第46話 弱点の在り処

 シャカシャカと昆虫のように蠢く足で急接近してきた汁の滴る不気味な一つ目キノコ。

 すごく嫌だが、耐久に優れ盾を持つ俺が前に出る。

 攻撃に適した器官をもたないように見えるが、一体なにをしてくる?

 警戒たっぷりに前に詰めると、キノコが瞼を閉じて目をつぶった。

 そして、頭を引いてから全力のお辞儀。

 それはズガァン! と轟音を伴った豪快なヘッドバット。

 

「重てっ!」

 

 沼の岸に小さなクレーターを生み出し、周囲に礫を巻き上げるほどのインパクト。

 なんちゅう重さ。今まで受けた攻撃の中では、レシーの杭打ちのような突き蹴りに次いで重厚だった。

 が、盾があれば真正面からでもかろうじて盾で受けきれる。

 そして目の前には土下座のような姿勢で大地に突っ伏した無防備なキノコの後頭部。

 しめた、遠慮なく剣で斬りつけてやる。

 後ろに控えたリリアも俊敏に踏み込み、側面から突きを叩き込んだ。

 

「ダメだ滑る!」

「私のレイピアも刃が通らん!」

 

 が、キノコの頭が想定より硬い。

 深く斬りつけたつもりの刃は傘の表面を滑ってしまい、ダメージを与えらなかった。

 元来の堅さに加えキノコの頭部が汗のように分泌している潤滑液に邪魔されてうまく切り裂けなかったのだ。

 くそ、刃が通らなければ腐れ纏いの毒も意味が無い。

 リリアが狙ったキノコの軸も樹の幹のように堅牢だったらしく、切っ先が弾かれているのが見えた。

 必殺のチャンスかと思われた隙を俺たちはみすみすと逃し、ずしっ、と目玉キノコが巨大な頭を上げる。

 真正面にまだ俺がいることを確認したキノコは、再び頭を振りかぶった。

 頭の位置が側面にずれている。となると今度は振り下ろしではなく薙ぎ払うようなスイング。

 リリアが巻き込まれないように肩で突き飛ばし、正面から防ぐ。

 

「うぉ!?」


 が、盾で受け止めきれなかった。勢いを殺しきれずに後方へ吹き飛ばされる。

 手に持つ盾を取り落とさなかった俺の根性を誰か褒めて欲しい。

 ……なんてことを言っている場合ではなさそうだ。

 目障りな盾役を引き剥がしたキノコの一つ目がぎょろりとリリアを捉え、わさわさと足を動かして間合いを詰めにかかっているのが見えたからだ。

 

 リリアの投擲ナイフによって不意打ちされたことを根に持っているのか、キノコのヘイトはリリアに向いているようだ。

 立ったままのキノコが頭頂部をリリアに向け、ぐんっと素早く突き出す。

 反射的に飛び退いて躱すリリアだが、キノコは嘴でつつくような動作で何度も何度も頭を突き出し執拗にリリアを追った。

 

 ヤツが大地を突くたびに足元が揺れる。そのせいで吹き飛ばされて不安定な俺の姿勢が崩れ、思うように駆けつけられない。

 そうしている内にもキノコの攻勢は止まらない。

 軽快なステップで間合いを保つリリアだったが、徐々に岸に追い詰められ、とうとう沼に足を踏み入れてしまったのが見えた。

 まずい、ああなっては沼に足が取られて攻撃をかわせない。

 目ざとくリリアの動きが鈍ったのに気づいたキノコが、ひと際強く頭をのけ反らせた。

 まずい、デカい一撃で叩き潰す気だ。

 せめてキノコの関心をこちらに向けられればと思うも、俺に遠距離攻撃手段はない。

 見ているしかできないのか? いいや。

 

「そのための絶!」


 位置関係を無視して弾丸のように射出される俺のローリングソバット。

 絶のスキル効果により俺の座標が適正な距離になるように強引に修正され、のけ反っていたキノコの軸に俺の足がぶち当たった。

 キノコは攻撃の寸前で不安定だったか、沼に向かって景気よく頭からぶっ飛んでいった。

 

「助かった!」 

 

 さっき偶然思い出したレシーの杭撃ちのような蹴りの真似だ。威力は実証済み。

 沼に露出している大地は湿地よりやや硬い程度。勢い余って着地に失敗してしまったが安いもんだ。

 もう転ぶリリアを笑えないな。

 とか思いながら寝そべった姿勢でキノコの行方を確認すると──。

 

「おい、突き刺さっているぞ」


 なんとキノコは上下逆さまになって頭から沼に突き刺さっていた。

 必死に復帰しようと軸をくねくねさせているが、どうも抜けそうにない。 

 

「傘の裏は柔らかいんじゃないか?」

「試してみる価値はありそうだ」 


 即決したリリアが躊躇いなくキノコに飛び掛かり、傘の裏側からレイピアを突き刺す。

 切っ先はあっさりと突き刺さり、キノコは次の瞬間にはポリゴン化していた。

 

「キノコ狩りの方法、見つけたな……」 


 ドーリスに話したら高く売れそうだ。

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