第53話 仲間をもとめて

 切り札となる攻撃力を入手したあと、俺が考えたのは更なる戦力の増強だ。

 ドーリスの情報で湿地に充満している霧への対策に、風を起こす魔法が効果的だというのがわかった。

 となると迷うのは、それをどうやってその手段を用意するか。

 迷っているのは用意する方法ではなく、どの手段を選ぶか。

 最も手堅いのはドーリスが勧めたように店でスクロールを購入すること。

 俺の懐が痛むという点に目を瞑れば、明らかにこれが選択肢として丸い。

 本当に冷静で堅実に事を進めるのであれば、スクロールを買うべきだ。

 

 だが、俺はもう一つの方法にどうしても魅力を感じざるをえなかった。

 ドーリスが提案したもう一つ。それは、風を起こせる仲間を連れていくことだ。

 どうしてこちらの提案に魅力を感じるかについては、それは"提示された新しいシステムを試してみたい"というゲーマーなら至極当然の習性が悪さしている。

 すなわち、『忘我サロン』の存在。

 

 酒場に寄って同じプレイヤーを探し、仲間として募集するのとは違う未知がそこにはある。

 忘我キャラの集う謎の多い施設だが、だからこそ情報がまったく出そろっていない。

 ドーリスですら部分的にしか知らないとなれば、あれを利用できるプレイヤーはごく一部と思われる。

 気になる。

 どんな性格、風貌のキャラが飛び出してくるか興味が湧いてしまっているのだ。

 間に仲介人へ手数料を支払うくらいだから、仲間にするやつにある程度の注文は付けられるはず。

 

 他のプレイヤーとパーティ活動してる際は利用できないらしいが、リリアはNPC側だから問題ないはず。 

 踏み入るエリアの下見は十分すぎるほど行ってあるし、敵の傾向も把握している。

 忘我サロンを試すには絶好の機会。


 俺は悩みに悩み、一人では決めきれなかったためリリアと相談した。

 彼女の答えは『かまわん、好きにしろ』というもの。

 期せずして背中を押される形になった。

 あるいは同行者が増えることを嫌がって反発される可能性も視野に入れていたのだが、彼女は俺を信頼してくれているようだ。

 なればこそ、おかしなやつを仲間に引き入れるわけにはいかない。

 なにせ忘我キャラにはランディープという性格に問題のある前例がいる。

 あれは場合によっては大変危険な人格なので、あんなネジの外れた人物をうっかり仲間にしてしまわないよう注意しよう。

 あとは、エルフのリリアとの相性も加味する必要があるか。

 俺と同じような全身鎧のヤツは避けるべきだろう。上等な装備なら尚更に。

 

 忘我サロンは手数料を払う仲介人がいるだけあって、ある程度は人選に注文を付けられるはず。

 厳選するつもりもないが、ある程度は見繕ってもらおう。

 いいのがいなきゃ諦めて風魔法のスクロールを買えばいいだけのことだしな。

 そんな楽観もありつつ、俺は忘我サロンへと足を運んだ。


「風が起こせて、毒に強い仲間を探してる。いるか?」

「仲介料を払え。初回だからサービスしてやる、500ギルでいい」

「おう。意外と安いな」

「サロナーとの契約料が別料金なのを忘れるなよ。待っていろ、裏にいる連中を呼んでくる」


 明かりの少ない酒場で、浮かぶ極彩色の大仮面と話す。

 仮面の放つ太く低い男声は、妙に仮面の風貌と、そして不気味な酒場の雰囲気にマッチしている。

 仲間の条件にはもちろん毒対策の注文を忘れない。せめて沼地の毒霧の対策は自力でできる人物じゃないと困るからな。

 ガスマスクをもう一つ用意する手間も時間もリリアに取らせたくはない。

 必然的に呼ばれる面子は無機物系統のキャラクターが多くなるだろうか。

 さて、あの仮面はどんなヤツを連れてくるだろうか。

 

 俺の総資産は5万程度。さすがに全額突っ込みたくはない。

 突っ込みたくはないが、予算として全額使用まで想定している。予算はサロナーに用意する回復アイテム分も込みだ。

 相場はさっぱり。だが、よほど魅力のない変なのが出てこない場合を除き、俺はサロンの利用する気でいる。

 というのも、俺はエトナが修理と武器の提供を無料で請け負ってくれている都合上、金を貯める必要性があまりないのだ。

 そう、俺は現状このゲームの通貨に明確な使用用途がない。

 少し前まではドーリスから頂いた情報代で鎧や武器を新調する気でいたのだが、それをするとエトナの機嫌を損ねることが判明したため無しになった。

 それこそドーリスから情報を買うのがメインの使い道か?

 

 ただ今回のサロナー契約で所持金を全て突っ込んだあげくうっかり変なスカポンタンを掴まされた場合、リリアと二人で攻略する用のスクロールを買う金額さえなくなる。

 さすがにそれはちょっとリスキーかなとも思ったが、金をケチってサロナーに半端な仕事をされるのも困る。

 だから忘我サロンを使うからには、金をケチるのはよそう。そうした決意を持って俺はここにやってきていた。 


「あんたの注文に該当するのはこいつらだ。交渉は手前がやれ」


 しばらくした後、仮面が引き連れてきた人影は全部で3つ。

 頭部が天球儀のガイコツ『骨無双‐検証用type4 裏銀河』

 縄を握る痩せた老人『紐爺』

 謎の熱気を放つ赤ずきんの少女『カノン』

 

 声を掛けんのが怖ぇよ。

 

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