第54話 あくまで検証用

 一度プレイヤーから削除されただけあって、やってきたのは非常に癖の強い面々。

 実力は未知数だが、アクの強さは風貌は力強く物語っている。

 こんな場でもなければ、おっかないくて自分から声を掛けようなどとは思わないだろう。

 だが、俺はこいつらのうち一人を仲間として引き入れなくてはならないのだ。

 よく話を聞き、腕前を見抜かねば。

 まずは丸腰のスケルトン、『骨無双‐検証用tpye4 裏銀河』からだ。

 外見の最大の特徴はやはり、頭蓋骨が天球儀と半ば融合していることだろう。

 捨てキャラであることが名前でありありとわかる。このように自我をもって動き出した姿を思うと、あまりに事務的な名づけが不憫に思えてくるな。

 元の製作者が捨てたからにはコンセプトに何らかの問題点があったんだろうが、こいつはどういう傾向なのかね。

 

「沼探索の連れを探してる。何が出来る?」

「おれは星辰魔法専門だ」


 白骨のガイコツが細い手指を差し出すと、その手のひらの上にビー玉のような色とりどりの球体が出現した。

 大小さまざまな球体は、まるで小さな太陽系のようにおなじ中心軸で手のひらの上を円軌道に移動している。


「すまん、星辰魔法に詳しくない。どんな戦い方をするんだ」 

 

 初めてみるこのゲームにおいての魔法のすがたに密かに感動しつつスケルトンに問いかける。

 俺はまだこの戦闘における魔法の役割や活躍を見たことがない。魔法使いができる仕事がわからないのだ。

 土偶のシーラの眼光レーザーは魔法に分類されるわけではないようだし。

 まあこういったゲームにありがちな傾向として、MPのような本人以外不可視のリソースを消耗して行う遠距離攻撃手段だとは思う。

 そして魔法といえば特別な属性を秘めているものだ。炎や魔力など、近接で戦うには用意しにくい属性を扱える場合が多い。

 とはいえ星辰魔法という謎の多い名称。本人に聞かなければ、この魔法の概要はわからないだろう。


「戦いに関して表面的なことが知りてえなら、シンプルにデカい球体を呼び出してぶつける魔法だと思ってくれりゃあいい。魔法だが属性の介在しない、純物理の攻撃だ」

「なるほど。風を起こせるやつで募集を掛けたんだが、星辰魔法でも同じことができるのか?」

「あん? そりゃあ星を回しゃあ風くらい起こせるだろうよ」


 スケルトンは何を簡単なことをと言わんばかりにあっけからんと言った。それくらい出来て当たり前だと確信を持っている言い方だ。

 要するにいま手のひらの上でビー玉サイズの球体を衛星のように回しているのと同じことを、より大きいスケールの球体でやるのか。

 沼地は霧こそ濃いが開けた場所だし、周囲を星に回転させるのはできそうだ。いくつかの球体を高速で円回転させれば近くの霧くらいは晴れるかもしれない。

 というかそれだけで近寄ってきた敵もひき殺せそうだ。なんだかレトロなシューティングゲームのオプションアイテムを彷彿とさせるな。

 すごいぞ星辰魔法。まったく視野になかった戦法だ。


「いい機会だ、教えてやる。星辰魔法使いの強さを量る指標はいくつかがあってな。星の質や大きさにも練度が現れるが、一番は呼び出せる星の数だ」

「どれくらいの数が一般的なんだ?」

「ひよっこは1つ。熟練して3つ」

「へえ。じゃああんたは?」

「12」


 言うや否や骨の手の上を巡る星々がテニスボール大まで拡大した。

 とんぼ玉のように無数の色が入り混じった球体群は、その数を数えるとたしかに12個あった。

 熟練した星辰魔法使いの星の数が3というなら、上級者の星は5程度であって然るべきではないのか?

 いきなり数が飛び過ぎだろう。

 

「あー。つまり、お前が規格外という認識で合っているか?」

「ああ」


 一応、ウソをついている様子はない。

 というか懸念していなかったが、実力について虚偽の申告をされる恐れもあるのか?

 いや、そこまで気を回す余裕はないぞ。12の星を扱えるなんてド級の魔法使いが出てきたせいで急に信憑性が疑わしくなってしまったが、考えるのはよそう。

 貴重な上級魔法の使い手と巡り合えたと考えるべきだ。

 今のところかなり有能そうだしな。これからどう転ぶかわからんが、性格がヤバそうな兆候もない。

 

「6で銀河。12で裏銀河。星辰の学徒に与えられる称号だ。銀河はともかく、まともなまま裏銀河に至ったやつはまだいねえ」

「なら、お前もまともじゃないのか?」

「いかにも、俺が裏銀河の境地にいるのには訳がある」


 やはり。12なんて飛躍した数字が出てきたときに嫌な予感がしていたんだ。


「その訳とはなんだ」

「俺は生命力を消耗して魔法を行使する体質でな。戦ってるうちに自壊して死ぬ」

「……なるほど」


 大問題じゃねえか。


「付け加えるなら、ただ死ぬだけじゃない。派手に爆散して周囲の味方もろとも巻き込んで死ぬ」

「危険すぎる」


 訂正しよう、超・大問題だ。ピーキーすぎんだろ。

 今までの有能そうな雰囲気が全部帳消しだよ。

 

「これも星辰魔法の一つだ。自らの運命を星の終末に見立てることで、星辰魔法への適正を強引に引き上げている」

「それで自爆してちゃあ世話ないだろうが」

「だが、対価に手に入れた力は絶大だ」

「むぅ」


 それを言われると反論しにくい。事実、このガイコツはそれで数少ない裏銀河に至っているわけだし。

 このキャラが検証用と銘打たれ削除された経緯がちょっとだけわかったぞ。

 実用性を全てかなぐり捨てて、とにかく上級の星辰魔法を使ってみるために作られたキャラなんだ。

 リソース確保のために体力を消耗するのまではともかく、味方を巻き込んで自滅するのはあまりに実用性に欠く。


「まあ、あんたのことはよくわかった。今回は探索も兼ねていてな、あんたは長期戦には向かないから趣旨には合わん」

「そうかい。ま、そんな気はしてたぜ。星とその爆発が必要になったらまた呼んでくれや」


 一人目、星辰魔法使いの『骨無双‐検証用tpye4 裏銀河』との相談は破談となった。

 どうしても倒せない強敵相手に玉砕覚悟で突撃するにはアリかもしれないが、今は仲間にするには憚られる。

 リリアというトレードオフの人物も同行するわけだし、爆発に巻き込まれたら大ごとだ。

 自滅を代償に至ったという星辰の上級魔法を一目みたい気持ちもないではないが、今回は縁がなかったな。


 残る二人もこんな短期決戦用のやけくそビルドじゃないだろうな?

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