蜂の部分を攻撃。

 

 前回敗退させられた区画だ。否が応でも慎重になる。

 すいすいとここまで進んできたが、奥が初見ということもある。

 この先は時間を掛けて攻略していく。周囲への索敵も念入りにやるよう仲間に伝えていた。

 そら、早速カノンが何か見つけたらしい。

  

「アリマ、あそこにちくわみたいな敵が見えるんだけど」

「殺せ」

「おっけー」


 カノンの確認に即座に答えたのは俺ではなくリリア。その憮然とした声色には少なくない恨みが籠っている。

 優れた視力で誰よりも早くちくわキノコを発見したカノンが、アンダースローでイガグリを投げつけた。

 イガグリは着弾時に巨大化し、哀れちくわキノコは抵抗すらできずにあえなく絶命。横たわって動かなくなってしまった。

 霧を晴らしていると遠くから隙を窺っている相手も見つけられていいな。

 カノンがいないと攻略できないとは思わないが、それでも霧への対策は必須級だと見ていいだろう。

 愚直に回復だけして再挑戦していたらもう一度ここで負けていたと思う。

 

 そして、正面からやってくる寄生された蜂たち。

 死んだふりをしていない、活動状態の群れだ。その動きは鈍く、機敏さの欠片も無い。

 こうして余裕のある状況で遭遇すればさして危険視する相手ではなかったことがわかる。

 前は不意打ちで取り囲まれ、しかも深い霧で総数だって把握できていなかった。

 胞子袋という罠を孕んだ弱点に飛びついてしまった苦い過去も今ではいい思い出だ。

 

「手筈通り、羽を狙って地上に叩き落すぞ」

「ああ」


 俺とリリアの二人で蜂の羽を切り裂いていく。蜂の動きは緩慢で、反撃されることもなく地上に蜂たちは次々地上に落下していった。

 寄生された蜂たちを地上に落とし無力化させたあとは、カノンの出番。

 俺とリリアは後方で待機していたカノンの元まで引き上げ、落ちた蜂たちから十分に距離を取る。

 

「仕上げは頼んだ」 

「消毒だぜ」 


 カノンがぽいっと放り投げたのはぶどう酒の瓶。絶叫キノコを焼き払ったのと同じものだ。

 地上に転がる瀕死の蜂たちをカノンのぶどう酒が炎で包み込む。

 胞子袋を殴って視界が混濁する状況は風を起こす手段があっても避けたい。

 一時でも周囲の視界が塞がれば、その一瞬のスキをついて奇襲されるおそれがある。

 そのリスクを避ける為に考案したのがこの戦法。とにかく蜂の羽だけを攻撃して移動手段を奪ってまわり、トドメ役はまとめてカノンにやってもらう。

 カノン曰くこの火炎の威力は低いそうだが、羽のない蜂たちは炎から脱出する手段がないので問題なし。

 後衛のカノンにあまり危険な役割は任せたくないないし、俺とリリアは敵の数が多いので少しでも早く次の敵を倒しに行きたい。

 適材適所というものだ。これで寄生された蜂への対策は完了。

 前回はいけなかった沼の最深部へ俺たちは進むことができる。

 

 安定した足場を提供してくれていた蓮のような硬く平たいキノコも数を減らし、再び足場は不安定にぬかるむ沼に戻った。

 気づけば、辺りに散乱する神殿蜂の巣の破片もその残骸は大きな塊ばかりとなっている。

 墜落した神殿蜂の巣は、もうすぐ近くにある。

 そしてそれを証明するかのように、奥から新手の蜂がやってきた。

 リリアがレイピアを構え、俺もそれに応える。

 

「ここからが本番らしい」

「おう。敵さんも本気を出してきたみたいだ」

 

 現れた蜂の姿は今までとやや異なっていた。

 死後キノコによって操られており、その証拠に胞子袋をそなえているのは同じ。だが細部に上位互換と思しき差異が見られるのだ。

 まず第一に装備。右手に槍の如き黄色いキノコ、左手にラウンドシールドのような円盤状のキノコ。

 そして、鎧のように硬質に発達した外骨格。

 それが三匹隊列を組んで現れた。


 雑魚とは違う、衛兵の蜂のお出ましだ。


 

 

 

  

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