第61話 切り札?

 カノンがぶつけた爆発物の威力は絶大で、目玉キノコの傘は既に一部が欠けており表面にも焦げ跡がついている。

 やはり専門職の遠距離攻撃は違うな。休眠状態の相手を起動するだけだったリリアの投げナイフとは効果が段違いだ。

 これほどの攻撃力、やろうと思えば今の爆発物を投げ続けるだけでも打倒できるだろう。


「どんなもんよ!」 

「気を抜くな、来るぞ!」


 悠長に威力自慢するカノンをかばうようにリリアが前に出る。

 あのキノコを起動した者が最優先で狙われることをリリアはよく知っている。ヤツの距離を詰めるスピードの速さも身に染みていることだろう。 

 実際に覚醒したキノコはその大目玉を開きカノンを睨みつけている。既に大量の足を剥き出しにしており、カノン目掛けて猛進していた。

 前回であれば沼のない場所で待ち構えていたが、今は違う。

 沼の上でも戦闘ができる。つまり、こちらから仕掛けられる。

 さあ、失敗作【特大】よ。お前の初舞台だぞ。

 

「どうかな。理論上はうまくいくはずだが」

 

 沼の上で動けるということは、蹴りを使えるということ。故に俺は前回と異なり陸地でキノコの襲来を待つことはしなかった。

 繰り出したのはキノコの電信柱のように太い軸に狙いを澄ました【絶】。

 俺の体は規格外の大剣を肩に担いだまま足元の沼を飛び、走り寄るキノコを渾身の回し蹴りで迎え撃った。 

 蹴りはカノンしか眼中になかったキノコにクリーンヒット。猪の如き突進を止めることができた。

 そして滑り止めを施した足甲で沼の上を確かに踏みしめ、全力で上半身を捻る。

 

 本来、身の丈を超す特大の剣を抱えた俺に俊敏な動きはできない。

 だが【絶】による蹴りは対象との間合いを強引に調整するもの。例え俺が超重量の剣を引き擦っていようとその作用は関係ない。

 【絶】とその蹴りによって発生した慣性は、俺が本来扱えぬはずの大剣を渾身の力で振り抜かさせてくれた。

 

 蹴りによる回転と【絶】による加速。二つの力を乗せた特大の剣は大気を切り裂く轟音を伴い、巨大キノコを真っ二つに斬り伏せた。

 

 ……す、凄まじい威力。

 カノンの先制で削れていたとはいえ、撃破にあれほど手間取った目玉キノコをワンパンしてしまった。

 自分でやっておきながら自分が一番びっくりだい。

 腐れ纏いではこのキノコに刃すら通らなかったというのに、なんだこの攻撃力は。

 有無を言わさぬ攻撃力で以て力づくで叩き伏せる快感。いかん、この剣の魅力に憑りつかれそうだ。

 と、俺が特大剣の魅力にうっとりしていると、目玉キノコを打倒を確認し安全を悟った二人が側までやってきた。

 

「見事だな、アリマ」

「馬鹿みてーにデカくて長い剣だと思ったが、それと同じくらい馬鹿みてーな使い方をするなぁ」

「一応、それも誉め言葉として受けっておこう」

「別に褒めてないけどな」


 初回の目玉キノコとの苦戦を知るリリアは一撃で打倒してみせた俺を賞賛してくれたが、一方のカノンは俺の暴挙に少し引いていた。

 うーむ、辛辣。

 にしても、俺だけひとり敵の至近距離に飛び込む形になってしまうのは【絶】そのものの弱点だな。

 俺ひとりが突出して前に出てしまうのはパーティ戦闘ではあまりよろしくないシチュエーションもあるだろう。

 あまり意識してなかったが、これも気を付けなくては。

 にしても、この失敗作【特大】のデビューは大成功だったな。

  

「一度でいいからこいつの試し切りをしてみたくな。うまくいってよかった」

 

 片手で握れる剣とは似ても似つかないこの規格外の剣を見たときから、この使い方は思いついていた。

 尋常に扱おうと思えば、俺のパワーでは肩に担いだ状態からたった一度きりだけ叩き下ろすことしかできなかった。

 それほどまでこの剣は重量で、取り回しも劣悪。一度振りぬいたらもはや持ち上げるのにも時間を要するだろう。

 かろうじて切っ先を浮かせたまま引っ張るように斬りつけるくらいはできるかもしれないが、戦闘中にそんな悠長な真似をしている暇はない。

 

 そこで思いついたのが蹴り、そして【絶】との融合。

 結果はご覧の通り。俺の思いつきは必殺の奥義となるほどの結果をもたらした。

 机上の空論に収まらず一定の結果が出て俺としては非常に満足だ。

 

 それに実際に使ってみることで、この戦法の欠点も洗い出せた。

 まず第一に超重量の大剣を抱えることによって繰り出せる蹴りが限定されること。

 やってみたわかったが、片手に軽量の剣を持っていたときと異なり動きの制限がかなり大きい。

 蹴りそのものの威力は通常時と比べて間違いなく劣るだろう。

 

 二つ目に、攻撃し終わったあとの無防備っぷり。

 本命の特大剣を振りぬいたあとの俺はほぼ動けない。重い大剣に全ての体重と慣性を乗せた一撃は、その後の俺に絶大な隙をもたらしてしまう。

 しかもそのあと敵から離脱する手段がない。姿勢を立て直しても重い大剣があっては間合いを取り直すこともできないだろう。

 遠心力をフル活用して剣をぶん回した直後なので盾を構えようにもまるで腰に力が入らん。

 この剣を使う以上は一発で倒しきって安全を確保しないと酷い目に遭う。

 相手が複数いる場合も使用を控えた方が良さそうだ。

 

 一応、装備を取り外しインベントリに収納すれば武器の重量は失われる。が、戦闘中に高速でインベントリを操作するような真似は不可能だった。

 練習すればワンチャン……と思ったのだが、そもそも激しく体を動かしている最中は装備変更できないようになっていた。

 恐らく同様の発想が開発陣にもあったのだろう。重量武器を高速で付け替えてメリットだけ拝領するような裏技は、残念ながらシステムに阻まれて不可能だった。 

 

 最後の欠点は意外にも攻撃範囲の広さ。

 非常識なサイズを誇る失敗作【特大】はリーチも並の剣の域を超えている。

 これの何が問題かって、味方を巻き込んでしまうのだ。

 重さと勢いに物を言わせてぶん回しているので、寸でのところで剣を止めるなんて出来るわけもなく。

 攻撃後は隙だらけだというのに味方のフォローを受けることが難しい。なんなら味方のフォローに行くことも難しい。

 

 だが、以上の欠点があってもなお使う価値があることが分かった。素晴らしい収穫だ。

 この戦法の良い点と悪い点、それを沼の深部に行く前に把握できて良かった。

 

 結論として、この馬鹿げた大きさの剣は確かに切り札としてのポテンシャルがある。

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