第55話 オーソドックスな外見?
「話は聞いていたぜ。儂はパスだ」
「いきなりか? 一応、訳を聞かせてくれ」
星辰魔法使いのガイコツとの相談が終わったタイミングで、老人のしわがれた声が横から聴こえてきた。
声の主は隣の忘我キャラ、『紐爺』だ。
どうも外見からキャラの方向性が判断できない。縄をその手に握っているのが唯一にして最大の特徴なんだが、材料が少なすぎる。
見た目だけじゃどういう戦い方をするのかさっぱりだ。
しかし彼も候補として仮面に呼ばれた以上、毒耐性と風を起こす手段を持っているはず。
必要な条件を満たしているにも関わらず、それを自分から辞退するとはどういうわけなのか。
「お前さん、さっき沼探索するって言ったよな? だったらお断りだ」
「なぜだ。沼だとダメなのか」
「儂は『ローパー』だ」
老人が手を伸ばす。するとその腕が紐のように解け、老いさらばえた翁の腕は無数の細い触手に変貌した。
それはタコのような生き物らしい気色悪い造形ではなく、麻で編まれたロープのような外見の触手。
なるほど、紐爺とはふざけたダジャレだと思ったが、彼の名はしっかり体を表しているようだ。
「儂は汚れた水に弱い。沼の泥なんざもっての他じゃ」
「そうなのか? 種族特有の弱点に理由があるならなら仕方ないか……」
「すまんの。そういう訳なんで他を当たってもらう」
詳細はわからないが、ローパーなる種族は汚水等に汚されるとコンディションに悪影響があるようだ。
であれば、俺の目的が沼にあると判明した時点で依頼を断るのも道理か。
となると、やはり忘我サロンを理由するなら攻略先の下見は必須だったな。
やってくる人物たちが一度破棄されたキャラというだけあって、ビルドの方向性が極度に尖っている。
相性の悪い場所に連れていってしまったら金を無駄遣いするハメになりそうだ。
「ところで興味本位で知りたいんだが」
「なんじゃ」
「風を起こす手段や毒の対策はどうなってる? 呼ばれたからには何かあったんだろう?」
沼というエリアとの相性こそ悪かったが、この爺さんも俺の募集要項の条件は満たしているはず。
今後の参考になるかもしれないし、いかなる手段で毒と霧の対策を講じているか知りたかった。
「霧と毒はな、儂吸える」
「吸える?」
バラけさせていた縄の収縮させ一本の腕に戻した老人が事もなげに言う。
しれっとやっているが、人間の姿とローパーとしての触手の姿をコンスタントに切り替えている。
ランディープがやっていたように人間の状態と人外の姿をスイッチする種族は案外ありふれている可能性がある。
にしても霧と毒を吸えるとはどういうことか。口ぶりからして、ローパーという種族が持つ基礎的な力のようだが。
「儂の種族、ローパーてのはいろんなモンを触手に吸わせて自分のもんにできんのよ」
「かなり強力じゃないか」
「それがのう、やっぱり何事にも限界ってものがあんのよ。沼がダメなのも片端から吸って満杯になっちまうからじゃ」
なんと。では吸収行為が半強制なのか。自分でコントロールできないとなると確かにそれは少々厄介だな。
最強の力に思える吸収も、無差別で発動するとなれば必ずしも有利に働くとは言えないか。
吸収容量に限度があるとなればなおさらだ。沼というフィールドに向かう俺の依頼をまっさきに断った理由がよくわかる。
「やはりそう都合よくはいかないか」
「霧程度なら辺りを晴らし続けるぐらいはできるがの、足場が沼じゃ無理無理」
強そうだと思ったのに。
いや、だとしても面白い特色だ。
触手の数だけいろんな毒を吸わせて保持できたりするのだろうか?
これはかなり興味深い種族だ。沼という環境のミスマッチさえなければ、ぜひとも同行して欲しかったくらいだ。
と、俺は紐爺との縁が無かったことを惜しく思っていたのだが、彼の方が切り替えが早かった。
「あとのことは、お若いお二人さんでな」
話はここまでだと言わんばかりに手を振り、隣に座る少女に関心が行くように水を向けたのだ。
最後の一人は赤ずきんの見た目をした少女。たしか名前はカノンといったか。
アグレッシブな外見をした今までの二人と比べると、ややパンチ力に欠ける見た目だったために印象に残りづらかった。
謎の湿っぽい熱気を放っていることがやや気になるが、赤ずきんという外見はオーソドックスな方だし。
「やっと私の出番かよ」
3人目ということもあって話しかけることに慣れ始めた俺だったが、最後の一人は自分の番を待ちかねていたらしい。
丸椅子に腰かけて待っていた赤ずきんの少女が深い溜息を付く。、
すると同時に、彼女は体のあちこちから白い蒸気を噴き出した。
熱気の籠る水蒸気で外套がめくれ上がる。
露わになったのはゴシック調のドレスとそこから露出した真鍮のボディ。
随所に蛍光色に発光する液体の満ちた容器があしらわれており、頭巾で覆われていた肩の片方には蒸気を吹き出す細いパイプ管群が天を向いていた。
「オートマタのカノンだ。黙って私を連れてけ」
なんと赤ずきんちゃんはスチームパンクなサイボーグだった。
よし、彼女をオーソドックスな外見と称したことは撤回しよう。
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